今回は、社員の力を最大限に発揮し、会社としても成果を残せる組織の仕組みづくりについて見ていきます。※現在の日本の製造業界は回復基調にある一方、深刻な人手不足に悩まされています。しかし、旧態依然としたトップダウン型の組織を廃止し、業務の細分化、社員への決裁権の譲渡などを実施することで、業務の効率化を図れるだけでなく、若い世代がすぐに活躍できる職場環境を生み出すことが可能です。本連載では、中小製造業の生き残りを可能にする「組織づくり」を解説します。

「上司→部下」ではなく「仕事→社員」に

今回からは、「社員が勝手に育ち、勝手に稼ぐ組織」をつくるために行うべき3つのポイントとなる取り組みについて詳しく見ていきましょう。

 

第一は、「フラットな組織」の構築です。

 

フラットな組織とは社員の間に上下関係が存在しない組織を意味します。

 

すなわち、社員がセルフマネジメントできる体制をつくるためには、通常の企業に存在するような「上司」→「部下」というピラミッド型の組織を廃して、「“仕事”対“社員”」というように仕事が社員と直接つながっている仕組みを設けることが必要になります。

 

「仕事が社員と直接つながっている」とは、社員が、社長や上司ではなく、仕事に直接向き合っている状態を意味します。

 

ほとんどの社員は自分の仕事を、つまりは「何をしなければならないのか」「何をしてはならないのか」を十分に理解しています。もしわかっていないのであれば、教えればいいだけです。

 

そして、自分がすべき仕事がわかっていれば、あとはそれを行って成果を出せばよいだけです。成果とは「数字」に他なりません。仕事にしっかりと向き合えば向き合っただけの数字が出てきます。

 

逆に向き合わなければ、その向き合わなかった結果がやはり数字となって表れます(経営者は、この数字をしっかりと見ることが大切になるわけですが、その詳細については次章(本書『超人材難でも 儲かる工場の組織づくり』参照)で取り上げます)。

 

このように、社員に仕事に対して真っ正面から向き合わせるためには、社長や上司のことを気にする必要がない環境が必要となります。そのために、フラットな組織づくりを行うのです。そこにあるのは、最小限の役割とルール、先輩と後輩というどの組織にも存在する当たり前の関係のみです。

 

あとは経営者が社員を心から信頼すれば、組織は勝手に回り続けるでしょう。すなわち、フラットな組織が生まれることによって経営者がいてもいなくても同じ結果が出せる状態がつくり出せるのです。

ピラミッド型組織は、社員を「指示待ち人間」にする

また、そもそも社員が自らの能力を高めようという意欲を抱き、仕事に対して前向きな気持ちをもたなければ「社員が勝手に育ち、勝手に稼ぐ組織」を築くことは不可能です。

 

ところが、ピラミッド型の組織には、いくつかの大きな問題や弊害があるために、社員のやる気が失われ、その能力を最大限に発揮することが難しくなる危険があるのです。

 

ピラミッド型組織の第一の問題、それは社員が「指示待ち人間」になってしまうことです。

 

(上司)「○○の書類を作成しておきたまえ」

(部下)「はい」

(上司)「××を処理しておくように」

(部下)「わかりました」

 

ピラミッド型組織では、このように上司から部下に対して、業務に関する何らかの指示・命令が、一方的に下されることになります。

 

そして、こうした一方通行のやりとりが慢性化する中で、次第に社員は上司から指示・命令がなければ動かない人間になってしまいます。「指示通りに動く」=「指示がないから何もしなかった」という思考様式に陥ってしまうわけです。

 

上司からの指示がなければ動かないような社員が、自らの判断と行動で会社に利益をもたらす能力を備えることなどとても期待できないでしょう。

 

[図表]ピラミッド型組織とフラットな組織のイメージ

 

このように、ピラミッド型組織には社員を「指示待ち人間」にしてしまうという大きな問題があるわけですが、実はそのような弊害があることに、かつての私は気付いていませんでした。つまり、私自身が、社員を「指示待ち人間」にするという過ちを過去には犯していたのです。

 

経営者になってからしばらくの間は、ほぼすべての業務に関して、社員に強制的、威圧的に指示を出していました。自分の力の限り指示を出して、成果を出させようとしていたのです。

 

しかし、そのやり方で業績を上げることにはどうしても限界がありました。自分の目の届く範囲を超えた事柄に関しては十分に管理したり、指示したりできないことが次第にわかってきたのです。

 

そのことに気付いてから、私はなるべく社員に対して指示を出さないように努めました。

 

「社員を信頼してその判断に委ねる。悪い結果が出れば、私が責任を取る」という覚悟をもったのです。その結果として、社員が自らの意思で動き、フルに能力を発揮して最大限の成果を出す現在の組織の仕組みが徐々にでき上がっていったのです。

 

 

大野 孝久

大野精工株式会社 代表取締役社長

 

超人材難でも儲かる工場の組織づくり

超人材難でも儲かる工場の組織づくり

大野 孝久

幻冬舎メディアコンサルティング

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