「相続税の税務調査」に 選ばれる人 選ばれない人
>>1月16日(木)開催・WEBセミナー
税務調査の流れは、午前中ヒアリング・午後現物確認
税務調査の当日、通常は朝10時にスタートし、正午時から1時間の休憩時間をはさんで午後4時ごろに終わります。
なぜこの時刻に終わるかというと、調査官たちはその日のうちに調査結果を報告しなければならないからです。税務署に戻って上司に報告するには、午後4時には一通りの調査が終わっている必要があるのです。
筆者のほうからも、最初に「午後4時には終えるようにしてください」とお願いするようにしているので、夜遅くまでかかるということはありません(ただし、資料調査課の調査はそうはいきませんので気をつけてください)。
なお、調査官の真剣度は時期によって違うことがあり、4月以降の税務調査であれば、調査官のテンションが若干下がるため、まれに午前中だけで終了するというケースもあります。
税務調査は、午前中にヒアリング、午後からヒアリングを基に通帳や証券類など、現物の確認という形を取ることがほとんどです。
たいていの調査官は紳士的ですから、それほど怖い思いをすることはないはずですが、多くの人にとって初めての経験なので「何を聞かれるのか心配で仕方ない」という声がよく聞かれます。映画やドラマで繰り返し描かれる、マルサのイメージで税務調査をとらえているためかもしれません。
また、怖いものではないにせよ、調査官が繰り出す質問に対して、「こういうふうに答えたほうがいい」とか「こんな答え方をすると、調査官に突っ込まれる材料を与えるようなものだからやめたほうがいい」といったことがあるのも事実です。
具体的にどんな質問があるのか、その質問が意図しているのは何か、どう答えるのが適切かを理解している、いないでは、安心度が違ってきます。
親族の預貯金についも、調査官はすでに調査済み
では、ここからは、午前の部で行われるヒアリング調査での個々の質問と、それにどう対応すればいいかを、順を追ってご説明していきましょう。筆者が30年超の税理士人生で培ってきた税務調査に対応する万全マニュアルです。
親族の状況について(氏名・年齢・職業・年収・所有不動産の有無)
調査官が一番初めに確認してくるのが、どんな親族がいて、現在どのような状況にあるかということです。
親族の範囲については、税務署側は亡くなった人を中心に、戸籍を調べて親族の家系図を作るなどして、すでに把握しています。これには子どもたちやその連れ合いという近親者だけでなく、甥や姪、さらにはその連れ合いまでが含まれます。
まずは自分たちが作ってきた図表と、相続人の認識している親族に整合性があるかどうかを確認してから、親族一人ひとりについて「この○○さんはどこに住んで、どんな仕事をしていますか?勤務先は?年収はいくらくらいですか?不動産は所有していますか?」といったことを聞いてきます。
実は調査官は親族の預貯金についても、すでに銀行で調べてきています。預貯金の額はもちろん、大きな入出金についても把握していると考えてください。
勤務先や居住地、不動産の有無などを尋ねることで、「収入と財産・預貯金のバランスが不自然ではないか?」「亡くなった人の財産がその人まで流れていることはないか?」と疑わしい点をピックアップしようとします。
例えば、その人の勤務先の給与水準に比べて、かなり高額なマンションに住んでいるような場合、そのお金がどこから出たのかを知ろうとします。「もしかしたら亡くなった人の財産から流れているのではないか?」と推測するのです。
最初にこのような確認をして不審な点を洗い出しておき、あとから亡くなった人の行き先が分からないお金が出てきたとき、結び付けて深掘りするのです。かといって、過剰に恐れを抱いたり、用意周到に答えを準備しておく必要はありません。ご自分が知っていることだけを、ありのままに答えてくださってけっこうです。
亡くなった人の学歴や職歴について
学歴や職歴は、その人の財産形成に大きく関わってくるものです。そこで、税務調査でも必ず、亡くなった人がどんな学校を出て、いつ仕事についたか、勤務先や仕事内容、どんな役職についていたか、転職はしているか、いつ退職したかということについて尋ねてきます。
ここで聞いた経歴を基に、収入と財産のバランスが取れているか、その人のキャリアには見合わないようなお金の動きがないかどうかを確認しようとするのです。
