非上場会社の自社株式の評価…「ざっくり」簡単に行う方法

相続は誰にでも訪れるもので、必ずやってきます。日々の仕事が忙しく、相続対策について考えるのをつい後回しにしていないでしょうか。生前に対策をしておけば、予想外の相続税額に驚くこともなくなります。「ざっくり」とでいいので、自社株の相続税額を生前に把握しておくことが重要です。本記事では、自社株式評価の方法を解説します。

「ざっくり」自社株式評価のススメ

経営者様の相続税申告の仕事をしていると、依頼者様から「相続税って、思っていたよりかかるものですね」とか、逆に「結局、相続税はかからないのですね。ずっと心配していたのに杞憂でした」という声をいただきます。

 

生前に相続税の納付予定額を「ざっくり」とでも知っておけば、相続税が高額になりそうな場合には生前対策ができますし、不要な場合には無駄な心配をする必要がなくなります。

 

財産が不動産や上場会社株式であれば、時価があるので、なんとなく相続税が高額になりそうかわかります。

 

しかし、非上場株式であれば、相続税において、どのように評価すればよいのか、皆目見当もつかないのが通常ではないでしょうか。とくに、経営者様の場合、財産に占める自社株式の割合が高く、この評価額が相続税に大きな影響を与えます。 しかし、税務の専門家でない方々にとって計算が容易ではないは事実です。筆者自身も相続税の自社株式評価にはじめて触れた時には、非常にややこしく感じられました。

 

今から考えると、その原因は、「原則」以外に数多くの「例外」があるからです。たとえば、株主の態様(同族株主か非同族株主か)、会社の態様(特定の評価会社か一般の評価会社か)によって評価方法が異なり、この判断だけでも一苦労です。

 

今回は、経営者とその身内だけが株主で、経営者自身が株式の大部分を所有していて、なんらかの実業を営んでいる、そんな一般的な中小企業の経営者を想定して、「ざっくり」自社株式評価について説明したいと思います。筆者の実感では7割以上の中小企業が該当します。そのような「同族株主で一般の評価会社」に適用される「原則的評価方法」の最もシンプルなパターンに絞って説明します。

 

なお、今回の説明はみなさんが理解しやすいように、「膨大な」枝葉末節は省いて、シンプルなパターンを「ざっくり」説明することで、自社株式評価額のだいたいの目安をもってもらい、相続税対策に役立ててもらうことを趣旨としています。

 

この記事をご覧になって計算した結果と、正確な計算結果には差異が生じます。正確な計算結果については、必ず、税理士などに確認してください。

 

甲社の自社株式評価の例を通して、自社株式評価のイメージを掴んでみてください。

自社株式評価の計算方法

1.会社の態様の判断

 

自社株式の評価は、「会社の態様」によって変わります。会社の態様は、以下の3つに分類されます。

 

●大会社

●中会社

●小会社

 

「中会社」はさらに、以下の3つに分類されます。

 

●中会社の大

●中会社の中

●中会社の小

 

会社の態様は、以下の3つの基準によって判断され、業種ごとに判断の基準となる数値は異なります。

 

●従業員数

●直前期末の総資産価額

●直前期末以前1年間における取引金額

 

[図表]
[図表1]会社の態様の判断基準

 

この税法上の正式な判断方法は非常に複雑で長くなるので、説明は割愛します。

 

ここで、甲社は、印刷業であり、従業員30名で、総資産価額が4億円、取引金額が3億円であったとします。この場合には、甲社は、「中会社の中」に分類されます。

 

ざっくり自社株式評価に際しては、売上高20億円以上なら「大会社」、売上高1億円以下なら「小会社」、それ以外は「中会社の中」と「ざっくり」判断してみてください。

 

2.原則的評価方法

 

原則的評価方法には、類似業種比準方式と純資産価額方式の2つの方式があります。

 

①類似業種比準方式

 

類似業種比準方式は、類似業種の上場会社の平均株価をベースにして、対象会社の株価を評価する方法です。

 

類似業種比準方式は、以下の計算式で株式を評価します。

 

[図表2]
[図表2]類似業種比準方式の計算式

 

類似業種の上場会社の株価、配当、利益、簿価純資産額は、国税庁『令和元年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)』の「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」から抽出します。

 

自社の配当、利益、簿価純資産額は、通常は直近2年の平均を用いますが、ざっくり自社株式評価に際しては、直近のデータだけで大丈夫です。

 

令和元年10月分の上場会社(印刷業)のデータと、甲社自身のデータは以下のようになっていたとします。

 

[図表3]
[図表3]上場会社(印刷業)と甲社のデータ

 

この場合、甲社の株価は以下のように算出されます。

 

[図表4]甲社の株価の計算式
[図表4]甲社の株価の計算式

 

甲社の類似業種比準方式による株価評価は、105円と算出されました。

 

ざっくり自社株式評価に際しては、業種ごとのデータを抽出する作業を省いて、以下の全業種の「ざっくり平均」データを用いると簡便です。

 

[図表5]
[図表5]全業種の「ざっくり平均」データ

 

②純資産価額方式

 

