50代の夫婦には、夫が家計の主軸を担い、妻は専業主婦か扶養内での就業という、高度成長期を支えた親世代と同じ人生設計を描いている人たちが多くいます。しかし、親が現役だった時代と社会情勢が大きく異なる今、そのスタイルはかなりリスキーです。本記事では、プレ定年専門FPとしてアラフィフ世代から多くの家計相談を受ける三原由紀氏が、妻が扶養内でしか働かないことの危険性とともに、50代でも間に合う家計立て直し策を提案します。

扶養内で働く妻が「お得」とは限らない理由

「人生100年時代」というワードも、最近ではすっかり浸透してきた感があります。人生が100年なら、50歳はまさに人生の折り返し地点でしょう。現在50代の夫婦にとっては、改めて自分たちの人生に向き合い、「家計」「夫婦関係」を見直すベストタイミングといえるのではないでしょうか。

 

FPの目から見て、以下に挙げる項目にひとつでも当てはまる人は、注意が必要かもしれないと考えています。

 

□ 扶養はお得だと思うし、妻は扶養内で働いている

□ 夫の会社の制度を夫婦で共有できていない

□ 退職金受取額・受取方法をしっかり把握していない

□ 高年収なので年金もある程度は受け取れるはずだと思っている

□ 60歳以降も住宅ローンを払い続ける予定になっている

 

現在50代夫婦の多くは、夫の収入が家計の主軸、妻は夫の扶養内でパートやアルバイトというパターンが多いと思います。この世代のご夫婦は、自分たちの親世代の背中を見て、それをなぞる人生設計を行っています。50代の人の親世代は、夫は仕事に打ち込み、妻は家を守るという役割分担で上手く回ってきたため、同じ価値観が刷り込まれているのでしょう。

 

しかし、親世代が生きてきた高度成長時代と現在の社会がすでに大きく異なっていることは、多くの人が知るところです。といいつつも、50代の意識や感覚はどうもそれについていけないようなのです。

 

とくに注意が必要なのは、社会に出たときにバブル経済を経験している人たちでしょう。バブル期に社会人となり、派手な消費生活を謳歌した人も多いと思います。また当時は、不動産価格は右肩上がりだったため、マイホームの購入も、手頃な物件を購入してから次々買い替えればいいという価値観の人も存在しました。

 

しかし、物価も給料も上がることが前提という「インフレ時代のルール」は、バブル崩壊によって通用しなくなりました。

 

給料の伸びが頭打ちのなか、住宅ローン返済に追われ、子どもの教育費は右肩上がり…。そんな状況に苦しむ方も、筆者の相談者のなかには少なくありません。若いときは右肩上がりで磐石に思えた自分の将来が、気づけばなんとも心細い状況になっていた、というのが、多くの50代のご夫婦の実感だと思います。

 

そんな50代の夫婦の家計を見直し、少しでも改善できるポイントはないか、ここで解説していきたいと思います。

「税金&社会保険の軽減=メリット」なのか?

まずは「扶養」です。筆者はプレ定年専門ファイナンシャルプランナーとして、アラフィフ世代から多く家計相談を受けています。そのなかで多く寄せられるのが、まさに扶養についてなのです。

 

扶養を超えるとデメリットがあるらしいから、とりあえず100万円以内の収入に抑えて働いている…という人は、とても多いと実感しています。妻たちの多くは「損をしない範囲で働きたいけど、そのためにはいくら稼いだらいいのか」と悩んでいます。

 

夫の側は、会社の家族手当、配偶者控除、社会保険がどのくらい得になるかという、目の前に見える家計の損得だけで結論を出しているケースが多いでしょう。しかし「扶養」とひと言でいっても、いろいろな物差しで考える必要があるのです。

 

 

扶養には「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」など、妻の年収ごとに考えなければいけない壁があります。

 

「103万円の壁」を超えると、妻本人に所得税がかかり、夫の会社からは家族手当が出なくなります。ただし、家族手当についての決まりは会社ごとにルールが異なり、「妻の年収103万円」としているケースが多い、というのが正確なようです。

 

