税務調査を録音することはできるか?
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
金融機関担当者との関係を安易にほのめかすことは危険
前回の記事、『税務調査「午前の部」…相続専門税理士が質問と回答を完全解説』では、税務調査において税務調査官が真っ先に聞いてくる質問とその意図、適切な答え方について解説しました。本記事でも引き続き、その問答の具体例と適切な対応方法を紹介します。
銀行・証券会社などとの付き合いや、担当者の自宅への訪問
ある程度の資産を持っている人は、金融機関にとっては大事なお客さまです。当然、相続税の課税対象になるほどの財産を残した人であれば、金融機関の人との付き合いがあったものと調査官は考え、それについて質問をしてきます。
これについても前回の「預貯金は誰がどのように管理していたか」 と同様に、実際に会ったことがなければ「私は知りません」でかまいません。たとえ、面識があったとしても「お付き合いはあったかもしれませんが、金融機関の人に会っていたのは故人だけです。私は一度も会ったこともないし対応もしていません」と言われてしまえば、調査官は、それ以上の追及はできません。
このとき、ついうっかりと「ええ、よく来ていましたよ」などと事実と異なる安易な答え方をしてしまうと、調査官に突っ込みを入れる材料を与えることになるということです。
転勤先の口座や口座複数持ちは「預金隠し」疑惑の種
遠方の預金口座がある場合、口座開設の理由について
前回の「転居・不動産の売買について」とも関連することですが、サラリーマンで転勤が多かった人によく見られるケースです。給与振り込みや光熱費などの引き落としを便利にするために、赴任先の近くで口座を開設して、そのままになっているということがままあるのです。
ただ解約を忘れただけで他意はなくても、税務調査上は預金隠しにつながるものになるので、必ずマークされます。事前にきちんと答えられるよう確認しておきましょう。
また、身内に金融機関に勤めている人がいて、その人の成績に貢献するために、複数の口座を開設していたというケースもあります。
相続人である娘さんの夫が銀行員で転勤を繰り返し、成績アップのために赴任先で複数の口座を開設していた、などといったことも考えられるのです。
申告書を作る際には、私のほうでもいろいろと質問をし、調べられる限りは調べるのですが、相続人自身に正直に話してもらわないことには限界があります。調査当日に初めて聞かされたのでは、こちらも手の打ちようがありません。
そして、家族にとっても後味の悪い思いをしてしまいます。預貯金については、どんなに隠そうとしても絶対にバレてしまいます。くれぐれも隠し立てはしないようにしてください。
「ボケちゃって…」は申告漏れ確定のNGワード
死亡原因や病歴、入院時の本人の状況について
亡くなる直前のお金を誰が管理していたかということを、調査官は知りたがります。闘病期間中に家族が本人名義の預金を引き出すのはよくあることですが、これは「本人の意思によるもの」であることが必要です。
本人の意思で引き出して使ったというのであれば何ら問題はありませんが、本人の意思そっちのけで家族が勝手に引き出して移し替えたり勝手に使ったということになると、いろいろな問題につながります。
ですからこの手の質問に対しては、あくまでも「本人の指示に従って家族が動いていた」ということを強調して答えるようにしましょう。
意識不明のこん睡状態に陥っていたら、「本人の意思で」と押し通すのは無理ですが、そうでなければ「体は自由にならなかったけど、意識はちゃんとありました」「まだらボケの状態ではありましたが、お金のことになると人任せにしたくなかったみたいです」「本当は本人が銀行に行きたがっていたんですが、そうもいかずに家族が代理で行って、お金を引き出してきました」と事実を基に答えるようにします。
税務署が主治医にまで病状を確認することはよほどのことがなければありません。あくまでも亡くなった人の指示であったという事実を伝えることが大切です。
「奥さん、長い間大変でしたね。亡くなる前は特に大変だったでしょう」と、ねぎらいの言葉を調査官からかけられて、つい、「そうなんです。亡くなる半年も前からすっかりボケちゃって、最後は何も分からなくなっていました」などといった会話は要注意です。ベテランの調査官はさぐりを入れてくるのが上手ですから気を抜かないようにしてください。
