「事実は小説より奇なり」な相続にまつわる案件
AFPだけでなく夫婦問題コンサルタントもしているためか、お客様から持ち込まれる相談、とくに相続にまつわる案件は、実にドラマティックなものが多くあります。なかには「事実は小説より奇なり」と思わずにはいられない、想像を超える展開も…。
相続の悩みですが、お金よりも相続人の間の感情的な拗れといったものメインになるものから、「病気の夫に何かあったら、相続税はどうなるんだろう、どうしたらいいの!」といった、相続の知識がないばかりに大慌てしてしまうケースまで、さまざまです。慌てているお客様にはまず落ち着いていただき、相続税が本当に発生するかどうか、そこからじっくりと確認していきます。
ここではまず、相続税について基本をおさらいしておきましょう。
たびたび法改正がされている相続税ですが、これは消費税等とは異なり、だれもが支払わなくてはならない税金ではなく、一定以上の有形の遺産がある人が払う税金です。また、相続税には所得税と同様「基礎控除」というものがあり、遺産が100%課税対象になるわけでもありません。納税金額を決めるには、その元になる「課税価格の合計額」を算出する必要があります。
【課税価格の合計額の計算式】
各相続人の課税価格の合計額−基礎控除=課税遺産総額
上記の計算式を見てもわかるように、「基礎控除」以内の遺産なら、課税遺産総額がマイナスとなり、相続税は不要です。しかし、よく知られているとおり、2015年(平成27年)の相続税の改定で、「基礎控除」は大きく引き下げられました。
【2015年基礎控除の改正】
~2014年12月31日までは…~
5,000万円+(1,000万円×法定相続人)
~2015年1月1日からは…~
3,000万円+(600万円×法定相続人)
たとえば、子ども2人の二次相続では、2014年までは7,000万円の基礎控除があったのに対して、2015年からは4,200万円の控除となります。
5,000万円の自宅と1,000万円の金融資産があった場合、2014年まではマイナスになりましたが、2015年以降では、「課税遺産総額」は2,200万円となります。計算すると、260万円程の納税が必要となるのです。
基礎控除の引き下げで、相続税の納税者は増加
前記したように、相続税は誰もが払う必要のある税金ではありません。「遺産」が基礎控除以内であれば、申告する必要はないのです。しかし、納税は0でも、申告をする必要がある場合もあります。下記のような「特例」を使い、さらに控除額が増えた場合です。
●配偶者の税額軽減
●小規模宅地等の特例
●相続時精算課税
……etc。
基礎控除の引下げで納税対象者は大幅に増えましたが、その実数ではどの程度の増加となったのでしょうか? 国税庁発表の「相続税の申告実績」によると、この新制度(基礎控除)が導入された2015年(平成27年)のデータは興味深い内容となっています。
「被相続人数(死亡者数)」
前年1,273,004人 → 1,290,444人(17,440人増)…前年比101.4%
「相続税の申告書の提出に係わる被相続人数(財産を相続する人)」
前年18,608人 → 32,209人(13,601人増)…前年比の173.1%
税額
前年 13,908億円 → 18,116億円(4,208億円増)…前年比126.8%
このように、亡くなった方の人数は微増だったのに対し、申告書の提出者数は1.7倍、納税金額は約3割増となっているのです。この数字から読み取れるのは、基礎控除の引下げにより、納税する人が増えたこと、しかし、一人当たりの増税額は下がっているということです。
つまり、相続税を納税するのは一部のお金持ちだけではなくなり、さらに、配偶者の軽減処置等の処遇が引き下げられたら、納税者は増えるでしょう。
2019年10月より消費税が10%に引き上げられましたが、国の社会保障の資金としては、まだまだ十分ではありません。2019年8月27日に発表となった、5年に1回の財政検証(国の年金制度の健康診断)でも、それは明らかになりました。
相続税の申告には何が必要なのか?
日本の税金システムは「申告制」です。しかし、相続税はほかの税金申告と違う点があります。それは財産を相続する際、相続人がひとりならいいのですが、複数いる場合は、「相続人」全員が話し合わないといけないというルールが法律で決められているということです。その話し合いをした証明として「遺産分割協議書」という書類を、相続税の申告の際に使います。
【相続税の申告の際に添付する書類】
①次のいずれかの書類
A)被相続人のすべてが明らかにする戸籍謄本
B)図形式の法定相続情報一覧図の写し
②遺言書の写し、または遺産分割協議書の写し
③相続人全員の印鑑証明
※特例等の適用を受ける場合には、準じた書類が別途必要
財産すべてについての相続が明記された遺言書があれば、遺産分割協議書は必要ありません。しかし、その際にも相続人すべての戸籍謄本、印鑑証明は必要になります。ここが相続手続きの厄介なところでしょう。親族のなかには、長年連絡をとっていない人がいるかもしれませんし、仲たがいで顔も見たくない人が含まれているかもしれません。そのような場合でも、必要な書類を添付しなければ申告書は受け付けてもらえないのです。
長年の隠し子だって立派な「相続人」
お金が集まる所には、色情がらみの問題も集まってくるのが世の常です。相続税の申告をする人のなかには当然、大地主や成功した会社経営者などのセレブが含まれています。なに食わぬ顔で配偶者と家庭生活を送る一方で、愛人を作り、隠し子まで「認知」しているケースは少なくありません。
そのような状況にあっても「秘密は墓場まで持って行くし、持って行ける」と思っている方もあるようですが、誠に残念ながら現在の法律では、認知した子を隠し通すことはムリなのです。
子どもを認知するということは、法律上の親子関係を認めているということです。また、かつての法律では婚外子(非嫡出子)の相続分は、嫡出子の半分とされていました。しかし、従来の嫡出子の規定は、法の下の平等を定めた憲法に反するとの判断から、2013年に行われた民法改正でその旨を記述した文言が削除され、婚外子と嫡出子の相続分は原則同じになりました。
つまり、現在においては、隠し子も実子と同等の相続権を持ちます。いくら長年にわたって隠し通してきた「隠し子」でも、隠したままこの世を去ることは不可能なばかりか、実子と同じ相続権を持つ立派な法定相続人として、相続の話し合いの席に登場する必要があるのです。
相続の手続きにおいては、発生から10ヵ月以内という期限があるうえに、必ず相続人全員を明らかにする必要があるため、亡くなってからさほど時間がたたないうちに、隠し子の存在は、配偶者や実子に知られることになります。家族を見送った疲れも取れないうちに、面倒な事務処理を繰り返して戸籍をたどり、婚外子の存在を知った遺族は、どれほど驚きと腹立ちを覚えることでしょうか。
終活を視野に入れる年齢になってから、なんらかのきっかけで妻や子どもに隠し子の存在を知られ、弁護士のところに駆け込む方もいらっしゃいますが、これはあまり格好のいいことではありません。むしろ潔く、生きているうちに家族に懺悔をし、十分な謝罪をしてから天国へ行ったほうが、魂は安らかになるのではないでしょうか。
それだけではなく、近年では、離婚後何十年も音信不通になっている子どもの存在が問題になるケースも多く、死期が迫るベッドの上で苦しみながら、専門家に最後の相談を持ちかける方もいます。
死なない人はいません。終活とは、自分の人生のラストを演出するセルフプロデュースなのです。一度きりの今の人生、皆に惜しまれつつ、スマートにこの世を去りたいものです。
寺門 美和子
ファイナンシャルプランナー(AFP)
夫婦問題コンサルタント