ADHDやASDなどの発達障害の子どもたちは、多くの才能を秘めているにもかかわらず、ときに「問題児」として扱われます。将来、彼らが社会に貢献できる人物となるには、幼少期の適切な教育が重要です。本記事では、発達障害の子どもたちの「苦手」を解消する方法を紹介していきます。

6歳までの「質の高い教育」が重要に

幼児教育が大切なことは、書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』で説明した通りです。その一方で、「子どもはのびのび遊ばせておくのが一番だ」とか、「子ども時代に『お勉強』をさせるのは気の毒だ」という声もよく聞かれます。

 

本当にそうなのでしょうか。

 

幼児教育というと、記憶力のよい時期に知識を詰め込むというイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、この時期に本当に大切なのは、知識をいかにたくさん持っているかどうかではありません。幼児期に必要なのは、地頭を鍛えることです。

 

具体的にいうと、脳の配線をつくるということです。幼児期のうちに、脳の120の領域をつなぐ、高速道路のような回路をつくっておくことが大切です。また、右脳と左脳をフル活用するために、脳梁を太くしておく必要があるのはすでに述べた通りです。

 

右脳と左脳とで、持っている機能が違うということを発見したロジャー・スペリーがノーベル賞をとったのは1981年のことでした。そして、脳の多くの機能が解明されるようになったのは、1990年代に入ってからです。

 

それまで、脳は暗黒大陸といわれていました。脳は生命の維持に不可欠な器官であるうえに、デリケートな部位なので、生きている間には脳の表面のことしか調べられなかったからです。

 

しかし、PET(陽電子放出断層撮影)やファンクショナルMRI(磁気共鳴画像)ができたことで、生きている動物の脳の血流や、脳の内側の動きを観察できるようになりました。その結果、新たな知見が得られたのはもちろん、今まで常識とされていた知識のうち、間違っていることが明らかになったものもあります。

 

このように、数十年の間に脳に関する知見が更新されているにもかかわらず、古い知識に基づいて構築された幼児教育を行っていては、世界から後れを取ってしまいます。

 

 

先進国は続々と幼児教育に予算を投入し、新たな試みを行っています。

 

たとえば、各国で義務教育の開始年齢を引き下げるということが行われはじめています。

 

6歳で能力が固定化してしまうのに、義務教育が6歳からでは遅いと考え、イギリスは5歳で義務教育をスタートさせることになりました。5歳以前も、週に1回のペースで幼児教育を受けられる体制を整えています。

 

フランスでは、2019年から義務教育を3歳から開始することが決まっています。カナダでは0歳から1人の子どもに対して1人のベビーシッターをつけるというプログラムが行われています。デンマークでは、「チャイルドナース」という資格制度を取り入れています。チャイルドナースと呼ばれる幼児教育のスペシャリストを育成し、各家庭に派遣するのです。市役所に電話すれば、チャイルドナースが来てくれます。利用時間に制限はありません。チャイルドナースの給与は、稼働時間に応じて国から支給されます。

 

このように、幼児教育の質を上げ、強化するのが世界の潮流なのです。子どもはのびのびと遊ばせておけばよいと考えて、脳が劇的に発達する幼児期に適切な教育を受ける機会を逃してしまうと、いずれ子どもが成長したときにグローバルな人材として活躍するチャンスを失うことになりかねません。

じゃんけんで負けても「ま、いっか」

6歳までというのがひとつの目安になるのは、発達障害の子どもも同じです。6歳までに適切な療育を受けることができれば、苦手なことを補うための神経ネットワークを構築でき、生きていくうえでの困りごとをずいぶんと減らすことができます。

 

発達障害の子どもは、すばらしい才能を持っていますが、苦手なこともたくさんあります。たとえば、社会の中で生きていくうえで、人とのコミュニケーションで苦労をすることも多いでしょう。

 

ASDであれば、空気を読むのが苦手だったり、こだわりが強かったりといった特性があるので、必要のない摩擦を生むことがあります。

 

しかし、それらは教育次第である程度解消することができます。

 

私の経営している幼児教室のうち、発達障害のお子さんのためのクラスではソーシャルスキルトレーニングも行っています。保護者への指導時間10分を除いた50分の授業のうち、45分は通常のクラスと同じ内容を学習し、残りの5分で体操やソーシャルスキルのトレーニングを行うのです。

 

その中から、じゃんけんの練習をする授業の様子を簡単に紹介しましょう。発達障害の子どもの中には、じゃんけんで負けると、悔しい気持ちを抑えることができずに、「もういやだ!」といって、暴れたり、固まったりしてしまう子がいます。そのままでは、保育園や幼稚園でも困りますし、小学校に入ってからも苦労することは目に見えています。そんな子どものために、じゃんけんの勝ち負けによって生じる感情をコントロールする練習をするのです。

 

 

練習では、段階に分けてステップアップしていきます。

 

まず、先生が後出しして負けるようにして、じゃんけんをくり返します。勝った子どもには「やったー!」と喜ぶようにさせ、負けた先生は「ま、いっか」と言います。これを何回もくり返す過程で、先生が「ま、いっか」と言うのを子どもたちはまねしたくなっていきます。

 

次に、普通にじゃんけんをします。先ほどまでは勝ち続けていて喜んでいましたが、今度は普通のじゃんけんなので、当然負けることもあります。じゃんけんで先生に負けると、子どもは負けたことによる悔しさでいっぱいになり、全身が緊張で強ばります。ぐっとこぶしを握りしめ、唇をかんで、ときに涙目で「もうやらない!」と言いだします。そこで、先生は「『ま、いっか』でしょ?」と声をかけます。

 

すると、子どもはハッと気づいて、「ま、いっか」と言います。「ま、いっか」と言葉にした途端に、子どもたちの肩の力が抜けます。先生は、その様子をみて、すかさず「『ま、いっか』ができたね! すごいね! かっこいいなぁ」と大げさなくらいに褒めます。

 

褒められたことで、子どもたちは「じゃんけんで負けても『ま、いっか』と言える自分」というセルフイメージを固めていきます。

 

そのうちに、じゃんけんに負けても「ま、いっか」と自然に思えるようになるのです。

 

こういった練習を何度もすることで、子どもたちは感情をコントロールし、適切な行動を身につけていきます。苦手なことでも練習を重ねていけば、定型的な発達をしている子どもに比べて時間はかかったとしても、次第にできるようになっていきます。

 

また、発達障害で見逃されがちなのが、運動の問題です。発達障害の子どもは、座っていられずに寝転びたがる傾向が見られます。これは体幹が弱いからなのですが、学校では席に座って数十分におよぶ授業を受けなければなりません。公共の場で座っていられず寝転び始めたら、周囲から冷たい視線を浴びることでしょう。

 

そこで、私の運営する教室では、運動の時間を設けています。体幹を鍛える方法として、トランポリンで遊んだり、鉄棒にぶら下がったりということを取り入れています。トランポリンは、障害児教育での有効性が認められ、よく取り入れられている遊びのひとつです。

 

このように、苦手なことでも幼児期に楽しく練習していけば、多少時間がかかったとしても解消することができるのです。

 

 

大坪 信之

株式会社コペル 代表取締役
 

本連載は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

大坪 信之

幻冬舎メディアコンサルティング

近年増加している「発達障害」の子どもたち。 2007年から2017年の10年の間に、7.87倍にまで増加しています。 メディアによって身近な言葉になりつつも、まだ深く理解を得られたとは言い難く、彼らを取り巻く環境も改善した…

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