年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。本記事では、兄嫁と小姑の間で起きた相続トラブルについて、見ていきます※本記事は、円満相続税理士法人の橘慶太税理士の語り下ろしによるものです。

仲の良かった兄妹…兄の結婚を機に、関係に変化が

相続の現場では、想像もつかないような状況に遭遇することがあります。今回ご紹介するのは、そんなとんでもないことが起きた事例です。

 

登場するのは、一組の兄妹。父は地元では名士で、周りから「豪邸」といわれるほど、大きなお屋敷に住んでいました。妹は、少し年の離れた兄を慕い、小さな頃は「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と常にまとわりついていたといいます。

 

長男は、常に父の後継ぎとして期待され、厳しく育てられました。長男も父の期待に必死にこたえ、一流大学に入り、一流企業で経験を積み、そのうえで次期社長として、父の会社に入りました。

 

一方の妹は、長男ほど厳しくは育てられませんでした。「会社に親族ばかりいるとダメになる」という父の方針のもと、妹は小さいときから、大人になったら実家を出て、自分のやりたい仕事につくように、といわれてきたのです。

 

厳しく怒られる長男をみて、妹は申し訳ない気持ちになったといいます。大学卒業後、妹もきちんとやりたい仕事をみつけ、立派な社会人になりました。そんななかでも、努力を重ねてきた兄に対する尊敬の念は、大人になっても変わらなかったといいます。しかし、そんな関係に変化が生じました。そのきっかけになったのは、兄の結婚でした。

 

兄嫁と妹との関係は、初めは良かったのですが、段々と疎遠になっていきました。よくある、嫁と小姑の関係です。最初は、兄を慕う妹の姿は微笑ましく見えたことでしょう。しかし「いつまで私の夫を、自分だけの兄だと思い込んでいるんだろう」と、疎ましく思えてきたのです。

 

また家族が集まった時に、妹は「私が小学生だったころ~」などと、兄嫁にはわからない内輪話ばかりするのも気に食わないと思っていました。

 

さらに「お義姉さん、そんな恰好していたらダメよ」と、妹からよく身なりに対してダメ出しを受けることが多くありました。兄嫁としては、名家の嫁として恥じぬよう、普段から身なりには気を付けているつもりでいました。そしてお正月に久々に実家に帰ってきた、妹のひと言が決定的なものになりました。

 

「あれ、お雑煮の味、なんか変じゃない?」

 

今年のお雑煮、何かが違う……
今年のお雑煮、何かが違う……

 

その年、お雑煮を作ったのは、長男の嫁でした。日々、義母から料理を教わり、なんとか同じ味を再現しようと、努力をしている姿を、普段から見ている両親や長男は知っていました。しかし、離れて暮らしている妹は、そのような姿を知りません。お雑煮の味付けは、いつもの年とは微妙に違っていたかもしれませんが、“変”というほどではなかったはず……。

 

「もう耐えられない! 私、妹さんがここに帰ってくるときは、実家に帰らせてもらいます」

 

長男の嫁は、荷物をまとめて家を飛び出そうとしましたが、何とか兄がそれを止めました。そしてその一件以来、兄はできるだけ妹が実家に近づかないようにしたのです。そんな兄の様子に妹も「何よ、お嫁さんに尻にしかれちゃって。お兄ちゃん、そんな人じゃなかったのに」と幻滅したといいます。

 

こうして、仲の良かった兄と妹は疎遠になっていきました。

遺産分割協議の場に、兄と妹、そしてなぜか兄嫁

そんな関係が、20年以上続いたでしょうか。そのころには、母は病気で亡くなり、父も介護がないと日常生活が困難になっていました。妹は兄に「〇〇さん(=兄嫁)がいるとはいえ、自宅で介護は大変でしょ。私、帰るわよ」と伝えますが、兄は「大丈夫、大丈夫」の一点張り。父の介護、という事情があっても、兄嫁と妹との関係が変わることはありませんでした。

 

それから数年後、父が亡くなりました。そこで妹は、大きな衝撃を受けることになったのです。それは、父の遺産の分け方を決める、遺産分割協議の場で起こりました。

 

妹「ごめんね、お兄ちゃん。葬儀が終わったばかりで、バタバタしているなか、相続の話なんて。私も、いつでもこちらに帰って来られるわけじゃないから。こういうことは、早めに話したほうがいいかと思って」

