配偶者という立ち位置は、相続人として「最強」
「相続診断士は見た」というTVドラマができるのではないかと思うほど、相続にはトラブルや人間関係のもつれがつきものです。相続人の相続権は民法で定められており、また「相続割合」も決まっているにもかかわらず、トラブル事例には枚挙にいとまがありません。家族構成が多様化している現代において、相続トラブルは「他人ごと」ではなく「自分ごと」として、各自が自覚を持ち、しっかりと対策をしておく必要があると痛感しています。
法定相続人(法律で定められた相続する人)のうち、「妻は常に相続人」とされています。そんなの当たり前じゃないか…と思われるかもしれませんが、ここには問題もあるのです。
まず法律上の妻ならば「婚姻期間」は問われません。期間によらず、相続権が発生するのです。その反面、どんなに長年にわたってパートナーを支えてくれた人であっても、内縁関係であれば、法律上は法定相続人とはなりません。
もし財産を内縁の妻などに遺したいなら「遺言書」が必要です。遺言書は大別すると「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。前者においては計り知れませんが「公正証書遺言」については、近年ニーズが増えているようで、10年間で約1.5倍増加しています。
●公正証書遺言の作成件数
平成19年(2007): 74,160件
平成29年(2017):110,191件
(日本公証人HPより)
テレビやネットでは、しばしば相続トラブルに関する情報が発信されていますが、それらを見聞きするたび「もしかしたら遺言書がないことで、自分の周りにも問題が起きるかもしれない」と、漠然とした不安を持っている方もいると思います。
相続において「妻(夫)」は手厚く守られた立場にあるわけですが、その特権を狙うのが、時々ワイドショーや週刊誌を賑わしている「後妻(夫)業」的な結婚トラブルです。とにかく「入籍」して法律上の妻(夫)になれば、子どもがいようが孫がいようが、婚姻期間にかかわらず、財産の大半を(割合は家族構成によりますが)得ることが可能なのです。
そこで問題になってくるのが「認知症」です。最近は恋愛に前向きな高齢者が多く、かなりの年齢になっても恋人をつくる人がいます。すでに成人している子どもたちは「認知症防止になるなら」「生き甲斐になるなら」と、親の恋愛を温かく見守るケースも多いようですが、半面、注意すべき点もあります。
認知症気味の老親にできた「怪しげな恋人」
どう考えても認知症に近づきつつある老親に、ある日突然「再婚したい人がいる」といわれたら、皆さんはどうしますか? 認知症には段階がありますが、配偶者に先立たれた老親が、いわゆる「まだらボケ」状態のとき、子どもに「再婚」を匂わすことがあります。子どもとしては、いつどこでそのような相手と出会ったのか、そもそも本当に本人が再婚を望んでいるのか、もしかしたら裏があるのでは…等々、疑念は尽きません。
以前、あるクライアントの方から相談がありました。お年を召したお父さまのお相手がどうも怪しく、財産を狙っているようにしか見えないというのです。筆者も法務省に問い合わせましたが、「残念ながら、ご本人に婚姻の意思がある以上、入籍を止める方法はありません」といわれてしまいました。もちろん、それはわかってはいるのですが…。高齢者の認知症発症率が高まるいま、ますます警戒が必要です。
「まさか自分の父親が、母親に先立たれた直後に再婚を見据えた交際相手を作るなんて、思ってもみませんでした…」
クライアントの方はひどく落胆していました。
高度成長期からバブル時代を駆け抜けた「闘うビジネスマン」たちの感覚は、下の世代が考えるよりずっと若々しいようです。このような状況に陥る前に、しっかりとした対策をとっておくことが不可欠なのです。
再婚率上昇に伴って進展する「相続の複雑化」
近年、結婚する人は減少傾向にありますが、厚生労働省人口動態統計で、昭和60年(1985)と平成27年(2015)のデータを比較すると、興味深い現象が明らかになります。
<昭和60年:婚姻総数735,850組>
初婚同士のカップル : 613,387組(83.3%)
夫婦共またはどちらかが再婚: 122,463組(16.7%)
<平成27年:婚姻総数635,156組>
初婚同士のカップル : 464,975組(73.2%)
夫婦共またはどちらかが再婚: 170,181組(26.8%)
結婚自体は、この30年で15%ほど減っているのですが、再婚者が夫婦どちらかにいる人の結婚は139%と増えています。なんと、平成27年に婚姻したカップルの4組に1組は夫婦とも、またはどちらかが再婚です。
このような結婚事情のなか、複雑化するのは「相続」です。もちろん「元配偶者」には相続権は発生しないのですが、問題は「子」にあります。「子」の相続権は配偶者の次、第一順位となります。「子」とは、前妻(夫)との間にできた子、後妻(夫)との間にできた子、愛人との間にできた子、養子、すべてが等しく相続人となります。多様化する結婚形態においては、さまざまなケースが想定されるでしょう。
●離婚時に手放した息子たちとは疎遠、後妻の連れ子の娘をかわいがっていたが…
15年前に再婚したAさんの例です。Aさんは75歳、再婚した奥さんは73歳です。夫婦の資産は、Aさん名義のマンションと現金1000万円。しかし、Aさんは遺言書を書いていませんでした。生前から妻の連れ子をわが子同様に可愛がっており、「マンションは娘に」といっていたそうですが、養子縁組はしていませんでした。この場合、どんなに娘さんを思う気持ちがあっても、奥さんの連れ子である以上、相続はできません。Aさんには30年間連絡を絶っている息子さんが二人います。疎遠になっている息子さんが相続放棄をしてくれればいいのですが、心配です。このようなケースは、事前に養子縁組と遺言書が必要でした。
●信頼できない前妻…親権はないが、未成年の子どもは気がかり
会社経営者のBさんは、前妻とお互いの不貞問題で離婚。養育費は支払っているものの、前妻からはたびたび「私学に通う子どもに対しての、プラスアルファの要求」があり、困っていました。自分にも非があるため強いことはいえず、必要なものは支払っていますが、社長という立場上、自分の身に万一のことがあったらどうしようかと悩んでいました。遺言書を書きたくても、子どもはまだ未成年のため、お金は親権のある元妻に行ってしまうでしょう。しかし、それは納得できません。では、どうすればいいのでしょうか?
セレブに人気な「生命保険信託」とは?
いま「生命保険信託」がセレブな人たちに人気です。そもそも、保険は指名ができる遺言書として人気が高く、また、節税対策にも使われています。なぜ「生命保険信託」が注目されているかというと、万が一自分の身になにかがあった際に、保証された保険金の使い道を細かく指示することができるからです。たしかに、自分が子どもの教育のためにお金を遺すつもりで保険契約をしても、実際の使途に関しては、死後天国から見守るしかありません。
しかし、信託には三者関係があります。
①委託者(契約者)
②受託者(財産を預かる人)
③受益者(財産を受取る人)
上記では、①は契約者、③は子ども等ですが、②には保険会社が契約している信託銀行などが入ります。独自で信託組織を確立し、手数料を抑えている保険会社もあり、注目されているようです。また、使い道の指示が非常に細やかに設定できる会社もあります。現在、4社が取り扱いをしていますので、ご自分で比較検討をしてみて下さい。
このような仕組みを作ることで、自分の死後、自分が届けたい人に、届けたい期間・金額などを確実に渡すことができるのです。再婚者、または障害を抱えた子がいる方、事情がある方。死後も思いを信じて託す「生命保険信託」を終活のタスクに加えてみてはいかがでしょうか。
寺門 美和子
ファイナンシャルプランナー(AFP)
夫婦問題コンサルタント