任意のはずだが…税務調査を「受けたくない」が通用しないワケ

調査官は実に巧妙に重加算税を取れるような質問をしかけてきます。「ついうっかり」で調査官の思うツボになってしまい、重加算税がかけられてしまうケースも少なくありません。数は少ないとはいえ、調査官の中には性悪説をむき出しにして「何か隠してるんだろ」というような態度で向かってくる人もいます。法改正によって申告件数が増え、さらに内部手続きが複雑になった今、税務署側は調査官の増員を図ってくるでしょう。本記事は、『[改訂二版]相続税の税務調査を完璧に切り抜ける方法』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

増差を狙ってくる調査官の心理

先ほど、税務調査の調査官には金額のノルマはないとお話ししました。ただし金額のノルマはなくても、調査官が税務調査によって見つけた申告漏れとなっていた相続財産の額は、しっかりと評価に反映されます。税務調査のあとに納める税金は、本来納付すべき税金と、すでに納めた税金との差額なので、「増差」という名で呼ばれるわけです。

 

もちろん増差の額は小さいよりも大きいほどいいので、大きな資産を持っている人に対しては、徹底的に調べることになります。そして、増差に付加される加算税の額は、「ついうっかり」の申告漏れで生じた過少申告加算税よりも、故意の仮装.隠ぺいによる重加算税のほうが圧倒的に大きくなります。過少申告加算税なら原則税率10%ですが、重加算税はなんと税率35%。つまり、25%の開きがあるのです。

 

当然、調査官は重加算税を課税したがります。例えば追加の本税が1000万円だった場合、重加算税ですと350万円もの額になってしまいます。これは、納税者からすれば、当然おいそれと払える金額ではありません。このときに問題になるのが、本来であれば過少申告加算税ですむものに、重加算税をかけてくるケースです。

 

詳しくは今後述べますが、調査官は実に巧妙に重加算税を取れるような質問をしかけてきます。それは、自分の成績アップにつながるからです。もちろん、税務調査を受ける側は、調査官のそのような意図など知るはずもなく、ついうっかりと相手にとって「待ってました!」というような答え方をしてしまうことがよくあります。

 

ここで一つその例を挙げるとすると、預貯金の漏れが見つかった場合、調査官は「この預金が漏れていますね。これは申告するときに『除外』しましたか?」などと尋ねてきます。このとき、ついうっかり「そうですね……」と答えてしまったら相手の思うツボです。この「除外」の意味するところは「申告納税額を少なくするために、意図的に申告しなかった(除いた)」ということになるのです。つまり、仮装・隠ぺいとして重加算税の対象になってしまうわけです。

 

調査官からしてみると「一丁上がり!」というところでしょう。私が立ち会った税務調査でも、そのようなシーンがありました。「この預金通帳は、申告のときに『除外』したんですよね?」と尋ねてくる調査官に対して、私は「それは言葉の使い方が違うんじゃないですか」と何度、言い返したことでしょうか(これはとても重要なことですので、今後詳しく説明します)。

 

ああだ
「ついうっかり」で重加算税をかけられてしまうケースも

 

重加算税については、事務運営指針の中で仮装・隠ぺいの定義から始まり、「こういうことに該当すれば重加算税になる」ということが詳細に説明されています。これに該当しない限り、重加算税はかけられないはずなのに、成績を上げたい調査官は、相手が税金の素人なのをいいことに、言いくるめようとすることがあるのです。

 

なお、1事務年度のうち、修正申告を早い時期に出せば出すほど、調査官の評価は高くなります。スポーツ競技のように、金銀銅によって評価の度合いが変わり、7~12月は金、1~3月は銀、4~6月は銅とされています。

 

なぜこのようなことをするかというと、税務調査の件数ノルマは、調査官個人のみならず部門ごとにかけられているためです。部門のトップの統括官としては、早めに件数をこなしておけばノルマを達成しやすくなると考えるのも無理からぬことです。そのため、金銀銅などと称しながら、調査官にハッパをかけ、意欲をかき立てているのです。

税務調査は「マルサ」ではない

ここまで税務署側の内情についてご説明してきました。では、一般の人は税務調査をどんなふうにとらえているのでしょうか。私のお客さまに、最初に税務調査の告知を受けたときの気持ちを尋ねてみたところ、「怖くて仕方なかった」という声が多く聞かれました。

 

これには映画やドラマに描かれる国税局査察部(マルサ)による強制調査の様子が強く影響しているようです。マルサは事件性があるため、映画やドラマの題材として面白いらしく、古くは宮本信子さん主演の『マルサの女』や、米倉涼子さん演じる『ナサケの女』、最近では2時間ドラマで人気の『税務調査官.窓際太郎の事件簿』(小林稔侍さん主演)などで、突然、大勢で押しかけてきて、あちこちひっくり返していく様子が描かれ、広く世の中の人たちに知られるようになりました。

 

ちなみに「マルサ」とは、査察の「査」を丸で囲んだ字からきた隠語で、『ナサケ』とは査察部の中の情報部門(情=ナサケ)を指す隠語です。しかし税務調査は、マルサや警察のガサ入れなどとは違います。マルサを行うのは国税査察官と呼ばれる人たちです。この人たちは裁判所の令状を持ってくるので、強制調査を行うことができるのです。

 

