実は「リアル店舗のショールーム化」は進んでいない

今回は、国内外の物販リテーラーへのアンケートを分析した「ジャパンビューポイント - ネット時代のリアル店舗」から抜粋し、Eコマースとリアル店舗の現状について見ていきます。※ロサンゼルスを本拠とする世界最大の事業用不動産サービス会社のシービーアールイー株式会社(CBRE)。本連載では、そのリサーチ部門が世界の不動産市場の最新情報をお伝えします。

EC化率が40%以上と回答したリテーラーは極少数

リアル店舗を持つリテーラーの一部で、その運営方針を変える動きがみられている。小売市場全体が伸び悩む一方で、Eコマースの市場拡大が続いているためだ。

 

経済産業省の「平成29年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、2017年における日本国内の消費者向けEコマースの市場は前年比9.1%増の16兆5,054億円に拡大。Eコマースの浸透度合いを示すEC化率(Eコマースの売上高/小売売上高)も、0.36ポイント増加して5.79%に上昇した。

 

本レポートでは、リアル店舗を持つ国内外の物販リテーラーに対してアンケートから、Eコマースとリアル店舗の現状と、拡大するEコマースがもたらすリアル店舗への影響について分析した。

 

■Eコマースの利用状況

回答したリテーラーの約9割がEC販路を持っていることがわかった(図表1)。そのうち、自社ならびに他社(※1)のEC販路を持っているリテーラーが48.8%、自社のEC販路のみが34.1%と続いた。

 

業種でみると、自社ならびに他社のEC販路を持っている割合が高かったのは「ファッション」である。当初(04年頃)はネットで服は売れないといわれていたため、ほとんどのファッションリテーラーはモール型ファッションECサイト(つまり他社のEC販路)のみを通じてネット販売を行っていた。しかし、こういった販路を通じた売り上げの増加に伴って「ネットでも服は売れる」と認知されはじめたことで、多くのリテーラーが自社のEC販路も立ち上げたと推察する。

 

※1 ZOZO TOWN、Amazon.com、&mallなどのECサイト

 

[図表1]担当ブランドや業態の EC 販路を持っているか(出所:CBRE)
[図表1]担当ブランドや業態の EC 販路を持っているか(出所:CBRE)

 

一方、自社のEC販路のみという回答が多かった業種は「ラグジュアリー」である。ラグジュアリーブランドの多くは、ブランドのアイデンティティを武器に独自の価値を高めることで固定客を作っている。消費者もまた特定ブランドの固定客となっているケースが多い。そのため、異なるブランドが並べられることで独自色が希薄化するリスクのある他社のEC販路は、ラグジュアリーブランドには敬遠される傾向があると考えられる。

 

■EC化率

回答したリテーラーの約4割が、Eコマースを通じた売り上げが自社売り上げ全体の「5%未満」と答えている(図表2)。これは、2017年の物販系分野のEC化率(※2)5.79%を下回る値である。

 

自社のEC販路だけを利用しているのか、それとも自社と他社の販路の両方を利用しているのかによって、EC化率は影響を受けているようだ。「5%未満」と回答したリテーラーの5割超は自社のEC販路しか持っておらず、そのほとんどが「ラグジュアリー」リテーラーであった。一方、自社ならびに他社のEC販路を持っているリテーラーのEC化率は比較的高い。自社と他社の両方のEC販路を持っているリテーラーは、EC化率が「5-10%未満」という回答結果では6割、「10-20%未満」では8割を占めた。

 

※2 経済産業省が発表した、小売の売り上げ全体に対するEC売り上げの比率

 

EC化率が「20%以上」と回答したリテーラーの多くは、比較的早い時期から自社ならびに他社のEC販路を構築していたケースが散見される。なかには、Eコマースでの販売からスタートしたリテーラーが、市場規模の大きいリアル店舗の出店を加速したことで、現在ではEC化率が30-40%未満になるなど、リアル店舗からの売り上げがEコマースを上回ったところもあった。なお、本アンケートではEC化率が40%以上と回答したリテーラーは極少数だった。

 

[図表2]EC化率(出所:CBRE)
[図表2]EC化率(出所:CBRE)

「ショールーム化」が起きている業種は限定される

■リアル店舗のショールーム化

Eコマースで買い物をする消費者が増えることによりリアル店舗で物が売れなくなる、いわゆるショールーム化(※3)を指摘する報道が散見されるようになった。

 

しかし本アンケートでは、EC市場の拡大が原因となってショールーム化したリアル店舗はない、と回答したリテーラーが8割を超えている(図表3)。現状では、リアル店舗の市場規模がEコマースの約7.6倍も大きいため、リアル店舗のショールーム化を感じているリテーラーは少ないようだ。

 

また、どの販売チャネルからも消費者がスムーズに商品を購入できるオムニチャネル(※4)を構築しているリテーラーは、リアル店舗のショールーム化をむしろ推奨している。つまり、リテーラーによってはショールーム化をネガティブに捉えるのではなく、新たな店舗のあり方とみているようだ。

 

※3ショールーム化とは、消費者がリアル店舗で確認した商品をその場では買わず、Eコマースで購入すること。リアル店舗の売り上げが毀損される原因となる

 

※4リアル店舗やEコマースをはじめとする、あらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合し、それによりどの販売チャネルからもスムーズに商品を購入することができる環境を実現すること

 

一方、ショールーム化したリアル店舗がある(19.3%)と回答したリテーラーの業種をみると、ファッションや家具・雑貨を扱うリテーラーが多い。これらの業種は、商品のサイズやカラーが豊富であるため、実際の購入はネット上がメインの販路となりつつあるようだ。

 

特に家具などの大型商品は、Eコマースのほうがサイズなどを細かく記載でき、配置イメージもわかりやすい。ただし、実物を試着する、または見なくては購入を決められない消費者が一定数いるために、ショールーム化したリアル店舗の運営も続けていると推察する。

 

こうしたリテーラーは概して、店員の接客やサービスに力を入れようとしていることが、本アンケートの別の質問から明らかになっている。消費者との関係性を深めることで固定客を増やし、ひいては売り上げ全体に繋げたい考えだと推察する。

 

[図表3]Eコマースの市場拡大によってショールーム化したリアル店舗があるか(出所:CBRE)
[図表3]Eコマースの市場拡大によってショールーム化したリアル店舗があるか(出所:CBRE)

 

関連レポート:ジャパンビューポイント - ネット時代のリアル店舗

 

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写真は、リサーチ エグゼクティブディレクターの大久保寛氏。
CBREのリサーチ部門の責任者として、オフィス、物流施設、商業施設の賃貸市場ならびに売買市場のリサーチ業務を統括。製鉄会社および投資銀行勤務を経て1997年から2013年まで証券アナリストとして株式リサーチ業務に従事。2000年からはJREITを中心に不動産セクターを担当。UBS証券、ゴールドマンサックス証券、マッコーリーキャピタル証券、みずほ証券を経て、2013年10月より現職。

著者紹介

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※本連載は、シービーアールイー株式会社(CBRE)が発表するレポートから一部抜粋し、転載したものです。
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