近年、熟年世代の離婚が増加しています。四半世紀をともに暮らした夫婦が離別するにはしがらみも多く、一筋縄ではいきません。スマートに離別し、以後の人生をそれぞれ幸せに生きるには、どんな方法があるのでしょうか。本記事では、山中塾所属のAFPで、夫婦問題コンサルタントの寺門美和子氏が「幸せな離婚」について方策を探ります。

熟年離婚の理由で多いのは?

令和元年(2019)度の離婚件数が発表されました。ここ数年離婚数のグロスは若干減っていましたが、前年にあたる平成30年(2018)度に比べると、2,000組ほど増加した模様です。婚姻率はこの2年変化がないので、離婚率は1.68%から1.70%へ、若干アップしてしまいました。

 

かくいう筆者も平成最後の日、離婚届を提出するご夫妻に同行し、某区役所へと足を運びました。新しい時代を迎える前にひと区切りつけたい…、そんなご夫妻が多かったのかもしれません。

 

また、今年に入ってから離婚相談の問い合わせが増えています。コロナショックとの連動性はわかりませんが、夫婦問題事業者の仲間たちも同様に「忙しい」といっているところをみると、世の中に充満する「不安」が精神的に響き、夫婦問題を抱えている人々は、なにかしらの結論を出し急いでいるようにも感じます。

 

あああ
コロナショックで「不安」が増幅?

 

令和元年度の離婚の詳細はまだ発表されていないのですが、平成30年度までの数字を読み解くと、ある傾向が見えてきました。全体を見れば離婚件数は減少しているのですが、ある年代層だけ明確に増加しているのです。その年代層とは、同居期間25年以上のカップル、いわゆる熟年世代です。実際、筆者のもとにも婚姻期間が長い方からのご相談が多く寄せられています。

 

注:総数には同居期間不詳を含む。 出所:厚生労働省「平成 30 年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況 」
同居期間別にみた離婚件数の年次推移 注:総数には同居期間不詳を含む。
出所:厚生労働省「平成30年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況 」

 

しかし、なぜ熟年離婚が増えているのでしょうか。

 

まず、この世代でご相談に来る方は、ほぼ100%恋愛結婚です。アプリもなく、お見合い結婚自体を否定していた世代です。ですから、「しっかり恋愛をした人=自分で結婚相手を選んできた人」たちなのですが、それでもうまくいかないのです。

 

熟年離婚の理由で多いのは、下記の3つです。

 

●配偶者の浮気

●財産分与したくない

●配偶者に飽きた(残りの人生は自分らしく生きたい)

 

離婚するにしろ、お互いの性格や弱点がわかっているため、若い方の離婚のようにあっさりと運びません。また、よくも悪くも両家の家族とのつながりが深かったり、双方と関わりのある関係者が多かったりして、離婚話は簡単に進みません。

 

熟年離婚の場合はどうしても「時間・体力・費用」がかかってしまいがちなのです。

親戚関係や交友関係が重なりすぎて、すんなりとは…

熟年離婚の問題は簡単ではありません。夫婦の歴史が長いため、財産はもちろん人間関係もかなりの部分が共有されています。また、出産年齢の上昇にともない、まだ子どもが学生の場合もあり、そのようなケースでは教育費や親権の問題が生じます。子どもがいれば当然、いずれは相続問題へ進展していくことも考えられます。この問題をひとつひとつ紐解いていくのは、大変なエネルギーが必要です。

 

そもそも50~60代になっていれば、すでに自分の考え方が確立しており、自分から折れることができにくいでしょう。また、この世代には要介護の親がいるケースも多く、そのために家を出られない人もいます。また、すでに親を見送っていたとしても、相続でまとまった資産を受け取ったことが理由で話がこじれることもあります。場合によっては、親族で会社経営等をしていて、夫婦それぞれに重要な役割があり、別れたくても関係が切りにくいケースもあります。

 

これらの問題が離婚時の争点となるのですが、複数の問題が重なっていることも少なくありません。

怒りと悲しみが先行しやすい「夫婦の問題」

夫婦問題は感情が先行しやすく、怒りと悲しみで自分の首を絞めてしまうケースがほとんどです。関わった期間が長いほど心の傷は大きく、深くなってしまいます。

 

つらいお気持ちはとてもよく理解できます。筆者自身も離婚経験者で、当時は自分も怒りと悲しみを抱え、自分と相手を順番に責め続けて苦しみました。そうかと思えば、どうにかして現実を変えたい、いや、もとに戻りたい…と気持ちが大きく振れ続けるのも、それなりの歴史を刻んできた、この年代の特徴ではないでしょうか。

 

出世してお金に余裕ができた夫と、老いの兆しが見えてきた妻。あるいは、やりがいを見失った夫と、人生が充実して心身ともにエネルギシュな妻。どちらにしても、いままでの夫婦関係のバランスが崩れてしまっています。

生活力を持たない妻、幼児のごとく甘えた態度の夫

問題解決するには、感情に振り回されることなく冷静な気持ちになって、ひとつひとつ整理・分析して改善策を考えることが大切だと思います。

 