純資産価額方式は「会社を清算したらいくらになるか」という考えに基づき株価を評価する方法です。簿価純資産に、税法上定められた資産・負債の評価替えの影響を反映させて、株価を算出します。評価替えの対象となる項目は多岐に渡りますが、影響が大きくなりやすいのが、土地、有価証券などです。

 

ただし、ざっくり自社株式評価に際しては、シンプルに簿価と時価に乖離がないのものとして計算してみてください。類似業種比準方式において、自社の簿価純資産に直近の簿価純資産を用いた場合には、自社の簿価純資産と純資産価額は一致します。

 

たとえば、甲社の発行済み株式が200千株、簿価純資産が100,000千円で、資産の簿価と時価に乖離がなかったとします。

 

100,000千円 ÷ 200千株 = 500円

 

甲社の純資産価額方式による株式評価は、500円と算出されました。

 

③原則的評価による最終評価額

 

類似業種比準方式では、105円、純資産価額方式では、500円と算出されました。

 

最終的に、自社株式は下記のように評価します。

 

[図表6]自社株式の評価
[図表6]自社株式の評価

 

ここで、甲社は「中会社の中」でしたので、以下の計算式に当てはめます。

 

類似業種比準価額 × 0.75 + 純資産価額 × 0.25

 105円 × 0.75 + 500円 × 0.25 ≒ 204円

 

以上から、甲社株式の最終的な評価額は、204円と算出されました。

 

経営者が甲社株式200千株をすべて保有している場合、@204×200千≒41百万円 より、保有株式全体の評価額は41百万円となります。

 

法定相続人が配偶者と子供1人と想定した場合、正味の遺産額が42百万円までは相続税はかかりません。自社株式以外に財産がなければ相続税はかからないことになります。

相続税の自社株式評価結果からの考察

甲社株式は、類似業種比準価額では、105円、純資産価額では、500円と評価され、大きな差異があります。純資産価額が、類似業種比準価額よりも大幅に高くなってしまうことは、中小企業ではよくあります。長年の社歴で純資産が蓄積されている一方で、直近の業績はそこまで好調とはいえないことが多いからです。ということは、類似業種比準価額の割合を高めた方が有利(株価評価が下がる)です。

 

甲社が「中会社の中」から、「中会社の大」に上がった場合、評価額は以下のようになります。

 

105円 × 0.9 + 500円 × 0.1 ≒ 145円

 

なんと、現状の204円から、145円に下がります。

 

相続税の株式評価は税法に基づいて一律に決定されますが、完全に固定されてしまっているわけではなく対策を講じることも可能です。ただし、短絡的な対策を講じてしまうと、税務当局ににらまれたり、会社経営自体に悪影響が生じたりする場合もありますので、慎重に検討してください。

「ざっくり」自社株式評価のまとめ

①売上高に基づいて、会社の態様を判断

 

[図表8]
[図表8]売上高に基づいて、会社の態様を判断

 

②類似業種比準方式により評価(ピンクの楕円部分を入力)

 

[図表8]
[図表8]類似業種比準方式により評価(ピンクの楕円部分を入力)

 

③純資産価額方式により評価(類似業種比準方式の自社の簿価純資産と一致)

 

[図表9]純資産価額方式により評価
[図表9]純資産価額方式により評価

 

④原則的評価による最終評価

 

[図表10]原則的評価による最終評価
[図表10]原則的評価による最終評価

今回の計算方法をそもそも適用できない場合

今回の計算方法はもっともシンプルな場合の「ざっくり」計算方法です。繰り返しになりますが、相続税の正確な自社株式評価とは異なります。「ざっくり」自社株式評価で評価額が1億円を超えた場合には、正式な自社株式評価を依頼されることをお薦めします。 また、たとえば、以下の場合についてはそもそも今回の計算方法を適用できず、もっと複雑な計算が必要ですので税理士などにご相談ください。

 

●株式が経営者とその身内以外に広く分散されている

●所有している株式の持分割合が高くない

●株式や土地の保有を目的とした会社

●開業後三年未満の会社

●自己株式の取得や無償増資を実施している

●赤字や債務超過の会社

●資産の簿価と時価に乖離がある  

 

 

貝井 英則

貝井経営会計事務所 代表

 

 

事業承継の窓口Ⓡ 貝井経営会計事務所 代表
公認会計士・税理士・中小企業診断士・社会保険労務士・証券アナリスト・システム監査技術者・宅建士 

京都大学総合人間学部人間学科卒業。大学時代は、臨床心理士(カウンセラー)を目指すが、なぜか公認会計士・税理士になった異色の経歴を持つ。
独立後は事業承継を専門とし、事業承継計画の策定から、承継に際しての会社の「磨き上げ」(経営改善)、後継者教育、相続税や贈与税のプランニングまで、経営者の事業承継のお悩みにワンストップで対応。後継者がいない中小企業のM&Aにも注力。
事業承継やM&Aのセミナー実績多数。30年後も続く会社の「しくみ」と「ひと」をつくる、がモットー。

著者紹介

連載家族が集まる年末年始だから本気で考えたい!「相続」特集 ~2020

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