 

兄「いや、そんなことはないよ」

 

妹「相続人は、お兄ちゃんと私の2人だと思うんだけど。まさか、お父さんに隠し子なんていないわよね」

 

兄「そんな人じゃないよ、お父さんは」

 

妹「そうよね。あっ、ごめんなさい、お義姉さん。父の相続の話なので、席、外してもらってもいいかしら」

 

兄「いいんだ。A子(=兄嫁)も相続人なんだ」

 

妹「えっ、お兄ちゃん、何いっているの?」

 

兄嫁「わたし、お父さんとお母さんの養子なんですよ」

 

妹「はあっ!?」

 

妹は兄嫁の養子縁組の話など、まったく聞かされていません。

 

妹「そんな大切なこと、何で今まで黙っていたのよ!」

 

兄「ごめんな。あと、父さん、遺言書を残しているんだ」

 

それは、兄が生前の父に頼み書いてもらった遺言書だといいます。そしてそこには「すべての財産を長男に渡す」と書いているというのです。

 

妹「何よそれ! 何から何まで、私抜きで進めて」

 

兄嫁「お父さんの財産は、この家を継いだこの人(=兄)のものよ。金額も大きいわ。もしかしたら、あなたは納得できないと、遺留分を請求するかもしれない。そのときのために、少しでも、あなたに渡すお金が少なくて済むように、私は養子になったの」

 

妹「何よ、あなた部外者じゃない!」

 

兄嫁「いえ、私はお父さんの子どもよ」

 

すべては兄嫁の発案で進められたことだった、ということが、後でわかったといいます。「長男の嫁」「この家を守らないといけない」という思いが、強くなりすぎた結果だと、妹は考えています。

 

「やっぱり、嫁と小姑はうまくいかないのよ」

 

この一件で、妹は、今まで以上に実家との付き合いがなくなったそうです。

明らかな「相続税の節税目的」の養子縁組はNG

今回の事例では、個人的な恨みもあったかもしれませんが、相続税対策で、養子をとる方は大勢います。

 

まずは結論からいうと、養子で子どもが増えると、相続税は大幅に減ります。その人の資産規模にもよりますが、最大で7000万円以上相続税が減ることもあります。なぜ相続税が減るのかというと、その理由は相続税の計算の仕組みにあります。相続税の計算は、相続人の人数に基づいて計算をします。大切なポイントは、相続税は相続人が多いほど、税額が少なくなるという性質があることです。

 

それであれば、「たくさん養子縁組をすれば、極端な話、相続税は0にできるのでは?」と思えば、そうは問屋が卸しません。民法上は、養子は何人でもとることができます。100人でも200人でもいいです。一方で、相続税を計算する場合には、養子を相続人にカウントできる人数を限定しています。そのカウントは、実子がいる場合には、養子は一人まで、実子がいない場合には、養子は二人まで、と、決まっています。

 

また覚えておきたいのが、「相続税の2割加算」という制度です。この制度は、「配偶者・子ども・親以外の人が財産を取得した場合には、本来の相続税に2割加算した金額でお支払いくださいね」といった制度です。具体的には、次のような方が財産をもらう場合には、税金は2割増になります。

 

1.兄弟姉妹

2.甥、姪

3.内縁関係の妻

4.友人、知人など

 

さらに注意したいのが、養子縁組が明らかな相続税の節税目的と認定された場合には、養子を相続人の人数にカウントしないこととされています。ここでよく質問を受けるのは、「節税対策での養子って、どうやって判断するの?」という質問です。これは、税務調査が行われたときに、税務署の職員から「なぜ、養子縁組したのですか?」と質問され、「相続税対策です。それ以外に理由はありません」などと発言すると、その養子縁組は否認されてしまうでしょう。

 

平成29年1月31日、最高裁から「節税目的の養子縁組はただちに無効ではない」という判決がでました。筆者の勝手な予想ですが、これから国税庁は相続税の節税目的の養子を否認しに動くでしょう。現状のまま放置をすると、世の中に「養子縁組をして相続税を節税してもいいんだ」と間違った認識を広まってしまう恐れがあるので、ここは注意していかないといけないですね。

 

 

【動画/筆者が「相続税の2割加算」について分かりやすく解説】

 

橘慶太

円満相続税理士法人

 

 

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