「生前贈与」は相続税対策として有効である一方、税務調査で指摘されがちな事項でもあります。どのような場合に申告漏れと見なされるのでしょうか? 本記事は、『[改訂二版]相続税の税務調査を完璧に切り抜ける方法』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

調査官は重加算税をかけたがる
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
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「贈与」の成立には、贈与者・受諾者の合意が不可欠

贈与で一番問題になるのが、「単に親族の名義を借りた預金なのではないか?」ということです。「贈与」と主張してはいるけれども、実態は単なる名義預金と変わらないと判断されることが多いのです。

 

というのも「贈与」というからには、一定の条件を満たした「契約」でなければならないのに、契約の体をなしていないことがしばしばあるからです。

 

そもそも、契約とはどのようなものなのでしょうか。それは一言でいうと「双方の合意がある約束」となるでしょう。契約は一方の意思だけで成立するものではなく、必ず双方の合意が必要なのです。

 

ですから、年間110万円の基礎控除額内でのお金の移動について、あげる側が「あげますよ」という意思を示し、それに対してもらう側が「もらいますよ」と受諾をしていなければなりません。では、どのような場合なら贈与として認められ、どういう場合は認められないのか、ケーススタディーを見ながらご説明しましょう。

 

贈与の実態が伴っている必要
「あげますよ」「もらいますよ」という双方の合意=「実態」が必要

贈与か名義預金か…事例から学ぶ税務調査官の判断

ケーススタディー① 子どもたちが贈与の事実を認識していなかった場合

 

3人の子どもを持つAさん(男性)はそれぞれの子ども名義の口座を作り、そこに毎年一定の金額を入金していました。基礎控除額の範囲内の金額だったので申告はしていませんでしたが、10年経ったらそれぞれ子どもたちの名義で1,000万円ずつの預金ができあがっていました。

 

Aさん自身は、子どもたちの驚く顔が見たかったので、このことは内緒にしていたのですが、その喜ぶ顔を見る前に、Aさんが死去。相続が発生してしまいました。

 

子どもたちは1,000万円の預金を見て驚くとともに父親に感謝しましたが、相続税の申告が終わって1年半も経ったころに税務調査が入り、この預金について「贈与ではなく名義預金」という指摘を受けました。

 

税務署の調べたところでは、子どもたち名義の口座を開設したときの書類の筆跡がすべてAさんのものであり、印鑑もすべてAさんが使用していた印鑑を使っていたことが分かったのです。その事実を指摘され、経緯の説明を求められた子どもたちは返答に窮し、その預金の存在を子どもたちが知らなかったことが判明。結果的に、先ほどの「双方の合意」が認められなかったのです。

 

父親の愛情に端を発した預金でしたが、税務調査により「ただの名義預金」とされて、すべて相続税の対象になってしまいました。

 

ケーススタディー② 夫婦間に贈与の合意があった場合

 

Bさんは毎年妻に「贈与するよ」と口頭で伝え、妻の口座に、生前贈与として100万円以上のお金を入金していました。

 

妻は夫が自分の口座にお金を入れてくれていることを知っており、贈与税がかかる年は自分で贈与税の申告も行っていました。また、通帳やキャッシュカード、印鑑などは自分で管理し、たまにお金を下ろして趣味などに使っていました。

 

Bさんが死去するまで、15年間にわたって入金し続けてくれたので、ときどきお金を下ろしていたとはいえ、口座には相当な金額が残っていました。

 

このケースでは、夫婦間に「あげるよ」「いただくわ」という合意があり、通帳等も妻自身が管理していたこと、さらには贈与税の申告も行っていたことから、生前贈与として認められ、相続税の対象にはなりませんでした。

 

ケーススタディー③ 未成年の孫への贈与で親権者の合意がある、なしの場合

 

Cさんの長男と長女には、それぞれ2人ずつの子どもがいます。4人の孫たちはいずれも未成年なので、Cさんはゆくゆく教育資金が必要になるだろうと考え、生前贈与のつもりでそれぞれの孫たちの口座に、毎年120万円を入金するようになりました。

 

