今回は、人材不足が引き起こす問題を見ていきます。※現在の日本の製造業界は回復基調にある一方、深刻な人手不足に悩まされています。しかし、旧態依然としたトップダウン型の組織を廃止し、業務の細分化、社員への決裁権の譲渡などを実施することで、業務の効率化を図れるだけでなく、若い世代がすぐに活躍できる職場環境を生み出すことが可能です。本連載では、中小製造業の生き残りを可能にする「組織づくり」を解説します。

熟練技術者の高度なノウハウ・技術の承継が進まない

人手不足・人材不足の中で製造業は具体的にどのような問題に直面することになるのでしょうか。

 

第一は「技術継承」です。つまりは熟練技術者・技能者がもつ高度なノウハウや技術を次世代に伝えることができなくなるのではないかという問題です。

 

この技術継承の問題はいわゆる「2007年問題」がクローズアップされた頃から、日本の製造業の抱える課題として意識され続けてきました。

 

2007年問題とは、日本の高度成長時代の産業の担い手であった団塊の世代が、2007年から順次大量に定年を迎えることによってさまざまなマイナスの影響が出るといわれたものです。その2007年問題の一つとして、熟練技術者・技能者の大量退職とともに、技術・技能の継承が困難になることが挙げられていたのです。

 

そうした技術継承の問題は人口が減少し、製造業で人材確保が困難になっている中で、ますます深刻化しています。

 

中小企業庁が2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングに委託して実施した「技能・技術承継に関するアンケート調査」では、技術・技能人材がベテラン中心となっている中小企業では、技術・技能承継について「かなりうまくいっている」あるいは「うまくいっている」と回答している企業の割合が18%に過ぎませんでした(図表1参照)。

 

[図表1]技術・技能人材年齢構成別の技術・技能継承の円滑度

 

出典:中小企業委託「技能・技術継承に関するアンケート調査」 (2011年12月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))(注)従業員300人以下の企業を集計
出典:中小企業委託「技能・技術継承に関するアンケート調査」
(2011年12月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))
(注)従業員300人以下の企業を集計

 

このように、ことにベテラン作業者が実務の中心となっている中小の製造業企業では、技術承継がほとんど進んでいない状況が存在するのです。

低下する生産性・製品のクオリティー

人手不足・人材不足がもたらすもう一つの憂慮すべき問題は、「生産性と製品のクオリティーの低下」です。

 

厚生労働省が所管する独立行政法人労働政策研究・研修機構が、人材(人手)不足に関して30人以上規模の企業1.2万社を対象に行った2016年の調査では、人材(人手)不足が企業経営に及ぼしている影響について尋ねています。それに対して、何らかの影響があると回答した割合は約3分の2に達していました。

 

[図表2]中途採用で人材が確保できなかったことによる影響

 

出典:内閣府マンスリートピックス「人手不足感の高まりについて」 (参考)リクルートワークス研究所「中途採用実態調査」により作成
出典:内閣府マンスリートピックス「人手不足感の高まりについて」
(参考)リクルートワークス研究所「中途採用実態調査」により作成

 

また「具体的にどのような影響がもたらされているのか」という設問に対する回答は、図表に挙げたように「需要の増加に対応できない」が45.4%でトップを占めており、さらに3位には「事業運営上に支障を来している(遅れやミスの発生、クレームの増加等)」が挙がっています。

 

[図表3]人手不足が企業経営に与える影響の内容(2016年)

出典:内閣府マンスリートピックス「人手不足感の高まりについて」
出典:内閣府マンスリートピックス「人手不足感の高まりについて」

 

このように、多くのメーカーが、人手・人材が足りないために生産性が低下し、需要に対応できなかったり、製品の質が下がってクレーム等を受けている実情があります。

7割近くの企業に見られる「残業の増加&休暇の減少」

それから、「職場環境の悪化」も重要な問題です。

 

前述した労働政策研究・研修機構の調査では、人材(人手)不足が職場に及ぼしている影響についても、調査が行われています。以下は、その結果をまとめたものです。

 

人材(人手)不足が職場に及ぼしている影響

①時間外労働の増加や休暇取得数の減少  69.8%

②従業員間の人間関係や職場の雰囲気の悪化  28.7%

③教育訓練や能力開発機会の減少  27.1%

④従業員の労働意欲の低下  27.0%

⑤離職の増加  25.6%

⑥労働生産性の向上  21.3%

⑦メンタルヘルスの悪化や休職の増加  16.3%

⑧労働災害・事故の発生・増加  9.3%

⑨その他  2.0%

⑩特段の影響はない  4.6%

⑪無回答  2.1%

(人材[人手]が不足している企業1253社が対象。複数回答)

 

実に7割近くの企業が、残業が増加し、休暇の数が減少していると回答しています。労働災害・事故の発生・増加も1割近くに及んでおり、人手不足・人材不足が労働環境に大きな負担をもたらしている様子がありありと伝わってきます。

「今いる人材の活用」が急務

そもそも人手不足・人材不足のために問題を抱えている企業をみていると、今いる人材をうまく活用できていないところが少なくないように思えます。

 

人材を十分に活用できていない企業では「生産性が低下する」「いたずらに人件費ばかりがかかり、売上があっても利益が少なくなっている」「社員のモチベーションが下がる」などの弊害がもたらされることになります。

 

人手不足・人材不足が原因と思っている問題も、実は人材活用のつたなさが原因となっている可能性もあるでしょう。だとしたら、「人手が足らない・・・どうしたらいいのだ」「人材がいないために本当に困っている」などと嘆く前に、まずは会社の仕組みを、組織のあり方を見直すべきなのかもしれないのです。

 

とに、今後、製造業の人手不足・人材不足は、より深刻化することが確実です。

 

図表4は、産業別に就業者数の推移をまとめたグラフになります。

 

[図表4]産業別就業者数の推移(主要産業大分類)1951年~2017年 年平均

出典:総務省「労働力調査」
出典:総務省「労働力調査」

 

製造業を見てみますと、1992年に1569万人でピークを迎えた後、製造業で働く人の数は減少し続け、2012年には1033万人にまで落ち込んでいます。

 

その後、若干の増加も見られますが、基本的に製造業の就職者数が持ち直すことはなく、長期的にみれば、ひたすら減り続けることになるでしょう。

 

このように人手不足・人材不足が解消することを期待できない中では「新たな人手・人材をどう確保するのか」に頭を悩ませることよりも、むしろ「今いる人材をどう有効活用するのか」について知恵を絞るほうが望ましいはずです。

 

超人材難でも儲かる工場の組織づくり

超人材難でも儲かる工場の組織づくり

大野 孝久

幻冬舎メディアコンサルティング

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