自営業の人なら、事業がうまくいったときに多額の入金があってもおかしくはないですが、サラリーマンだった場合、退職金以外の大きな入金は「どうしてこの時期にこんなにお金が入ってきたんですか?」と不審に思われます。
このサラリーマンの場合、もっともマークされるのが退職の時期です。退職金としてまとまった金額が入っているはずなので、それをいつどこでどう使ったか、あるいは預貯金として残っているか、銀行の調査結果と突き合わせて整合性があるかどうかを判断します。
亡くなった人の経歴とはマッチしない多額の入出金があるような場合は、チェックしておいて午後の調査で追及する材料にします。
転居・不動産の売買について
人は自分がよく知らない場所の土地や家を買うという冒険はまずしないものです。不動産の売買は、土地勘のあるところで行われるのがほとんどと言っていいでしょう。
亡くなった人がサラリーマンだった場合、調査官は「転勤先で不動産の取引をしていたのでは?」と考えます。
そこで「生前に何回転居しましたか?転勤先で不動産を購入したことはありますか?」という質問を投げかけてきます。
もしあれば、転居時にその不動産をどうしたのか、売却したのか、保有したままなのか、売却した場合はその代金はどうしたのか、使ったのか預貯金になっているのか、という点についても尋ねてきます。つまり、そこに申告漏れが生じている可能性があるとにらんでいるわけです。
なお、転勤があった場合、赴任先近くの金融機関で口座を開いていることはよくある話です。しかも赴任先から戻るときに解約せず、そのままになっていることもあり得ます。
亡くなった人に転勤が多かった場合は、そのあたりも詳しく聞かれると思ったほうがよいでしょう。
趣味についても、かなり突っ込んだ質問が…
亡くなった人の趣味
人は自分の好きなものに対して、お金をかけることをいとわないものです。また、同好の士を求めてともに趣味を楽しみたい、交友を深めたいという気持ちを持つのも自然なことです。
調査官は、被相続人に趣味があった場合、趣味そのものにお金が流れ、さらには同好の士との付き合いにも流れ込んでいると考えます。このため、税務調査では亡くなった人の趣味について、かなり突っ込んだ質問をしてきます。
例えばゴルフが趣味だった人については、ゴルフ場の会員権を持っているか、持っていればその取得金額はいくらだったか、売却していたらその金額はいくらだったか、売却代金はその後どうしたのか、ということを尋ねてきます。
リゾート施設の会員権を持っている場合も同様です。コレクションしているものがあれば、その購入金額、時価総額がどれくらいかなど。書画骨董などでいかにも高額そうなものだと、鑑定に回される場合もありますが、デパートで数万円で買ったものなどは、動産一式として評価されるので、他の財産に比べてさほど問題にはなりません。
旅行やギャンブルが好きだったというのは、税務調査上はかなり有利です。というのも旅行やギャンブルの支払いは現金で行われることが多いので、銀行口座に預金引き出しの記録はあるけれども、引き出されたお金がどこに行ったか分からないという場合、非常に説明しやすくなるからです。
海外旅行が好きで「一族郎党引き連れて豪遊するのが好きでした」などと説明することができれば「なるほど、この多額のお金はそこで使ったんですね……」と納得してもらいやすくなります。
ギャンブルも同様です。「競輪・競馬・パチンコなどが大好きで、しょっちゅう行っていました。でもほとんど負けていたみたいで、ずいぶんムダなことにお金を使うのねえって家族全員あきれていたんです」というような話ができれば、調査官も諦めざるを得ません。
ただし、だからといってまったくのでっち上げは見抜かれてしまいます。実際に旅行が好きだった、ギャンブルにはまっていたという事実があり、それを多少膨らませて言うくらいは仕方ないとしても、まったくのウソはいけません。人の顔色からウソか本当かを見抜くことに長けているベテラン調査官の目はごまかせないものと心得てください。
旅行好きな人は、記録として写真を残しているもので、「それでは写真を見せてください」といわれることもあり得ます。また、パスポートの確認を求められることもあります。
このようなことから、亡くなった人が旅行好きだった場合、あらかじめ「旅行の写真を整理しておきましょう」とお願いすることもあります。
あとから詳しくご説明しますが、愛人の存在なども「よく分からないお金の行き先」を説明しやすくするものの一つです。
