一定額以上の財産を所有している人にとって、生前の相続対策は欠かせませんが、個々の事情や資産の構成等によって検討すべき内容が異なります。本連載では、公認不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士の曽根惠子氏、税理士法人アレース代表社員の保手浜洋介氏の共著書、『結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術』(総合法令出版)から一部を抜粋し、ケース別の実例をもとに、身内で揉めず相続税をできる限り少なくするための具体的な相続対策を紹介します。

節税には資産組替や購入などの「不動産対策」が必須

[図表1]
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[図表2]
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【相談内容】不動産だけでなく、家賃収入も入るため現金も残っている

佐藤さんの母親は農家の長男のもとに嫁ぎ、祖父母と同居しながら代々の土地を守ってきました。農地は区画整理されて宅地となり、農家から土地持ちの資産家へと変わらざるを得なかった時代でした。

 

数年前に父親が亡くなった時に、母親は相続税の負担がない割合で財産の半分を相続、残る半分は佐藤さんと姉が相続しました。母親の納税はありませんが、佐藤さんと姉には2億円ほどの相続税がかかり、土地の一部を売却して納税するしかありませんでした。

 

その後、相続税が改正されて税率も上がったことや母親が80歳を過ぎたことから、いつ相続になってもいいように準備しておきたいとセミナーに参加し、相談に来られました。

 

●相続プラン1 現状分析と課題

【感情面】姉との合意はできているが、不安もある

姉は資産家に嫁いでおり、不動産はいらないとは言うが確約はない

【経済面】不動産が多いため、相続税も多額で現金はあるが足りない

土地が81.7%あり、明らかにバランスが悪い

【収益力】賃料収入はあるが、収益がない土地も多い

総資産収益力2.64% 賃料収入3,750万円/資産総額14億2,000万円

【対応力】分割金、納税資金不足

6億円以上の現金が必要になると想定されるが不足

 

〇コンサルタントより

佐藤さんは所有する土地を活かして父親の代から賃貸アパートや駐車場で賃貸事業をされており、法人を作っておられます。母親には父親から相続した現金に加えて毎月家賃が入るため、2億円以上も預金がありました。

 

けれどもこのままでは相当な相続税がかかり、今まで貯めてきた2億円の預金も納税のために全部なくなってしまいます。節税するためには資産組替や購入などの不動産対策が必須だと判断しました。

 

[図表3]相続力
[図表3]相続力

 

内孫との「養子縁組」も節税効果は大きい

●相続プラン2 不動産評価と特例の適用効果の検証

特例1 地積規模の大きな宅地の評価(駐車場A)▲1億9,754万円

特例2 地積規模の大きな宅地の評価(駐車場B)▲1億4,673万円

特例3 小規模宅地等の特例(自宅290.22㎡)▲4,574万円

特例4 小規模宅地等の特例(賃貸24.1㎡)▲358万円

 

財産の8割が土地で、500㎡以上で適用できる地積規模の大きな宅地の評価が採用できます。小規模宅地等の特例も組み合わせると大幅な節税効果が得られることが確認できました。

 

●相続プラン3 対策と節税効果の検証

◇対策1【養子縁組】孫(中学生)と養子縁組 5,100万円の節税

長男の子(中学生・男子)を養子にして相続人を増やす

◇対策2【購入】一棟収益マンション購入 ▲9,910万円

借入をして1億5,000万円の賃貸マンションを物件購入

◇対策3【生命保険】生命保険加入 ▲1,500万円

非課税枠(1,500万円)活用のため無告知型の一括払い終身保険加入

◇対策4【贈与】現金贈与 ▲4,000万円

長女とその子供(被相続人の孫)に数年に分けて計4,000万円贈与

◇対策5【購入】一棟収益ビル購入 ▲1億3,155万円

人気エリアの駅近(徒歩3分)の一棟収益物件を2億3,000万円で購入

 

〇対策の内容

相続人が2人と少ないため、内孫と養子縁組をして、相続人を増やすことで節税ができます。孫養子は相続税が二割加算となりますが、それでも節税効果は大です。

 

現金が多くあるので、生命保険の非課税分だけ一時払いの保険に加入しました。また、姉には不動産ではなく、現金にて分割予定です。その分を姉の子供に現金贈与するようにしました。大きな節税は不動産対策となります。初めに借入をして一棟マンションを購入、次に現金を活用して事業ビルを購入しました。

 

ともに自宅のあるエリアではなく、これからも資産価値の下がりにくい人気の高いエリアに所有されることをお勧めしました。人気の高いエリアで、最寄り駅から徒歩3分にある学習塾に貸している収益物件です。テナントが入ったままで返済の不安がなく、安定した家賃収入が入り、節税効果が生まれました。

3年計画で相続税ゼロを目指す…結果は?

●対策後財産評価額 約7億3,900万円

●相続税 2億4,315万円(孫二割加算後)

◇特例

地積規模の大きな宅地の評価+小規模宅地等の特例 ▲3億9,359万円

◇各対策と相続税評価減

養子縁組、購入、生命保険、贈与 ▲3億3,665万円

          評価減合計 ▲7億3,024万円

◇相続税の計算

財産の内訳

 土地 9億8,000万円

 家屋 5,035万円

 現金 1億3,250万円

 その他 6,115万円(生前贈与等含む)

 借入 ▲4億8,130万円

 葬儀費用等 ▲370万円基礎控除(相続人3人) 4,800万円

 課税財産 6億9,100万円

 相続税 2億4,315万円

※相続税の計算の仕方

子 2億3,033万円×45%-2,700万円=7,664万円

 (7,664万円×1.2)-未成年控除70万円=9,126万円

計(7,664万円×2人)+9,126万円-贈与税額控除139万円=2億4,315万円

 

◆対策後の相続力判定◆

【感情面】家族で対策に取り組み、姉も協力的

【経済面】相続税60.46%減 3億7,185万円の節税

【収益力】総資産収益力7.98% 賃料収入5,900万円/資産総額7億3,900万円

【対応力】納税は現金でできる見込みとなり、大きな不安はなくなった

 

〇コンサルタントより

3年計画で提案し、土地の資産組替を合わせると相続税がゼロにできる計画も立てていましたが、1年経過した時に母親が亡くなり時間切れとなりました。それでも5つの対策を実行して頂いた成果で、相続税は最初の試算からは60.70%減で3億7,000万円以上の節税をすることができ、成功したと言えます。

 

[図表4]
[図表4]

 

曽根惠子
公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 

 

保手浜洋介
税理士法人アレース 代表社員

結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術

結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術

曽根 惠子 保手浜 洋介

総合法令出版

「相続は誰に相談すればいいのかわからない」「いつ、どのような対策を講ずればいいのか分からない」。昨今、聞かれる声です。身内で揉めず、相続税をより少なくするにはどうすればいいのか――。相続には個々の事情に合わせ、…

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