リーダーは、常に「良い影響を与える」ことを考えよ
ピラミッド型組織では、係長、課長、部長など上に立つ者が複数存在します。しかし、フラットな組織では、社員の上に立つ者は基本的に経営者のみです。そのため、経営者には、“リーダー”としての自覚を持つことがとりわけ強く求められることになります。
どんな世界でも、人はリーダーを見て育ちます。例えば、家庭では親、学校では先生、スポーツでは監督、コーチなどがリーダーとしての役割を果たすことになります。
リーダーは、その下にいる人たちに、当然、大きな影響を与えることになります。悪いリーダーからは悪い影響を、良いリーダーからは良い影響を受けることになるでしょう。
良い影響を受ければ良い子どもに、良い生徒に、良い選手になります。逆に悪い影響を受ければ悪い子どもに、悪い生徒に、悪い選手になるはずです。
だからこそ、リーダーは常に良い影響を与えることを考えなければなりません。
リーダーは人の手本として、良い考え方、良い行動を示し、良い言葉を使い、それによって組織内のメンバーを正しく成長させる義務と責任があるのです。
そのような責任をリーダーとして全うすることこそが、社長としての役割です。その役割をしっかりと引き受け、決して逃げることなく、自分を精神的にも鍛え、社員に良い影響を与えることを常に心がけなければならないのです。
なお、私はどのような組織でもリーダーは概ね決まっていると思っています。つまり、皆から「あの人がリーダーにふさわしい」と思われている人がいるはずです。
具体的には、「自分の命よりも大切なものをもっている人」「周りの幸せを願うことができる人」「自分の得を考えない人」「楽をすることが嫌いな人」「正直な人」「素直な人」などといった、他の人が人間的に尊敬できる「先義後利」の精神を理解しているような美質を備えている人です。総じていえば、「威厳がある人」といえるのかもしれません。成功している組織は、当然のように、そのような人が自然とリーダーになっているでしょう。
なお、先に触れたナポレオン・ヒルはリーダーが失敗する10大原因として、以下の10カ条を挙げています。
①精密な思考に欠けること
②つまらない仕事をしたくないという気持ちを持つこと
③行動よりも知識を大切にしすぎること
④部下の挑戦を恐れること
⑤想像力が欠如していること
⑥利己主義者
⑦過激な性格
⑧不誠実
⑨特権の乱用
⑩地位の誇示
これらの10カ条はつまり、「経営者が経営に失敗する10カ条」といえます。
この中で、個人的には「精密な思考」を最も重要視しています。「精密な思考」とはつまり、「ひたすら考える」ことを意味します。
企業経営者は、社員に向かうべき道を示す羅針盤としての役目を果たさなければなりません。
しかし、精密な思考がなければ、考えに深さが欠け、一時の思い付きで軽はずみな話をしたり、不確実な意見を述べたりすることになります。
それでは社員から信頼されず、羅針盤としての役目を果たすことはできません。
深く考えた上で正しい道を示すためにも、人の上に立つ者は精密な思考を訓練することが必要になるのです。
フラットな組織の構築は、女性社員の役割がカギに
また、フラットな組織を築く上では、女性社員の役割が大きなカギを握ることになります。
具体的にいえば、優れた女性社員が会社の中心にいて、組織全体に目配りしていることが理想的です。
そもそも、女性には組織を安定させ、そのメンバーを成長させる特別な力が備わっています。
最もわかりやすい例は母親です。
家庭の中で、家族に対して誰よりも強い愛情を持っているのは母親でしょう。そのような母親の愛情を土台として、家庭内の秩序や道徳は保たれています。また子どもの心身が健やかに育つのも母親の愛情があるからこそといえます。
たとえば、子どもが、勉強やスポーツなどに頑張るのも「お母さんに喜んでほしいから」「ママの笑顔が見たいから」です。母親が子どもに対して寄せる無私の愛情に対して、子どもながらに一生懸命応えたいと思って最大限のパワーを発揮するのです。
このような女性の力、“母親としての力”は、会社の成長になくてはならないものです。
特に、フラットな組織では、上下関係がなく誰もが平等な立場のために、社員の間でもめごとが起きた時に、ピラミッド型組織のようにマニュアルに沿った素早い問題解決が図れません。例えば上司の鶴の一声で一方的に解決するような手段は取れません。その結果、本当の問題の解決がなかなか進まず、時間ばかりがムダに過ぎ去っていくようなことがあります。
しかし、日頃から母親のように慕われている女性社員が社内にいると、その社員が中心となって、最終的に誰の心にも遺恨を残さない平和的な解決がスムーズに行われることが期待できます。
また、そもそもそのような母親的な存在の女性社員がいると、それだけで不思議と社員間の争いは起きないものです。
こうした女性にしかない特別な力を重視して、私の会社では、正社員、パートを問わず女性社員に重要な役割を担わせています。
一例を挙げると現在、私を補佐する右腕的な立場にいるのは女性パートの室長(次長格)であり、悩み事のある社員はみな「Sさん、Sさん」とまず彼女に相談を持ちかけるなど、文字通り会社の中心的存在となっています。
女性が働きやすい環境を整える
このように、女性社員の役割とその活躍に大きな期待を寄せる前提としては、当然のことながら、女性が働きやすい環境を社内に整えることが必要になります。
内閣府が行った「若者・女性活躍推進に関するアンケート調査」(2013年5月)では、「仕事・職場環境として必要なこと」に関して具体的に以下のような事柄が求められていることが明らかにされています。
①育児・介護との両立について、職場の支援制度が整っていること
②職場の上司・同僚が、女性が働くことについて理解があること
③企業内で長時間労働の必要がないこと、勤務時間が柔軟であること
④仕事が適正に評価されること
⑤企業トップが女性の活躍の促進に積極的であること
⑥仕事の内容にやりがいがあること
⑦身近に活躍している女性(ロールモデル)がいること
このうち、①「育児・介護との両立について、職場の支援制度が整っていること」については男女共に7割以上が、②「職場の上司・同僚が、女性が働くことについて理解があること」、③「企業内で長時間労働の必要がないこと、勤務時間が柔軟であること」に関しては男女共に半数以上が必要という回答を行っています。
なお、①に関して私の会社が実際に行っている取り組みをいくつか紹介すると、まず子どもを育てている女性が安心して働けるよう、社内に全社員が利用できる無料の託児所を設けています。送迎バスも自社で用意しています。また、子ども一人につき1万5000円の育児手当を支給する制度もあります。
[図表]社内託児所
それから、子どものイベントがある時には、申請すれば自由に“中抜け”ができます。たとえば、子どもの学校で運動会や学芸会などがあった時は、就業時間中でも仕事を中断して参観等することを認めています。
より正確にいえば、認めているというよりは「子どものイベントには是非参加してください」とむしろ積極的に促しています。
やはり、子どもにとっては、学校で自分の活躍する一生に一度しかない姿を親に見てもらうことは何よりも嬉しく幸せなことなのですから、そうした親子の時間を心から大切にしてもらいたいと思っているのです。