「勝手にお金を動かしていた」と思われる発言は危険
入院中のお金の管理は誰が行っていたか
前述と同様、この質問にもはっきりと「故人が自分で管理していました」と答えられると良いでしょう。本人以外にお金を動かしている人がいると、そのお金は相続財産として、申告漏れという問題につながる可能性があります。
たとえ闘病中であったとしても、多くの人は病気がかなり悪化するまでは「お金のほうは大丈夫か」などと口にすることが多いものです。そのような事実があった場合には「お金のことは本人もかなり気にしていて、病床から家族に指示をしていました」と答えられるといいかもしれません。
贈与額110万円以下は「もらった」という明言が必須
生前の贈与の有無について
調査官は事前に、故人の預貯金の記録はもちろん、家族の預貯金の残高まで全部調べてきています。そして亡くなった人の配偶者や子ども名義の預貯金があった場合「名義預金では?」という疑いをかけます。
名義預金は相続税の課税対象になりますが、そのことを知らず、故人以外の名義の預金は申告不要と思い込んで申告していないことがあり、その分がそっくり申告漏れになっているケースがままあります。
ただし、故人からもらったお金が「贈与」であれば、相続財産とはなりません。贈与税には毎年一定金額の非課税枠がありますので、金額によっては贈与税もかかりません。ですから、そのようなお金の動きがある場合において、「生前に故人さまから贈与を受けたことはありますか?」という質問に対しては、堂々と「あります」と答えるよう、お願いしています。
決して「内緒でこっそり作ったへそくり」という言葉を口にしてはいけません。へそくりの場合、贈与とはみなされず、お金の出どころは夫なので、夫の相続財産ということになってしまうのです。
贈与とは「あげる側」と「もらう側」の合意の上で成り立つもので、年間110万円までは課税されません。
「年間110万円を超える金額ではないので、贈与税の申告はしていませんが、毎年誕生日のプレゼントとして、現金をもらっていました。このお金は、それがたまった結果できあがったものです」と答えていただければ何も問題ありません。
間違っても「いいえ、贈与してもらったことはありません」と言い切ってしまわないように注意してください。
こう答えてしまうと、午後の調査で、通帳や有価証券類などの現物の中に、申告していない家族名義のものがごっそり出てきたときに、非常に困ったことになります。調査官は「贈与してもらっていないと言っていたじゃないですか」と突っ込んでくることでしょう。
この段になって、「忘れていました。これは贈与してもらったものです」と前言を翻すわけにはいきません。もちろん家族名義の預貯金に移ったお金などがない場合は「贈与の事実はありません」と、ありのままお話ししてかまいません。
故人が「遊び人」なら、行き先の分からないお金も納得
特殊関係人の有無
動きの読めない引き出し金の行き先として、ままあるのが特殊関係人です。「特殊関係人」というと響きがかたいですが、平たくいうと「愛人」です。調査官の口から「亡くなった方には、ご家族以外に生活の面倒を見ていた人はいましたか?」という言葉が出てきたら、すなわち「愛人はいましたか?」ということと考えて差し支えないでしょう。
もしそういう人が存在したとなると、動きの分からないお金はそこに行っていたのかな、という話になりますから、税務調査に限っていえば有利に働くこともあります。
繰り返しになりますが、こと相続に関しては、遊び人でハチャメチャな人のほうが、税務署に対してお金の説明はしやすいものです。遊び人だった人には、お酒・ギャンブル・女性と、お金をつぎ込む先がたくさんあります。お金がごそっと下ろされていたとしても「ああ、そういうことか」となるので、行き先の分からないお金の説明がしやすくなります。
健全で真面目、品行方正となると、「そんなきちんとした人がこんなにたくさんのお金を突然下ろすなんて、いったいどこに使ったんでしょうね?」ということになり、説明に困るのです。
服部 誠
税理士法人レガート 代表社員/税理士
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