仮に問題が判明しても、結論を出すのは容易ではありません。結婚とは、それほどまでに重いのです。結論にたどり着けないときは、視野を大きくするのもひとつの方法ではないでしょうか。今後の人生をどうデザインするか、具体的にイメージしていくのです。

 

日本人の平均寿命は延び続け、仮に熟年で離婚したとしても、その後の人生は決して短くありません。そうなれば、必要なのはお金です。現在の50~60代女性は「寿退社」という言葉が生きていた世代であり、結婚前のキャリアを継続している人は決して多くなく、そのため、配偶者への気持ちがなくなっていても、その後の生活を考えて別れられない女性もいるのです。ましてやこの30年、ビジネスシーンは大きく変化しています。PCスキルを持たず、新しいビジネス用語が理解できない50~60代女性の社会復帰は並大抵ではありません。

 

また、カウンセリングをしていると、50~60代の男性の多くは、配偶者に母親像を求めているように思えます。まるで幼児のように身の回りの世話を任せ、ときには感情的に当たり散らし、それでも子どもが母親に甘えるのと同様、許されると信じているかのようです。

 

同時に、愛人に気を使って妻に甘える、そんな男性が増えたようにも感じます。このような考え方こそ、妻の怒りを買う大きな原因です。妻を軽んじるその発想は、そもそも人としてどうなのでしょうか。年老いたとき、そばで面倒をみてくれる人はだれなのか、男性はそこをしっかりと考える必要があると思います。

 

複雑な問題解決のカギとなるのは「人生後半をどのように生きていくのか」という視点です。そのためには、いまからやるべきことを、しっかり構造化しなければなりません。そして、離婚する・しないにかかわらず、夫婦双方が「自立する」ことが最大の課題です。

元配偶者の生活を一定期間支える制度「アリモニー」

もし「離婚」という結論に至っても、憎み合うことなく笑顔で別れたいものです。そして、長年の夫婦関係に感謝するとともに、パートナーの将来にかかわる生活の基礎部分に「引継ぎ」を行ってほしいと考えています。

 

妻は、自分に生活全般を任せてきた夫のため、日常生活に必要な手続きや手順をきちんと伝えておきましょう。行政手続きや支払い関連のマニュアルのほか、料理のレシピなども残してあげましょう。エンデイングノートではなく「Divorce Note」があってもいいですね。

 

夫は妻に対して、それ相当の金銭的配慮をしてあげてほしいと思います。熟年離婚で最も大きな課題となるのは「離婚後の妻(夫)の生活費」です。なぜなら、財産分与がない場合や、資産があっても不動産だけというケースは多く、離婚後30~50年間という長い人生を過ごす「老後資金」が不足してしまうからです。

 

日本の場合は、たとえ不貞を働いた場合でも慰謝料はわずかです。元夫(妻)の収入にもよりますが、裁判所では100万~300万円ぐらいになるケースが多いといわれています。しかし、それでは老後の生活費の足しになりません。また、熟年離婚では子どもが成長している場合もあり、そうなると行政のサポートも受けられません。大黒柱を失った熟年女性は、ただ不安に襲われるばかりなのです。

 

アメリカには、子どもがいない夫婦でも離婚後の一定期間、収入が多いほうが少ないほうを援助するという制度、「アリモニー(Alimony)」があります。「アリモニー」として支払われる金額や支払っていく期間は、婚姻期間が長いほうが優位だとされています(州によって法律が違います)。そのため、離婚後も「アリモニー」と養育費で自分が自立できるまでは、安心して生活ができるのです。

 

また、キャリアを築くための「リハビリ・アリモニー」では、資格所得や就労支援研修を受ける際に支援してもらえるそうです。個人的には、法改正をしてでもこの制度を取り入れてもらいたいと思っています。

自分の幸せのために、最後まで誠実なふるまいを

縁があり、人生のクオーター シーズンをともにした2人なら、憎み合って別れるのではなく、お互いを思いやって別れたいものです。そうでないと、自分の人生を否定することになりはしないでしょうか。

 

もし離婚したいなら、相手に本当の気持ちをしっかり伝えること。そしてきちんと謝罪すること。どちらかに好きな人ができたなら、嘘をつかずに真実を伝えること。そのような誠意があれば、離婚後も遺恨なく幸せな人生が送れるのではないでしょうか。

 

たとえ子どもがいなくても、長い結婚生活を送ってきたなら、離婚直後から相手が生活に困窮することがないように、一定期間生活を支えてあげてほしいと思います。「元配偶者の惨めな生活=自分自身の情けない行い」という意識や考え方が根づいてほしいと願っています。

 

綺麗ごとだと思われるでしょうか。しかし、従来の日本の価値観を大きく変え、痛快なムーブメントを巻き起こしてきた50~60代の人たちにこそ、「熟年離婚=Happy divorce」という新しい価値観を築いていただきたいのです。

 

 

寺門 美和子

ファイナンシャルプランナー(AFP)

夫婦問題コンサルタント

 

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