発達障害の子どもたちは、現代の学校教育の場で生きづらさを感じることも少なくありません。現在の教育のあり方は、子どもたちから多くの才能を奪う可能性すらあり、新しい教育の形が求められています。本記事では、発達障害の子どもの「こだわり」を活かす最新教育事情を紹介します。

新しい教育の形「異才発掘プロジェクトROCKET」

日本でも、新しい教育の形が模索されています。そのなかから、2014年にスタートした「異才発掘プロジェクトROCKET」(以下、ROCKETプロジェクトとする)を紹介しましょう。これは、東京大学・先端科学技術研究センター(先端研)と日本財団との共同プロジェクトです。

 

ROCKETとは「Room Of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents」の略で、日本語にすると「志ある特異な(ユニークな)才能を有する子どもたちが集まる部屋(空間)」となります。「Room」という言葉には、自分たちの部屋とか、仲間のいる場所とか、あるいは生きづらさから逃れる避難所、自分が光り輝くスペースなど、さまざまな意味がこめられています。

 

このROCKETプロジェクトには、今の学校教育の枠には到底おさまりきらない小中学生が通っています。

 

一体どんな子どもたちが集まっているのでしょうか。

 

【WEBセミナー 開催】
数ヵ月待ちが当たり前?
社会問題化する「初診待機問題」を解決する
「発達支援教室」×「児童精神科クリニック」

 

たとえば、全国模試で常にトップクラスの成績をキープするほど勉強が得意なために、学校の学習に物足りなさを感じている子。学校の成績はふるわないけれど、生きていくための知恵を多く持ち、祖父と一緒にイノシシを狩って暮らしている子。キノコに魅せられて、日本中のトリュフを追い求めている子など、例を少し挙げただけで、そこに集う子どもたちの突き抜け方が尋常ではないことが推し量れるでしょう。

 

学校になじめず、いじめに遭っていた子や、暴れるので入院させられていた子などもいて、言い換えれば、今の学校では「問題児」とされるような子を、全国から選定しているともいえます。

 

ここに集まる子どもたちの約3人に1人は学習障害があるそうです。たとえば、知的レベルは高いのに、文字が書けない、もしくは書く速度が遅いという「書字障害」です。

 

そういう子どもは、自分の考える速度に、字を書くスピードが追いついていないという場合が多くあります。そのため、内容を理解できていても、テストの点数は低くなりがちです。まったく文字を書けないのでなければ、本人も周りも書字障害があることに気づきません。その結果、本来はほかの子どもよりずっと能力が高くても、勉強や学校に嫌気がさし、最終的には引きこもるか、エネルギーを持て余して暴れるかということになってしまいます。場合によっては、精神疾患を引き起こすこともあります。いわゆる二次障害です。

 

ROCKETプロジェクトの存在は、こういった二次障害を防ぐことにもつながります。

 

どうしても学校になじめず、自分から一人で生きた方がいいという子どもたちは、心の中に「自分は理解されない」という孤独感を抱えて生きています。だから、その子どもたちなりのやり方を理解し、信頼できる人を数人つくる必要があります。そこにROCKETプロジェクトがつくられた理由があります。

好きなものへの「こだわり」が起こすイノベーション

プログラムには大きく分けて2種類あります。ひとつは用意したことを子どもたちにやってもらうタイプのもの。もうひとつは子どもたちが自分の興味関心を追求するタイプのものです。

 

プロジェクト側が用意して行ったプログラムの中に、「デジタル飯(デジ飯)」と呼ばれるものがあります。これは、スタッフであり料理研究家でもある福本理恵さんが考案したプログラムです。

 

まず、材料として、牛肉、鶏肉、じゃがいも、チーズ、チョコレートなど、バラエティ豊かな食材をそれぞれ2.5cm角にカットしたものを用意します。子どもたちは、それらの食材の中から27個を選び、キャセロールという蓋つきの厚手の鍋に並べます。そして、電子レンジで加熱して、オリーブオイルと塩で味付けをして食べるという内容のプログラムです。

 

【WEBセミナー 開催】
数ヵ月待ちが当たり前?
社会問題化する「初診待機問題」を解決する
「発達支援教室」×「児童精神科クリニック」

 

このような課題が出されたとき、多くの人は、肉と野菜とのバランスを考えて組み合わせたり、あるいはデザート系でまとめてみようなどと考えたりするでしょう。

 

ところがROCKETに集まる子どもたちは違います。自分はチーズとチョコレートとベーコンと牛肉が好きだとなれば、バランスをとることなどお構いなしに、それらをすべて放り込みます。

 

チーズとチョコレートとベーコンと牛肉などという組み合わせを見れば、大人は常識に照らし合わせて、その組み合わせは無謀ではないのかと、止めたくなります。定型的な発達をしている子なら、大人の顔色を見て組み合わせを調整するかもしれません。

 

でも、発達障害の子どもたちは空気を読みません。自分の好きなようにキャセロールに並べます。

 

ところが、いざ試食してみると、意外においしいものができることがあるのだそうです。

 

これこそ、まさにイノベーションが起こる瞬間です。

 

同様のことが、商品を開発する際や問題を解決する際にも起こりえます。発達障害の子どもの自分の好きなものへのこだわりや、常識や周りの空気にとらわれない自由さは、誰も想像できなかったような新しいものを生み出す可能性を秘めているのです。

本連載は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

大坪 信之

幻冬舎メディアコンサルティング

近年増加している「発達障害」の子どもたち。 2007年から2017年の10年の間に、7.87倍にまで増加しています。 メディアによって身近な言葉になりつつも、まだ深く理解を得られたとは言い難く、彼らを取り巻く環境も改善した…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録