小売り業界の店舗戦略…Eコマース拡大の影響はほとんどなし

今回は、国内外の物販リテーラーへのアンケートを分析した「ジャパンビューポイント - ネット時代のリアル店舗」から抜粋し、物販リテーラーの今後の店舗戦略を見ていきます。※ロサンゼルスを本拠とする世界最大の事業用不動産サービス会社のシービーアールイー株式会社(CBRE)。本連載では、そのリサーチ部門が世界の不動産市場の最新情報をお伝えします。

新規出店は、商業中心地の「路面店舗」が人気

■新規出店-面積-

Eコマースの拡大は、新規出店する店舗の面積に影響しない、と回答したリテーラーは約8割に上った(図表1)。ただし、従前よりも面積が大きくなった、または小さくなったと回答したリテーラーもそれぞれ1割程度みられた。

 

面積が大きくなった理由としては、「イベントやプロモーションスペースに面積を割くため」が最多だった。自社商品を使った新サービスをスタートするため、既存店舗よりも大きな面積を必要としているリテーラーや、多種多様なイベントを開催しファンを増やしていると定評のあるリテーラーなどが含まれている。これらのリテーラーは、Eコマースでは提供し難い消費者のブランド体験を重視しているといえよう。

 

一方、面積が小さくなった理由としては、「今よりもよい立地に出店したいが出店コストは抑えたいため」が最多だった。立地改善のため、既存の路面店舗よりも小さい面積だが歩行者量の多い駅近の店舗を新たに出店するリテーラーや、バーチャル試着ができるテクノロジーを導入することでバックヤードを削減し、従来よりもよい立地に出店しようとしているリテーラーが含まれる。消費者がアクセスしやすい立地に出店し、手軽に商品を試せることでEコマースとの差別化を図っている。

 

[図表1]新規出店を検討するリアル店舗の面積帯(出所:CBRE)
[図表1]新規出店を検討するリアル店舗の面積帯(出所:CBRE)

 

■新規出店-立地や形態-

Eコマースの拡大は、新規出店する店舗の立地や形態に影響しない、と回答したリテーラーは5割を超えた(図表2)。影響がないと回答したリテーラーのなかには、既存のリアル店舗に優良な固定客がついているか、またはインバウンド需要の取り込みに成功していると思われるリテーラーが多く含まれる。

 

どちらともいえない(30.9%)と回答したリテーラーの多くは、拡大するEコマースがリアル店舗に与える影響について、様子見の姿勢である可能性が高い。

 

一方、立地も形態も変わったと回答したリテーラー(10.9%)からは、主要な商業エリアで路面店舗を新たに持とうとしている動きが複数みられる。その多くは、大型の郊外型店舗からスタートして売り上げを拡大し、従来よりも面積の小さい路面店舗を都内の主要エリアに出店しようとしているリテーラーである。

 

また、ショッピングセンターへの出店を中心に全国展開してきたリテーラーが、地方の不採算店などを閉鎖して、都市部の主要エリアで路面店舗の旗艦店を出店しようとしているケースもある。

 

新規出店を検討するリアル店舗の形態については、現状の店舗とは異なる形態を選択したリテーラーが散見された(図表3)

 

現在「郊外型ショッピングセンター」に出店しているリテーラーは、新規出店では「都市型ショッピングセンター」を選択した割合が最も高い。商圏人口に対して郊外型ショッピングセンターが増えすぎたことに加え、日本人の人口減少や住まいの都心回帰などから既存店舗の採算性が低くなったことが理由だと推察する。

 

また、現在「百貨店」に出店しているリテーラーは、新規出店では「(商業中心地の)路面店舗」を選択した割合が最も高い。富裕層の消費意欲回復やインバウンド需要の拡大などにより、百貨店の高額品や免税売上高は堅調に推移している。一方、そのような恩恵が少ないミッドレンジファッションを扱うリテーラーを中心に、百貨店離れの傾向がみられる。

 

全体の新規出店では、「(商業中心地の)路面店舗」の割合が73.8%と最も高く、次に「都市型ショッピングセンター」(66.4%)となった。両形態は回答者の既存店舗の形態としても割合が高く、そのほとんどが新規出店でも同じ形態を選ぶと回答している。

 

 

[図表2]新規出店を検討するリアル店舗の立地・形態(出所:CBRE)
[図表2]新規出店を検討するリアル店舗の立地・形態(出所:CBRE)

 

