多くの人が「上司」の概念を誤解している
十分なマネジメント能力をもたない管理職、上司が存在することは、他の社員にとっても、つまりはその部下となる社員にとっても大変なストレスになるおそれがあります。
総合人材サービスのマンパワーグループ株式会社が、20~59歳の正社員の男女400名を対象に、勤務先で感じるストレスについて実施した調査(2016年6月にインターネットで実施)では、「現在、仕事上でストレスはありますか?」という質問に対して、「とてもある」と回答した人は33.0%、「どちらかといえばある」が42.8%であり、7割以上が「ストレスを感じている」と答えました。
そして、ストレスの原因としては、以下のような項目が挙げられています。
[図表1]ストレスの原因となる項目
このように「上司との関係」が男女ともに4割以上を超えてトップとなっています。いうまでもありませんが、上司がマネジメント能力に優れていれば、部下のストレスの原因となるはずはありません。管理職にふさわしくない者がその地位に置かれている企業が実際に数多くあることを、この結果はありありと示しているといえます。
話が脱線するかもしれませんが、そもそも、「上司」という観念については多くの人が誤った理解をしているように思います。
つまり、上司とは「命令する人である」と誤解しているのではないでしょうか。
しかし、先に触れたように、上司の仕事は単に命令することではありません。部下にやる気を出させ、その能力を最大限に引き出すことが最も大切な仕事のはずです。
また、上司は「部下よりも優秀でなければならない」と思い込んでいる人もいます。そのような思い込みをもっている人は、自分が上司になった時に「この立場に就いたのは部下よりも能力が優れているから」と考えがちです。
しかし、上司が常に部下よりも優秀である必要があるのでしょうか。部下よりも優秀でない部分があっても構わないのではないでしょうか。何も部下と勝ち負けを争っているわけではないのですから。また、そもそも、すべての面において、部下よりも勝っている上司などいるわけがありません。
たとえ、自身が優秀でなくても、部下の優秀な部分をしっかりと見つけ出し、それを組織の力に変えられる能力があれば、上司として十分に役目を果たすことができるはずです。
在籍年数だけで昇進させては、本人も周囲も不幸に…
私自身も、会社を始めてからしばらくの間は、マネジメント能力に長けているかどうかを考えずに、「そろそろ係長にしてあげよう」と在籍年数だけを基準にして、工場で働いていた社員たちを管理職の地位につけていました。
そして、「昇進させたことを喜んで、会社のためにさらに頑張って成長してくれるはず」と思い込んでいたら、そのような思いや願いとは全く逆の結果に見舞われることになりました。管理職となった社員は皆ことごとく会社を辞めてしまったのです。
おそらく、管理職という慣れない仕事のもたらす重圧とストレスに耐えられなかったのでしょう。辞めていった人たちのほとんどは、管理職にならなければ、今でも私の会社で働いてくれていたのかもしれません。
そのような過去の自らの“失敗”を通して、「サラリーマンであればみな出世したい、昇進したいと世間ではいわれているが、本当にそうなのだろうか」と疑問を抱くようになりました。その人によかれと思って上の役職に上げたつもりでしたが、実は自分の勝手な思い込みだったのではないかと気付いたのです。
そこで、思い切って現在あるような組織を、すなわち、トップダウンではないフラットな組織を新たにつくり上げたのです。
この組織改革を行って以来、会社を辞める人はほとんどいなくなりましたし、また仕事に対してストレスを感じる人の数も大きく減りました(労働安全衛生法で義務づけられている職場のストレスチェックの結果から、私の会社では社員のストレス度が極端に低いことが判明しています)。
[図表2]職場のストレスチェックの結果
大野 孝久
大野精工株式会社 代表取締役社長