総じて税務調査に関しては、ハチャメチャな遊び人と評判だった人のほうが楽な場合が多いものです。一番困るのは、真面目で品行方正、かつ日頃のお金遣いもきちんとしていた人です。こんな人があるときごっそりと預金を引き出していた、となると説明に困ってしまうのです。
生前の生活費について
調査官は、生前に通帳から毎月引き出されている金額が、月々の生活費と比べて妥当なものかどうかを判断するために、生前の生活費がどれくらいかかっていたかを尋ねてきます。
毎月の引き出し額と、食費や日用品費、交際費、医療費などの生活費とのバランスが取れていれば問題ありませんが、引き出し額の割に生活費としてかかっていた金額が少ないということになると「それではその差額はどこに行ったんですか?」と突っ込まれます。調査官としては、最もチェックを入れやすいのが家族名義の預金なので、「そのお金はご家族の口座に入れたのではないですか?」と追い打ちをかけてくる場合もあります。
つまり、その差額は奥さんの、あるいは子どもの預金口座にこっそり入れられていて、相続財産になっているのではないですか、という方向に持っていきたいのです。ですからこの質問には、「それ相当の生活費はかかっていました」と説明しておくのが賢明です。
例えば「毎月の生活費は20万円でした」と言ってしまうと、調査官はたちまち、年間240万円、直近10年間というスパンで見てもトータルで2400万円だな、と計算します。「それなのに毎月の通帳からの引き出し額は40万円もありますね。残りの20万円はどこにどう使ったんですか?」という話になってしまうのです。
行き先不明のお金がある場合は、生活費や遊興費でけっこうかかっていたことを強調し、引き出し額との整合性を持たせるようにしておいたほうがいいでしょう。お客さまとの税務調査前の打ち合わせにおいては、過去の預金通帳の動きを一緒にチェックして、お金の引き出し額に沿った形でお客様自身が説明できるよう、確認しています。
「主人が元気なときは何かと出費がかさみ、毎月○万円くらいはかかっていましたよ……」と、さらりと言っていただくといいかもしれません。また、亡くなった人がグルメだったとか、お酒が好きだったという場合は、そこを強調してもらうようにしています。
「高価なものをよく取り寄せて食べていた」とか「ワイン好きでありとあらゆるワインを試していた」など、具体的なエピソードを挙げることができれば、説得力がアップします。
預貯金は誰がどのように管理していたか
「預貯金の管理は誰がしていたか」、これは、亡くなった人の通帳の現物を見て確認するときの、布石としての質問です。
ここで家族が「私です」と答えてしまうと、通帳確認で大きな入出金の記録が見つかったとき「ではこれは何のために使ったんですか?」と突っ込まれてしまいます。このとき、お金の流れについてきちんと説明でき、調査官を納得させられればいいですが、そうでないと厄介なことになります。
「その入出金については分かりません」と押し通そうとしても、「おや、おかしいですね。この通帳はあなたが全部管理していたはずですよね?今になって『私は何も知りません』というのは、話が違うんじゃないですか?」と追及されてしまいます。
ですから、亡くなった人の通帳に関して、分からないことがあるようであれば、「それを管理していたのは故人であり、自分は月々の生活費をもらうだけだったので、そのお金については知りませんでした」というふうに正直に答えるのが得策です。
実は税務調査が入った段階で、税務署はすでに預貯金について、いつどれだけの金額が引き出されたか、あるいは入金されたかということを全部把握しています。こちらも驚くほど詳細に調べてきているので、あとは「その入出金の事実を家族は知っていたのかどうか」を確認したいだけなのです。
ですから「相手は何もかも知っている」ということを念頭に置いて、自分にとって不利にならない答え方をするのが大切になってきます。
実際には、亡くなった人の妻が実質的に通帳を管理していたケースであったとしても、「私はタッチしていないので、通帳の内容については全然分かりません」と言われてしまうと、調査官としては、それ以上はなかなか追及できないのではないでしょうか。
次回も引き続き、税務調査における具体的な質問とその対応について解説します。
服部 誠
税理士法人レガート 代表社員/税理士
服部誠税理士登壇!「相続税の税務調査」セミナー
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