一方、通常の税務調査はあくまでも「任意調査」です。調査官たちは強制調査を行う権限を持っていません。彼らが持っているのは「質問検査権」だけなので、税務調査を行うには相手の承諾を必要とします。では、自分はどうしても税務調査を受けたくない、だから拒否したいといったら認められるのでしょうか。残念ながらそんなことはありません。

 

税務署側が日程を指定してきた場合、どうしても都合がつかなければ別の日に変更させることはできますが、「絶対にそんなものは受けたくない」と言っても通用しません。なぜなら、相続人には調査の受忍義務があるということが法律で定められているからです。任意調査とは名ばかりで、半ば強制調査に近い性質を持っているともいえます。裁判所の令状がないために、強制ではなく任意だというだけのことです。

 

この受忍義務には罰則規定もあり、税務調査を拒んだり虚偽の答弁をしたりすると1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることになっています。50万円の罰金で税務調査を受けなくてもよいのなら、そちらを選ぶ人もいるかもしれません。

 

ただ、相続税の税務調査が入るような人には、社会的な地位を持つ人や代々の地主さんなど地元の名士が多いので、まず家の名を汚してはならないと考えます。万一、受忍義務違反が周囲に知れて、家の評判を落としてしまっては大変という気持ちがあるためか、今のところ「絶対に受けない」と拒んだ人には会ったことがありません。

 

税務調査が怖いと感じるのは、映画やドラマの影響だけでなく、そもそも税務署に対していいイメージを持っていないこともあるでしょう。税金を喜んで納めたいという人はまずいません。できれば税金は納めたくない、なるべく安くすませたいというのが本音です。

 

それはあまり大きな声では言えない、心の中のダークな部分に位置しているのかもしれません。古代から人間の本質について、相反する「性善説」と「性悪説」の両方が考えられてきました。人は生まれつき良き性質を持っているとするのが性善説で、それとは反対に人は生まれながらに汚れた悪い心を持っているとするのが性悪説です。

 

税務署の仕事というのは、このうち明らかに後者=性悪説に基づいています。人は放っておけば税金をごまかすものだ、だから調査を入れてしっかりと監督しなければ、というのが根底にあります。

 

その上、税務調査は受ける側にとって不利なことはあっても、有利なことはありません。税務署員たちも、こうした世間一般の人が自分たちに対して抱いているイメージは分かっていて、よく「自分たちは招かれざる客だから」と自嘲気味に言っています。

 

さて、それでは調査官は怖い人たちなのでしょうか。結論からいうと、総じて怖い人たちではありません。たいていの調査官は紳士的で、物腰も言動も丁寧です。

 

ただし数は少ないとはいえ、中には先ほど触れた性悪説をむき出しにして「何か隠してるんだろ」というような態度で向かってくる人もいます。少々脅すようなことを書いてしまいましたが、ほとんどの調査官は常識的なきちんとした人たちです。仮に態度の悪い調査官がやってきたとしても、ベテランの税理士に立ち会ってもらえば、うまく対処してくれます。

相続税法改正で申告件数が増えるとどうなる?

平成27年の相続税法の改正により、同年以降の相続税の課税対象者が急増しました。改正前(平成26年以前)、相続税の対象となるのは全相続の4%程度にすぎませんでしたが、改正後(平成27年以降)は全国平均で8.0%以上となりました。東京都、神奈川県、千葉県、山梨県を管轄する東京国税局管内では13.6%(平成26年は7.5%)となっています。

 

また、相続税の申告件数は年々伸びているにもかかわらず、実調率は上がっていないのも事実です。これは、申告件数の増加に対して調査官の数が増えていないためでしょう。税務調査に入るには、きちんとした裏付けが必要です。「これ以上は、相続人に聞かないと分からない」というところまで調べ上げてから入ってきます。調査官にとっては非常に手間のかかる作業です。

 

法人税の調査の年間ノルマが20〜25件であるのに対して、相続税はその半分位の10~15件といわれるのも、それだけ相続税の調査は煩雑だからです。ただでさえ人手不足気味なところへ、法改正によって申告件数が増え、さらに内部手続きが複雑になった今、税務署側は調査官の増員を図ってくるでしょう。前にも述べましたが、定年年齢に達した税務職員が、定年で退職せず、職場にとどまる傾向がさらに高まるものと思われます。

 

 

服部 誠
税理士法人レガート 代表社員/税理士

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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税理士法人レガート 代表社員・税理士

昭和34年1月生まれ。中央大学商学部卒。昭和58年6月税理士登録。
人と人とのつながりを大切にした「誠実な対応」「迅速な対応」「正確な対応」をモットーに、税・財務の専門家として、個人の資産運用や相続・事業承継に関するコンサルティング、相続申告業務において多数の実績を持つ。相続申告・贈与申告・譲渡申告等の関与件数は1,200件を超え、その経験を基に全国での講演活動や書籍などの執筆活動も行っている。

著者紹介

連載資産税専門税理士が教える「税務調査対策」の要諦

相続税の税務調査を 完璧に切り抜ける方法[改訂二版]

相続税の税務調査を 完璧に切り抜ける方法[改訂二版]

服部 誠

幻冬舎メディアコンサルティング

ある日突然訪れる「税務調査」にどう対処したらよいのか。 資産税に強いベテラン税理士に学ぶ、相続税と税務調査対策。 資産の多寡にかかわらず税務調査は訪れる。そんなとき、何を準備しどう対処したらよいのか? 相続税対…

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