復活基調の製造業界が頭を抱える「人材難」という現実

現在の日本の製造業界は回復基調にある一方、深刻な人手不足に悩まされています。しかし、旧態依然としたトップダウン型の組織を廃止し、業務の細分化、社員への決裁権の譲渡などを実施することで、業務の効率化を図れるだけでなく、若い世代がすぐに活躍できる職場環境を生み出すことが可能です。本連載では、中小製造業の生き残りを可能にする「組織づくり」を解説します。

人材不足が原因で倒産に追い込まれる企業

生産年齢人口の減少により、深刻な人材不足に陥っている中小製造企業が数を増やしています。

 

経産省製造産業局が2017年12月に製造業の企業4300社に対し行った人材確保に関するアンケートによると、9割超が人材確保に問題があると回答しました。2016年度の同アンケートの約8割からさらに増加しており、人材不足の深刻さが浮き彫りとなっています。中には人材を確保できないために、廃業や休業に追い込まれる企業も少なくありません。

 

また倒産・廃業といわないまでも人材不足は職場環境に悪影響を及ぼします。人手が足りないために既存社員の時間外労働が増え、労働意欲の低下を招いてしまいます。結果、離職につながるという悪循環を招くのです。

 

さらに、製造業の企業では団塊の世代の大量退職により技術・技能の後継者を育てるベテラン指導者層が不在という、もう一つの大きな難題に直面しています。十分な教育を社員に行うことができないために、製品のクオリティーが低下し、顧客が離れてしまうというケースが少なくないのです。

 

社員を増やすことができず、減る一方。さらには製品の品質も低下していく・・・。

 

八方ふさがりの中、苦境に陥った中小製造企業は、このまま“人手不足倒産”に追い込まれるのを座して待つしかないのでしょうか。

 

私は、日本電装株式会社(現・株式会社デンソー)で工機部社員として勤務した後、先輩の立ち上げた金属加工会社の営業職を経て、1999年に愛知県で自動車用専用機部品の加工をメインとする部品メーカーを創設しました。妻と2人で立ち上げた会社は現在、国内で今期従業員数100名を超える規模に成長し、ベトナムにも、約70名程の工場を構えています。また製造業だけでなく、福祉事業、農業、飲食業にも進出し事業を多角的に展開し、国内総従業員数は230名を超えてきているところです。

 

このように人材不足に苦しむことなく拡大・成長させることができたのは、旧態依然とした工場の組織づくりを廃止し、新たな組織を構築したからです。具体的にトップダウンであるピラミッド型組織の廃止。また業務一つひとつの徹底的な細分化、明確な評価制度の制定、社員への決裁権の譲渡等です。

 

その結果、形だけの管理職に支払う人件費が不要になり、ベテラン指導者が不在でも社員たちが精度の高い仕事をこなせるようになり、10年間連続で売上を20%以上増加させることに成功しました。

 

また、そうした現場重視の組織づくりを進めた結果、若い世代でもすぐに活躍できる職場環境が生み出されました。そのことが大きな魅力となり、若手の入社希望者が増え、人手不足とは無縁の企業になることができました。

 

本連載では、これまで私が行ってきた工場の組織づくりのノウハウを、わかりやすく紹介していきます。上下ではなく左右で育てあう社風づくり、現場の作業員にお金の教育をすることの必要性・重要性、会社の利益を社員の利益に直結させるシンプルな仕組みのつくり方などについて詳しく見ていきましょう。

技術者の確保に悩む、中小製造業の経営者たち

2008年のリーマンショック後、日本の製造業は売上・利益が一気に減少し、一時は文字通りどん底の状態に陥りました。そしてそこから、長らく低迷を続けていましたが、近時は好景気に沸いており、「ものづくり産業はようやく復活の時を迎えた」ともいわれています。

 

しかし、その一方で「今の好況がこのまま続くとは思えない」という声も上がっています。ことに、企業経営者の中では先行きを不安視する見解が強まっています。

 

その最も大きな理由は「人手不足・人材不足」にあります。

 