「106万円の壁」「130万円の壁」を超えると、妻本人が社会保険料の負担をすることになります。106万円と130万円の違いは、パート先の規模によります。一定規模以上の会社で働くと106万円以上、それ以外の場合は130万円以上で、妻本人が社会保険に加入することになるのです。その場合の社会保険料の目安は給与の15%です。

 

「150万円の壁」を超えると、夫は配偶者控除を受けることができなくなります。つまり、夫の所得税が上がることになりますが、妻の年収が201万円までなら、夫は配偶者特別控除を受けることができます。

 

これらの壁について、目の前の家計の損得で考えると、妻が扶養内で働いていたほうが徴収される税金や社会保険が軽減されるため、「扶養はお得」と考えてしまうのも理解できます。

妻の厚生年金加入で、多くの将来不安が軽減できる

しかし、妻が扶養を外れることによる、妻自身へのメリットや、「扶養の賞味期限」による影響について考えてみたことはあるでしょうか?

 

妻自身が社会保険料を納めることで加入する社会保険には、2つのパターンがあります。

 

一定規模以上の会社で働き、106万円以上の年収を得て、厚生年金と会社の健康保険に加入する「パターンA」と、それ以外の会社で働いて、130万円を超えた時点で国民年金と国民健康保険に加入する「パターンB」です。

 

この2つのパターンには、非常に大きな違いがあるため、注意が必要です。

 

パターンAの厚生年金加入の場合は、自動的に国民年金に上乗せされた終身年金を作れます。たとえば、年収150万円で15年働いた場合には、65歳からの老齢厚生年金受給額が約12万円アップします。

 

パターンBの国民年金加入の場合は、65歳から受け取る老齢基礎年金のみが満額で約78万円(毎年改定されます)で、扶養内の場合と同額であり、扶養を外れるメリットにはなりません。

 

なお、パターンAで会社の健康保険に加入した場合、「傷病手当金」が受けられます。これは、ケガや病気で働けなくなって給料が支払われないときに、最長1年6ヵ月まで給料の3分の2が支給されるという、国民健康保険にはない手当です。

 

長い目で見た場合、妻が扶養を外れて働くメリットに納得できるのではないでしょうか?

歳の差夫婦が注意すべき「扶養の賞味期限」とは?

そもそも「扶養」とは、夫が会社員であるからこそ利用できる制度です。50代夫婦の場合、夫が会社員でいられる期間はあとどのくらいでしょうか? 会社の状況次第では、早期退職を迫られる可能性もありますし、夫自身の健康状態によって退職が早まる場合もあります。そしてまた、夫婦の年齢が離れている場合には、「扶養の賞味期限切れ」についても、一層注意する必要があるのです。

 

たとえば夫が65歳になり、老齢基礎年金の受給資格を満たす場合、妻は国民年金第3号被保険者から第1号被保険者に切り替わり、60歳まで妻自身で保険料を納める必要が出てきます。その額は年間で19万6,920円になります(令和元年度16,410円をベースに計算)。夫より10歳年下の妻の場合には、55歳から60歳になるまで約100万円の保険料負担になります。

 

もしも、夫の退職が早まった場合には、さらに妻自身で納付する年数が長くなります。いざ夫の会社の「扶養」が利用できなくなったとき、果たして妻自身が社会保険に加入できる職場で働けるのか、仕事の選択肢は狭まっていないか、よく考える必要があるでしょう。

 

2019年8月、令和元年財政検証結果が発表されました。財政検証とは、年金財政の健全性を定期的に検証する「健康診断」です。そこで触れられていたのが「適用拡大」、つまり厚生年金の加入適用者を増やすことについてです。

 

今後「106万円の壁」の条件が、一定規模以上の会社から小規模の会社へと広がっていくことは容易に想像できます。実質的に扶養の壁は取り払われていくことも想定しつつ、これからの妻の働き方について、ご夫婦でじっくり話し合う機会をもってはいかがでしょうか。

 

 

三原 由紀

合同会社エミタメ代表

プレ定年専門ファイナンシャルプランナー

「FP相談ねっと」認定FP
 

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