[図表3]新規出店を検討するリアル店舗の形態(出所:CBRE)
[図表3]新規出店を検討するリアル店舗の形態(出所:CBRE)

Eコマースの拡大…「リアル店舗」への影響は限定的

■リアル店舗の数

Eコマースが拡大しているため既存店舗や新規出店数を減らす、というリテーラーも限定的で、「どちらも減らさない」が約8割に上った(図表4)。どちらも減らさない理由としては、「消費者に買い物体験を楽しんでもらうため」と、「認知度の向上を含むブランディングにはリアル店舗が重要なため」が最多だった。

 

一方、リアル店舗の数を減らす(既存店舗数、新規出店数、または両方)割合は22.6%にとどまった。減らす理由としては、「Eコマースの拡大によって消費者の購買行動が変化したため」が最も多く、「Eコマースが小売市場全体の構造に変化をもたらしたため」が続いた。

 

同時に、今後閉店を検討する既存店舗の形態では、百貨店や郊外型ショッピングセンターという回答が上位となった。いずれも、新規出店の検討対象としても回答率がやや低かった形態である。

 

[図表4]リアル店舗の数(出所:CBRE)
[図表4]リアル店舗の数(出所:CBRE)

 

■新規出店時に重要視するポイント

Eコマースが拡大するなかで新規出店を検討する際に重要視する項目を訊いたところ、Eコマースの拡大前から重要視されてきた項目が総じて上位に入った(図表5)

 

「商業エリアとしての環境や客層」と「歩行者量や歩行者の動線」がそれぞれ61件と最多だった。もとより物件選択で最も重要視されるのは立地である。そのため、Eコマースが拡大を続けるなかでも「商業エリアとしての環境や客層」がトップの1つだったことに不思議はない。

 

また、認知度向上を含むブランディングにはリアル店舗が欠かせないと回答したリテーラーが多かったことからも、「歩行者量や歩行者の動線」がもう1つのトップだったことも必然といえる。

 

次に「視認性のよさ」が多かったことも、リアル店舗に認知度向上の役割を求めるリテーラーが多いことが背景にありそうだ。「ブランドイメージと合うエリアか否か」を重視するという回答率は、国内ブランドより海外ブランドのほうが高かった。

 

一方、「賃料などコストの抑制」を重要視する傾向は、国内ブランドのほうが高かった。海外ブランドが日本の市場におけるブランド認知度の向上に重きを置いているのに対し、国内ブランドは収益性により注力していることがうかがえる。

 

[図表5]新規出店時に重要視するポイント(出所:CBRE)
[図表5]新規出店時に重要視するポイント(出所:CBRE)

 

関連レポート:ジャパンビューポイント - ネット時代のリアル店舗

 

CBRE日本法人は、不動産賃貸・売買仲介サービスにとどまらず、各種アドバイザリー機能やファシリティマネジメント(FM)などの18の幅広いサービスラインを全国規模で展開する法人向け不動産のトータル・ソリューション・プロバイダーです。CBREの前身となった生駒商事が1970年に設立されて以来、半世紀近くに亘り、日本における不動産の専門家として、全国10拠点で地域に根ざしたサービスを展開してきました。

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CBREグループ(NYSE:CBG)は、「フォーチュン500」や「S&P 500」にランクされ、ロサンゼルスを本拠とする世界最大の事業用不動産サービス会社です(2018年の売上ベース)。全世界で90,000人を超える従業員、約480カ所以上の拠点(系列会社および提携先は除く)を有し、投資家、オキュパイアーに対し、幅広いサービスを提供しています。不動産売買・賃貸借の取引業務、プロパティマネジメント、ファシリティマネジメント、プロジェクトマネジメント、事業用不動産ローン、不動産鑑定評価、不動産開発サービス、不動産投資マネジメント、戦略的コンサルティングを主要業務としています。

写真は、リサーチ エグゼクティブディレクターの大久保寛氏。
CBREのリサーチ部門の責任者として、オフィス、物流施設、商業施設の賃貸市場ならびに売買市場のリサーチ業務を統括。製鉄会社および投資銀行勤務を経て1997年から2013年まで証券アナリストとして株式リサーチ業務に従事。2000年からはJREITを中心に不動産セクターを担当。UBS証券、ゴールドマンサックス証券、マッコーリーキャピタル証券、みずほ証券を経て、2013年10月より現職。

著者紹介

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※本連載は、シービーアールイー株式会社(CBRE)が発表するレポートから一部抜粋し、転載したものです。
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