今、日本は未曾有の人手不足時代に突入しており、かつてない人材難に見舞われています。製造業も、その影響を大きく受け始めており、多くの経営者が「人手・人材が足りないために、これから大きな問題が起こり業界全体が苦境に陥るのではないか」と警戒感を強めているところなのです。

 

製造業界もその例外ではありません。

 

例えば下記の図表1のグラフが示すように、日本銀行が発表している「雇用人材判断DI」では、2014年から製造業はマイナスとなっています。

 

[図表1]雇用人員判断 雇用人員判断DI 「過剰」―「不足」 -大企業-

出典:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」
出典:日本銀行「全国企業短期経済観測調査」

 

「雇用人員判断DI」とは、雇用が「過剰」と答えた企業の回答割合から「不足」と答えた企業の割合を差し引いたものです。DIがプラスであれば雇用の余剰感が強く、マイナスの場合には人手不足感があることを意味します。2018年の製造業のDIはマイナス18にまで落ち込んでいます。

 

また、日本商工会議所が2018年6月に公表した「人手不足等への対応に関する調査」では、人手不足を感じていると回答した中小企業は65.0%を占め、前年の60.6%から増加しています。

 

そして、下記の図表2の業種別集計が示しているように、製造業では人手不足の企業が59.1%に達しています。中小製造メーカーのうち、過半数の企業が人手が足りない事態に直面しているのです。

 

[図表2]「人手が不足している」と回答した業種の割合

出典:日本商工会議所「人手不足等への対応に関する調査」
出典:日本商工会議所「人手不足等への対応に関する調査」

 

さらに、経済産業省が2017年12月に実施した人材確保の状況に関するアンケート調査でも、前年調査(2016年12月調査)と比較して「特に課題はない」とする回答が19.2%から5.8%に大幅に減少した一方「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている」との回答が22.8%から32.1%に大幅に増加していました。

 

このように、製造業において人手不足・人材不足の課題が、深刻な問題となっていることはもはや明らかといってよいでしょう。

 

前述でも、大きな問題となっているのは「技能人材」の不足です。

 

右の経済産業省の調査では、確保に課題のある人材についても問われており、以下のような結果が得られています。Aは確保に課題のある人材すべてに回答する複数回答の割合を示したもの、Bは特に確保が課題となっている人材(最重視項目)の割合を示したものです。

 

 

このように、複数回答、最重視項目のいずれにおいても「技能人材」が突出しています。

 

 

また、下記の図表3のグラフは、最重視項目に関する回答を企業の規模別にまとめたものです。この結果からは、とりわけ中小企業が「技能人材」の確保に苦労していることがわかります。

 

[図表3]特に確保が課題となっている人材(規模別)

出典:経済産業省調べ(2017年12月)
出典:経済産業省調べ(2017年12月)

 

なお、次の図表4のグラフは確保の課題のある人材を業種別にまとめたものです。全業種において「技能人材」に課題を抱えている点は共通ですが、一般機械では「設計・デザイン人材」、化学工業では「研究開発人材」の確保が他の業種に比べて課題となっている点が注目されます。

 

[図表4]確保の課題のある人材(業種別)

出典:経済産業省調べ(2017年12月)
出典:経済産業省調べ(2017年12月)

 

 

大野精工株式会社 代表取締役社長

1965年、福岡県出身。1984年、山口県立下関中央工業高等学校卒業後、日本電装株式会社(現・株式会社デンソー)へ入社。学生時代に打ち込んできたハンドボールを入社後も継続。工機部社員として現場の第一線で活躍する一方、社内チームの一員として数多くの試合で勝利に貢献。1988年、工機部海外派遣要員として、各機械加工・専用機組み付け・電気などの基本を学ぶ。1993年に退職後、製造会社の営業職を経験し、1999年に大野精工を創業。職人的な経験と勘に頼ったものづくりでなく、指導者を立てない独自の人材教育システムを構築して以来、ほぼ毎年売上高20%以上アップを達成。さらに、人材育成のノウハウを応用し、製造業以外に農業や飲食業、介護事業など幅広く事業を展開する。

著者紹介

連載中小製造業の「人手不足倒産」を防ぎ、「儲け」を増やす組織づくり

 

 

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