「生活をダウンサイジングする」という投資的視点
株式投資、個人向け国債、投資信託、不動産投資、FXなどなど、投資の種類は多々ありますが、自分に最適な投資法は何か、どんな規準に選ぶべきかといった点について、悩まれる方も多いことでしょう。
先日大変な話題となった「年金2,000万円問題」をきっかけに、年金額の不足への嘆きや、いかにして2,000万円の資産を形成するかといった話題について、かなり加熱気味に語られていたように思います。
FPとして最近よく受けている相談内容に「何に投資したら老後までに不足額を補えるでしょうか?」といったものが非常に多くなっています。そういう方には選択肢のひとつとして、少し視点を変えた投資のアドバイスも行っています。山梨県在住のファイナンシャルプランナーとしてお勧めするのは、ズバリ「地方移住(主に山梨県)」です。
投資というと、一般的には、株式や不動産でお金を運用して増やすイメージが強いのですが、首都圏と同じ生活を地方で送れば、これまで以下のお金で暮らすことができ、将来の年金受給額に見合った生活にサイズダウンすることが可能です。また、余ったお金で年金の不足を補うほか、iDeCoや積立NISAを活用することで、さらにしっかりと老後資金を貯めることができる、そんな提案をしています。
ここでは、「ライフスタイルへの投資=地方移住」が最適な投資となりうることを、数回に分けて解説していきたいと思いますが、まずは移住した先の生活にスポットを当て、実際どれくらいのリターンが望めるのか検証してみましょう。
今回は、最新の地方移住事情として、地方移住への関心度と、東京都と地方(山梨県)との生活費を比較します。
下記の図表をご覧ください。地方移住への関心度が高くなっていることがわかる資料として、平成30年6月に公表された『平成29年度 国土交通白書※1』から抜粋したものです。
※1 平成29年度は、ライフスタイルに対する国民の意識について「働き方」「楽しみ方」「動き方」「住まい方」に分けて分析されたもので、約5,000サンプルを対象にアンケート調査を実施している。
『平成29年度 国土交通白書』より、ふるさとNPO法人回帰支援センター※2への来訪者・問合せの推移をグラフで表したものを見ると、2008年から2017年までに同センターへの来訪者数と問合せ件数が大幅に増えていることがわかります。この関心度の高さが、筆者が地方移住を勧めている理由の一つとなっています。
※2 ふるさとNPO法人回帰支援センターとは2002年に設立された、地方暮らしやIJUターン、地域との交流を深めたい人々をサポートするために、東京・大阪を除く45都道府県の自治体と連携して地域の情報を提供し、都市と農村の橋渡しによって地方の再生、地域活性化を目指している特定非営利活動法人。
「首都圏での生活費」と「地方での生活費」の差額は?
<東京都での生活費用>
地方移住への関心の高さが数字で明らかになりましたが、では、実際に東京都での生活にどのくらいの費用がかかるのでしょうか。
検証には、「都民のくらしむき(東京都生計分析調査報告 令和元年6月)※3」のデータ(8月30日発表)を見ると、二人以上の世帯の消費支出は1世帯あたり月に316,910円、うち勤労者世帯の消費支出は1世帯あたり月に354,506円となっています。前年の同月で比較すると、2人以上の世帯の消費支出においては9.8%の増加、勤労者世帯の消費支出においては19.9%の増加となっています。
※3 東京と生計分析調査では、都の消費者世帯(単身者などの世帯を除く)を対象として生計収支の調査を行う。収入階層別、生計支出階層別、世帯形態別、世帯人員別等の属性による集計結果を通して都民の暮らし向きの実態を明らかにするとともに、都行政における福祉、労働、消費者対策、その他社会経済上の各種施策を立案及び実施するための基礎資料を提供することを目的としている。
<山梨県での生活費用>
次に、筆者が住んでいる山梨県でも同様のデータがありますので比較していきましょう。平成29年度の「家計調査※4」の結果報告書によると、2人以上の世帯の消費支出は1世帯あたり月に287,703円、うち勤労者世帯の消費支出は1世帯あたり月に315,007円となっています。
※4 国民生活における家計収支の実態を把握し、国の経済政策・社会政策の立案のために基礎資料を得ることを目的とし、昭和21年から総務省が都道府県を通じて毎月実施している統計調査。
単純に、東京都と山梨県の2人以上の世帯の消費支出の、1世帯あたりの月の金額を比較すると、東京都316,910円、山梨県287,703円で、差額は29,207円です。これをさほど変わらないと受け止めるか、大きな差と受け止めるかは、人によって違うと思いますが、ファイナンシャルプランナーとしての筆者は、声を大にして「大きな差である」主張したいと思います。
この月額の差額29,207円をiDeCoや積立NISAで運用し、老後資金を蓄えたら、どれだけ年金の不足額を補えるでしょうか。そもそも、毎月30,000円の収入増は大変です。副業したり残業したりすれば、時間も体力も使うことになります。しかし、生活拠点を移すだけでこれだけのお金が生み出せるなら、かなりのメリットではないでしょうか。老後資金への蓄えのために月額約30,000円を捻出できたら、年金2,000万円への心配もかなり減るはずです。
統計データによって東京都と山梨県の消費・支出の差を比較してきましたが、この差額はあくまでもひとつの比較にすぎません。とはいえ、首都圏での生活を地方に移すことで消費・支出を抑え、iDeCoや積立NISAで老後資金を準備できるようになれば、年金不足の心配も減り、老後生活への不安感は軽減されるでしょう。
次回以降は、地方移住の具体例を通じ、投資メリットの高さを検証していきます。
たまねぎFP
奥山 茂仁
ファイナンシャルプランナー(AFP)