本来は「卒婚=お互いの自由の尊重」という意味だが…
「卒婚」とは、2004年に刊行された、フリーライターの杉山由美子氏の著書『卒婚のススメ』で生み出された造語です。そもそもの意味は、婚姻関係を続けながらも夫婦がお互いを干渉することなく、それぞれの人生を楽しく歩んでいくことを指していました。
しかし、平成最期、あの「理想の夫婦」の離婚をきっかけに、言葉の定義が変わってきました。実際、筆者の元へ相談にくる方から「今の結婚を“卒業”しようと思います」言葉を聞くことが増えています。
「理想の夫婦」とは、貴乃花光司さんと河野景子さんです。貴乃花さんが会見で「結婚を卒業します」と発言したのは2018年の11月下旬。平成の終わりということもあり、巷間には「清算」「新たな出発」といった空気が満ちていました。
また、筆者は仕事柄多くのカップルと接していますが、多くの場合、離婚を考える「きっかけ」となる出来事が存在します。
どんなに仲のいいカップルでも、一緒に生活していれば多少のいさかいはあるものです。ことあるごとに突き付けられる価値観の違いや、なれ合いからくる遠慮のないもの言いで、お互いのことがイヤになるときもあるでしょう。
しかし、そこになんらかの「きっかけ」が加わったとき、人はあらためて考え、行動に移すように感じます。その多くは子どもの成長に伴った節目であり、高校・大学の卒業、または成人式です。たいていは妻から「卒婚」を訴えます。
また、夫の仕事の節目を境に考える妻もいます。もしかしたら、貴乃花・河野元夫妻もそうだったのかもしれません。
人生後半を「自分らしく生きたい」と考える50代女性
卒婚への道のりは、下記の3つが揃うと大きく動きます。
①時勢の働き
②子供の節目
③夫の節目
現在の50代女性は、一見すると若々しい方ばかりです。しかし、親から受けた教育はまさに昭和のもので、古風な価値観を持っている方は想像以上に多くいらっしゃいます。そのため、夫や子どもを優先し、自分は二の次、三の次になってしまいがちです。しかし、人生100年時代の中間地点となる年齢に差し掛かったとき、ふと「自分の人生はこのままでいいのだろうか?」と立ち止まってしまうのです。
しかしながら、古風な価値観を持つ50代女性の子どもたちは案外あっさりしているようで、親の「離婚」という選択肢にも理解を示すケースが多いようです。そんなドライな子どもたちの様子が後押しするのか、「将来ずっとこの夫と一緒にいて、自分らしい人生を送れるのだろうか」と考え、「卒婚」という結論にたどり着く方が多くいます。
50代女性と「スタートアップ企業」は相性がいい
カウンセリングをしていて、「経済的な自立が叶うのならば離婚したい」と考えている女性が増えてきたというのが、偽らざる実感です。自分勝手な夫、私を尊重してくれない夫とこれ以上一緒にいたら、自分の人生台無しになる。この結婚を卒業して、新たな人生後半を自分らしく生きて行きたい……。そんな結論に至る50代女性が増えてきました。
しかし、そんな女性たちが離婚に踏み切れない理由のひとつに「経済力」があります。何しろ50代女性が若かったころは「寿退社」という言葉が普通に存在した時代です。いまの20~30代女性のように、独身時代のキャリアを維持したまま結婚・出産をしている人の割合は高くありません。
また、この20年はテクノロジーの発展がすさまじく、とても技術の進歩に追いつけない、職場で即戦力になれないと思っている人も多くいます。確かに会社の経営者からは「能力と実績はあるけれど、PCが使いこなせない、変化に対応できない」という50代のスタッフに対する悩みを聞くこともあります。
もしも「卒婚」を考えるのであれば、スムーズな社会復帰のために、最低限のPC技能を身につけておくことが必要でしょう。しかし、だからといって「自分には無理」と諦めないでほしいのです。
確かに、キャリアのない50代以降の女性が大企業で働くのは簡単ではありません。ところが、最近の新しい企業にはちょっと面白い傾向があるのです。それは、30~40代の若い代表が経営している小さな会社で、50代以上の女性が「事務方」として重宝され、また大活躍しているケースがよくある、ということです。実際に、私の知人にも若い経営者のもとで働いている人が何人かいますが、気配りにたけた彼女たちはみんな会社で重宝されています。
起業後シード期、50代女性の「主婦力」「おばちゃん力」を必要とする会社はかなりあります。求められるのは「何でも屋」の役割です。若い方が敬遠しがちな裏方の仕事、縁の下の力持ち的役割も嫌うことなく、主婦経験者ならではの目配り・気配りで社内を円滑にし、気難しい相手や年齢差のある相手と付き合うなかで磨かれたコミュニケーションスキルで、取引先との関係作りもスムーズ。
もし離婚後の仕事に悩んでいるなら、そのような創業期の会社を探してみるのもひとつの方法です。
子どもと元夫との仲は引き裂かないで
「卒婚」を決意した場合も、お子さんがいる方は、ぜひとも心にとめておいていただきたいことがあります。それは「お子さんと元夫との仲を裂かないでほしい」ということです。離婚時に「もう夫の顔は見たくない」というだけにとどまらず、「子どもだって夫のことは大嫌いですから」といって、夫と子どもの縁も絶とうとする方がいます。しかし、お子さんは元夫のれっきとした相続人です。のちに問題の種を作らないためにも、そこは穏便にするのが得策です。
離婚すれば、夫婦には相続権がなくなります。しかし、親子関係はそうではありません。男性の場合、50歳を過ぎて再婚しても子どもを作ることは可能です。すると、新しい妻との間にできた子どもにも、前妻との間にできた子どもと同様、相続権が発生します。そればかりか、将来元夫が亡くなった際、後妻から「相続放棄してください」といわれることも珍しくありません。
場合によっては、後妻との間の子どものために、家族信託等で対策を立てられ、お子さんの相続分が「遺留分のみ」とされる可能性もあります。遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得分のことで、法律上、本来ある相続の半分の権利が守られています。遺留分は遺言書でも侵害することはできません。しかし、相続発生前に資産を移転しておき、相続時に相続人間で分割すべき財産を減らしておくといった対策も可能なのです。
実際、夫側から「元妻との間の子どもには何十年も会っていないし、愛情もない。いまの妻の連れ子と養子縁組をして、財産は妻と連れ子に遺したい」というご相談もあるぐらいなのです。血縁関係以上に、いかに日頃の交流が大切か、おわかりになるのではないでしょうか。ですから、ご自分の感情ばかりではなく、親子の絆も大切にしていただきたいと思います。また、子どもが困ったときに、別居親の存在は大きいと、経験者からも聞いています。万一の事態を考え、お子さんのセーフティーゾーンを確保してあげてください。
長い夫婦関係を経て「離婚する=卒婚する」場合、安易な考えで行動しては、後悔することになりかねません。大変かもしれませんが、「卒婚後」の人生をよく考え、お金・仕事・相続、そして人間関係までも熟考したうえで、結論を出していただきたいと思います。
寺門 美和子
ファイナンシャルプランナー(AFP)
夫婦問題コンサルタント