「自署・日付・署名・押印」で法的に100%有効な遺言書に?

「相続」をめぐって起きるさまざまな問題は、決して他人ごとではありません。いわゆる「争族」を避けるための一番の選択肢といえるのが、生前に「遺言書」を遺すという相続対策です。今回は、効力のある「自筆証書遺言」の書き方等について解説します。※本記事は内田経理事務所・内田伸氏による書き下ろしです。

自筆証書遺言で必須となる「自署・日付・署名・押印」

筆者は、財産の多寡に関わらず、すべてのお客さまに遺言書の作成を強くすすめています。今回ご紹介するのは、筆者の経験の中で、ほんの数行の遺言書がこの上なく威力を発揮した事例です。

 

Aさんには、内縁の妻Bさんがいました。AさんとBさんは仲睦まじく何十年も一緒に暮らしていましたが、お互いに配偶者がいないにも関わらず、籍を入れることはありませんでした。

 

Aさんには法律上の妻もなく、子どももいませんでしたが、疎遠になっている兄弟が6人もいました。Aさんの財産は、住んでいた土地建物と預金口座がすべてで、万が一のことがあれば、相続財産は兄弟が引き継ぐことになります。兄弟の中には既に他界している人もいるので、その場合はその子どもが代襲で相続します。

 

さて、Aさんは67歳のとき、突然ガンが発覚、程なくして亡くなりました。遺品を整理していた内縁の妻Bさんは、Aさんの自筆証書遺言を2通見つけました。その内容はおおむね次のようなものでした。

 

「預金は、(内縁関係にある)Bさんへ遺贈する」

 

「土地建物は、甥Cへ相続させる」

 

甥Cは、すでに他界している弟の子で、Aさんは我が子のように面倒を見ていました。今でもはっきり覚えていますが、Aさんの遺言書は、本当にメモ書きのような簡単なものでした。

 

Aさんが書いた遺言書は、「遺言の書き方」のようなハウツー本の付録に手書きをして、認印を押したものでした(実際、遺品の中からそのような本が見つかっています)。付録であろうが、自筆証書遺言の4要件である、「自署・日付・署名・押印」がすべて揃っているため、法的には100%有効なものでした。

 

自筆証書遺言は、そのままでは金融機関や登記で使えないので、裁判所で「検認」と「執行者選任」の手続きをします。「検認」は相続人・受遺者全員に裁判所から手紙を出してもらって、指定の日時に裁判所に集まってもらい、「確かにAさんの遺言書があるよね」といった確認をするだけです。

 

疎遠になっていた兄弟ばかりだったので、実際には内縁の妻Bさんと甥Cさんのほかは誰も来ませんでした。相続人が揃わなくても、「検認」手続きはつつがなく終わります。裁判所から検認した証明書が出ますので、この証明書と手書きの遺言書があれば、登記も銀行手続きも問題なく行えます。

 

ただ、誰がそれを行うかをやはり裁判所に決めてもらわなくてはいけないので、特定の人を「遺言執行者」として選任してもらう申し立てをします。こちらも特別問題がない限りは、希望する人を執行者に指定できます。

 

死亡保険金とは異なる「かんぽの特約還付金」の扱い

手書きの遺言書と、裁判所の検認「証明書」を遺言執行者が持って、銀行へ名義変更に出向きます。法的には、これらの書類があれば問題なく名義変更ができるのですが、銀行の担当者は「銀行所定の手続き用紙に、相続人全員の自署・実印をお願いします」と文字通り判を押したようにいうのがお約束です。

 

「相続人全員のハンコはもらえないが、法的には遺言書と検認証明書があれば問題はない」旨を伝えると、何やら本部と電話連絡をとり、結局手続きができます。これは公正証書遺言の場合でも同じことが多いです。司法書士は、遺言書と検認証明書だけで登記手続きをすんなり引き受けてくれます。

 

かくして、Aさんは、病床で亡くなる間際に、手書きで数行の遺言書を書いたことで、大切なパートナーBさんと、我が子のように面倒を見ていた甥のCさんへ、無事財産を引き継がせることができました。

 

このAさんの遺言はほぼ完璧なものでした。ひとつだけ注文をつけるとすれば、「その他の財産はすべてBさんへ遺贈する」という文言がほしかったという点です。Aさん自身も分からなかったと思いますが、亡くなった後に、かんぽの特約死亡還付金というお知らせが来ました。かんぽの特約還付金とは、死亡保険金とは異なり、積立部分を保険契約者に還付するものなので、預金と同じように遺産分割の対象となります。

 

この特約還付金は遺言書に言及されていなかったため、名義変更の処理ができませんでした。疎遠になっているAさんの兄弟、およびその代襲相続人からハンコをもらうことはほぼ不可能でした。もし遺言書に上記の文言がもう一言入っていれば、特約還付金もBさんがすんなり受け取れたのです。ただBさんも、「もうそこまではいただかなくて結構です」と早々に申し出て、この還付金は宙に浮いたままの状態となってしまいました。

 

「ウチの子どもたちは喧嘩にならないから大丈夫」といって頑として遺言書を書かず、結果相続で大揉めしたケースを数多く見てきました。仮に揉めなかったとしても、遺言書があるだけで、残された人たちの手間が格段に軽減されるし、兄弟間でのギクシャクしたやりとりも不要になります。

 

公正証書遺言がベストですが、公証役場まで行くのがどうしても億劫であれば、今回のAさんのように、「自署・日付・署名・押印」の4要件を守って書かれた簡単なものでも大丈夫です。

 

※平成31年1月13日以降は、民法改正で、
・財産目録だけはパソコン等で出したものでもいい
・財産目録の各ページには署名押印が必要
といった変更があり、より自筆がしやすくなりました。

 

この年末年始に是非、誰に何を遺そうか、考えてみてはいかがですか?

 

 

内田 伸

内田経理事務所 相続サポートセンター・代表
税理士

内田経理事務所 相続サポートセンター・代表
税理士  

群馬県出身。平成13年税理士登録。平成11年から平成15年まで東京都中央区の資産税コンサルティング系会計事務所に勤務。平成15年に父親の他界により、実家の税理士事務所を事業承継。以後、地方の中~小規模相続に特化した相談業務を展開。税金の計算だけではなく、相続人の話に親身に耳を傾け、故人の1周忌には安心して墓前に報告がして頂けるような温かい相続コンサルティングを行う。

著者紹介

連載家族が集まる年末年始だから本気で考えたい!「相続」特集 ~2020

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