「なぜ、120万円なのか?」これには理由があります。先にも述べましたが、贈与税の基礎控除額は年110万円です。その控除額を10万円超えることで、1万円の贈与税を納めることになります。つまり、贈与税を納めることで、その実態を残すことを目的としているのです。

 

そのように税務署を意識して、贈与を行ったにもかかわらず、長男と長女とで、Cさんとの関係性に違いがあったことが、後に明暗を分けることになったのです。

 

長男とは日頃から仲が良く意思の疎通ができていたため、Cさんは「2人の孫に毎年120万円ずつお金をあげる」と申し出て、長男もこれを受諾していました。2人の孫名義の通帳と印鑑を、親権者である長男に託し、孫2人の毎年の贈与税の申告も長男が行っていました。

 

ところが長男とは裏腹に長女とCさんの関係は、長いことしっくりいっていませんでした。隣の市に住んでいるにもかかわらず、長女は年に1~2回程度しか実家に顔を見せません。

 

Cさんは長女の金銭感覚に不安があったので、孫に残してあげるつもりのお金を長女に使い込まれては大変と思い、孫名義の口座に毎年120万円を入金している事実を知らせないことにしました。

 

2人の孫には、成人したときに直接、通帳と印鑑を渡すつもりで、どちらもCさん自身が管理し、毎年の贈与税の申告もCさんが行ってきました。

 

しかし、Cさんに突然の事故が起こり、亡くなってしまったから大変です。長男の孫たちにあげたお金は、孫たちの親権者である長男の同意があったので、生前贈与が認められましたが、長女の孫たちに残したお金は、孫の親権者である長女との間の「あげる」「もらう」の意思の確認がなく、なおかつ、孫たちの通帳や印鑑がCさんの書斎から見つかったため、税務署から名義預金という指摘を受け、贈与が認められず相続財産になってしまったのです。

 

このように、贈与の相手が未成年者の場合は、親権者の同意が必要です。それがなければただの「(未成年者の)名義を借りた預金」になってしまいます。贈与税の申告をしたから大丈夫というのは、誤った解釈です。

 

Cさんが毎年納めていた長女の孫たちの贈与税も、「納めなくていい税金」、つまり単なる誤納だったというわけです。もちろん、この税金は、更正の請求をすれば過去の一定期間分は戻ってきますが、すでに亡くなっているCさんにとっては、なんとも悲しい結果になってしまいました。

 

いかがでしょうか。これで贈与とは「単に相手のために良かれと思ってお金をあげること」ではなく、あげる側ともらう側の意思の確認ができていることが前提になっていることがお分かりいただけたのではないでしょうか。税務調査で「名義預金」と言われないためにも、実態のある贈与を心掛けたいものです。

「契約書」を交わし、客観的な証拠を残すと安心

贈与の条件となる「あげるよ」「もらうよ」という意思の確認は、基本的には口約束でもかまいません。それで、民法上の贈与は成立します。要は意思の確認という実態が伴っていればいいのです。

 

しかし、相続が発生したあとのことを考えると、「あげる側」の人がいなくなっているわけですから、何か客観的な証拠となるものが残っているほうが問題は起こりにくくなります。贈与を受ける人(受贈者)が未成年者の場合は、親権者が贈与について同意する内容の契約書を交わし、保管するようにしてください。

 

先にも紹介したように、わざわざ贈与税を納めるような渡し方をしていたとしても、親権者の同意(受諾)があるかないかで明暗が分かれてしまうこともあり得ます。ただ、契約書があれば、そのような心配に煩わされることもありません。

 

また、たとえ親族間で仲が悪かったなどの事情があるとしても、贈与には「あげる」「もらう」という関係から、受贈者(もらう側)には、少なからず感謝の念が湧いてくるでしょう。また、それが贈与を生前に行うことの大きなメリットとして挙げられます。

 

そう考えると、先のCさんのように、親子間が冷え切った関係になっていたとしても、贈与契約書を交わし、Cさんの思いをはっきりさせることがきっかけとなって、親族間の関係修復ができていたかもしれません。

 

 

服部 誠
税理士法人レガート 代表社員/税理士

 

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服部 誠

幻冬舎メディアコンサルティング

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