「不動産が多く、キャッシュがない」という典型例
弁護士として多くの相続問題を取り扱っていますが、しばしば目にするのは、「不動産はあるけれども、現金がほとんどない」案件です。
今回は、筆者が弁護士として活動して1年目に取り扱った、上記の典型的な事例をご紹介します。本件では、3人の相続人に対し、相続財産がほとんどすべて不動産であるため均等な三分割が難しく、遺産分割調停に至るまで、揉めに揉めました。
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以下が大まかな概要です。
相続人:長男・長女・次女の3人
それぞれの要望:
長男…実家に居住。アパートも実家の近くで、これまで管理してきたため、すべて相続したい
長女&次女…それぞれすでに嫁いでいるため、実家の不動産や賃貸アパートの管理はとくに希望していない。ただ、それらの不動産の評価額はかなりの金額にのぼるので、きっちり3等分といわずとも、しっかりとその分は金銭で払ってほしい
不動産を相続したい長男と、不動産は必要ない長女・次女。分け方としてはおおよそ同意できていました。ただし問題は、不動産を相続する代わりに長女と次女に支払う「代償金」の捻出方法です。相続財産には、ほとんど現金が含まれていませんでした。
筆者は、不動産を相続したいが代償金が足りない長男の代理人として本件に携わっていましたが、率直な話、かなり頭の痛い案件でした。単純に不動産評価額を算出し、3分の1にあたる金額を長女と次女に支払うのはそもそも困難であり、長男はすでに60歳を超えていて、銀行からお金を借りることもできません。
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法定相続分としては3分の1ずつなのですが、不動産の評価額を工夫したり、長男家族の父親への介護を理由にしたり、それこそ法的に考えられる方法はすべて検討しました。ただ、それでも、実家を含めて不動産をすべて相続して代償金を払うというのは難しい状況でした。
家を失いそうな長男を救った、法律外からの解決策
状況が煮詰まり、長女・次女の弁護士から出た案は、実家を売却して、それを代償金にあてるというものでした。ただ、60歳を超えた依頼者が、いまから住み慣れた実家を失うというのも、なんとも切ない選択肢でした。それに、実家を失うことになれば、以後は賃貸マンション等に住むほかなく、アパートを相続するとはいえ、金銭的に苦労する状況は明らかでした。
また、賃貸アパートといっても新築で手がかからないものは1棟のみで、あとの2棟は老朽化しており、補修費用や賃借人探しにも経費がかかる状態です。
この案件には、それこそ休日も頭を離れないほど悩まされていましたが、急転直下、解決策が生まれました。それは、定期的な打ち合わせの席のことです。その日はたまたま、長男と親しくしている不動産会社の社長が同席していました。先祖代々の地主であるため、地元の不動産会社ともつながりがあったのです。
「ご高齢になって、実家をバリアフリー化する工事をしたいともおっしゃっていましたよね。考え方を変えて、いまの実家を建て直して、バリアフリー化した賃貸併用住宅を建てるのはどうですか?」
最初は筆者も半信半疑で聞いていたプランですが、実際の数字を出してしっかりと検証してみると、「これしかない」と思える良策だとわかりました。
賃貸併用住宅というのは、たとえば2階部分をすべてオーナーの住居にして、1階部分に1ルームアパートを4部屋作って賃貸に出す、といった建物のことです。このような賃貸併用住宅なら、賃貸部分の収入で建築費等を返済していくことができます。
また、実家を賃貸併用住宅に建て直す際、相手方に支払うため必要な代償金についても、銀行から融資が引けることがわかったのです。建築費は当然支出することになりますが、その分の費用は、1階の賃貸部分から回収することができます。当時はここ最近と事情が異なり、融資情勢がよかったというのはラッキーでしたが、不動産会社の社長の提案で、すべてのピースがはまった瞬間でした。
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本件では、法律的には「解なし」の状態だったのに、不動産をうまく利用・活用することで解決できた案件となりました。私が弁護士1年目に経験した本件がきっかけとなって、いまでは不動産メインの弁護士となり、「法律だけで考えず、不動産実務も兼ねて解決策を考える」というモットーも生まれました。
不動産という存在は、相続時に揉めごとの原因になりやすく、さまざまな問題をはらみがちです。しかしその分、工夫の仕方によっては、ほかの資産にはないほどさまざまな選択肢を編み出すことができます。それこそが不動産案件の特色であり、可能性であると考えているのです。
(※守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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