相続税は、相続開始時点の現預金、株式、家屋、土地といった相続財産の評価額を算定し、その総額が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数)を超える場合、原則、相続開始後10ヵ月以内に、税務署に申告を行う必要があります。相続財産のなかで、一番のウェイトを占めるのが「土地」です。土地は、評価がとくに難しいために、担当する税理士により評価額が変わることも少なくありません。そのため、土地の評価額を適正に算定できるかが、適正申告のカギとなります。本記事では、「市街地山林」を相続した事例を紹介します。

評価が難しい「市街地山林」

神奈川県Y市在住の鈴木様(仮名)は、お父様を亡くされ、山林(A土地)を相続されました。相続税の申告をお願いできる税理士を探していたところ、筆者の事務所を知り、申告業務をお任せいただけることになりました。

 

ご自宅に伺い、現地を調査してみると、A土地は草木が生い茂る傾斜地で、まわりには住宅街が広がっていました。A土地は正面路線とは高低差が3mほどあり直接出入りできない状況です。また正面路線に接する起点部分と頂点との高低差が5mほどあって、起点と頂点のなす角度は約25度と計測されました。

 

この土地について鈴木様に伺ったところでは、「以前、この土地周辺一帯は山林だったが、開発が進み、この部分だけ開発されず残った。A土地は傾斜が急なことから、宅地開発業者から『造成は困難』として敬遠された場所である」とのことでした。

 

今回の事例でポイントとなったのは、「市街地山林の評価」です。市街地山林とは、住宅街のなか、もしくはその外縁部に存在する山林をいい、その価額は、路線価地域にある場合、その山林を宅地とみなした場合の1㎡あたりの価額から、その山林を宅地に転用するときにかかる1㎡あたりの造成費用を控除し、その山林の面積を乗じて算出します(宅地比準方式)。

 

そして、市街地山林として評価する場合、評価対象地を「山林から宅地へ転用できるかどうか」を検討しなければなりません。これは、宅地への転用が見込めない場合、宅地比準方式とは異なり、その価額は、近隣の「純山林」(市街地から離れた、宅地の価額の影響を受けない山林)の価額をもとに評価することになるためです(純山林比準方式)。

 

この「宅地への転用が見込めない場合」とは、たとえば、「その山林が急傾斜地等であるために、宅地転用の経済合理性が認められない」といった場合が挙げられます。

 

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「宅地への転用」の可能性がカギ

上述の考え方をA土地にあてはめてみます。まず、A土地は、土地の利用状況およびその立地から、市街地山林として評価するのが適当と考えられます。

 

次にA土地は、「急傾斜」が原因で、開発残地となってきた経緯があります。さらに、A土地を造成して、正面路線に等高の宅地とすることを想定した場合、造成費がかさみ、造成費を上乗せした分譲価格は、周辺宅地に比べはるかに割高となることが予想され、このような土地は、宅地転用の経済合理性を欠いているものと考えられます。

 

このような点から、A土地は宅地への転用が見込めないと認められ、近隣の純山林の価額をもとに評価することが適当と判断できます。

 

それにより評価すると、評価額は2万856円となり、これと現預金などの評価も行って申告書を作成し、期限内に税務署に提出しました。

 

今回の案件を、相続税があまり得意ではない税理士に依頼した場合、A土地は「宅地比準方式」で評価されていた可能性が考えられます。この場合、A土地の評価額は約440万円上がり、約100万円も相続税を余計に支払っていた可能性があります。

 

[図表]
[図表]市街地山林の評価

 

市街地山林は、宅地への転用が見込めるか否かで評価額が大きく変わってきます。また、「面積が広い」「傾斜が著しい」「前面道路が建築基準法上の道路ではない」といった場合、宅地比準方式以外の方法が適用できる可能性があり、この場合、評価額が大幅に下がるかもしれません。

 

この判断にはさまざまな検証が必要なため、住宅街のなか、もしくはその外縁部に山林を保有しているという方は、ぜひ一度、専門家に相談してみましょう。

 

藤宮 浩

フジ総合グループ 株式会社フジ総合鑑定 代表取締役/不動産鑑定士

髙原 誠

フジ総合グループ フジ相続税理士法人 代表社員/税理士

 

 

 

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