個性を持った子どもたちが、学校教育の場で生きづらさを感じることは少なくありません。現在の教育のあり方は、このような子どもたちから多くの才能を奪う可能性すらあります。本記事では、個性を持った子どもの才能を潰す「平均点教育」の実情について見ていきます。

環境によって左右される発達障害の子どもの「個性」

前回まで見てきたように(関連記事『エジソン、モーツァルト…偉人たちを支えた親の行動とは? 』『発達障害の子どもの「才能」を引き出す…自尊感情の育て方』参照)、限りない可能性を秘めている発達障害の子どもたちですが、現代の学校教育の場では生きづらさを感じている場合が少なくありません。

 

発達障害の個性が武器になるか、障害とされてしまうのかは、所属する社会環境に左右されます。

 

文字がない時代であれば、文字の読み書きが苦手という学習障害は「障害」になりえませんでした。また、すべての人が等しく算数を学ぶことが義務づけられている社会でなければ、計算ができないという特性を持っていたとしても、「障害」にはなりません。

 

あるいは、人類が狩猟生活をしていたころであれば、ADHDの人間は有能な狩人だったことでしょう。絶えず新たな獲物がいないか、あちこちに注意を向け、チャンスとなれば、危険を顧みずに先頭を切って飛び込んで行く。現代日本では、注意力散漫といわれたり、空気が読めないといわれたりする特性が、狩猟生活では重宝される才能だったわけです。

 

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今の子どもたちが大人になるころ、社会環境はどのように変わっているでしょう。

 

おそらく、科学技術がさらに発達し、AIやロボットの開発が進んで、求められる人材も従来とは様変わりしているはずです。単純作業はどんどんロボットに取って代わられ、AIによって行われる仕事も大幅に増えていることでしょう。

 

そんな社会で人間に求められるのは、知識を組み合わせて新しいものを生み出すことです。自分の興味のあることにこだわってそれをとことん究められたり、時代の波に乗り遅れないようなスピード感をもって行動できたり。今まで「障害」とされてきたような発達障害の特性が、社会に必要とされる「才能」になり得る時代がやってくるのです。

 

これからの時代を生きる発達障害の子どもたちが、自分の特性を伸ばして武器にできるようにするためには、教育のあり方も変わっていかなければなりません。

すべての科目で「平均点クリア」をよしとする現代教育

その一方で、教育学者R・H・リーブス博士の著した「動物学校」という寓話があります。

 

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昔々、動物たちは「新しい世界」のさまざまな問題を解決するために、何か勇敢なことをしなければならないと考え、学校をつくりました。

 

学校では、かけっこ、木登り、水泳、飛行を教えることになりました。

 

学校の運営を円滑にするために、どの動物も全部の科目を学ぶことになりました。

 

アヒルは、水泳の成績は抜群で、先生よりも上手に泳げるくらいでした。

 

飛ぶこともまずまずの成績でしたが、かけっこは苦手です。

 

かけっこの成績が悪いので、放課後もかけっこの練習をしなければなりませんでした。

 

水泳の授業中もかけっこの練習をさせられました。

 

そうしているうちに、水かきがすり減ってきて、水泳の成績が平均点まで下がってしまいました。

 

学校では平均点ならば問題ないので、アヒルの水泳の成績が落ちたことは、アヒル本人以外は、誰も気にかけませんでした。

 

ウサギは、かけっこはクラスでトップでした。

 

ところが水泳が苦手で居残りさせられているうちに、すっかり神経がまいってしまいました。

 

リスは木登りの成績が優秀だったのですが、飛行の授業で、木の上からではなく地上から飛べと先生に言われて、ストレスがたまってしまいました。

 

練習のしすぎでヘトヘトになり、肉離れを起こし、木登りの成績はCになり、かけっこもDに落ちたのです。

 

ワシは問題児で、厳しく指導しなければなりませんでした。

 

木登りの授業では、どの動物よりも早く上まで行けるのですが、決められた登り方ではなく、自分のやり方で登ってしまうのです。

 

学年末には、泳ぎが得意で、かけっこ、木登り、飛行もそこそこという少々風変わりなウナギが一番高い平均点をとり、卒業生総代に選ばれました。

 

学校側が穴掘りを授業に採用しなかったので、プレーリードッグたちは登校拒否になり、その親たちは税金を納めようとしませんでした。

 

プレーリードッグの親は子どもに穴掘りを教えてくれるようアナグマに頼み、その後、タヌキたちと一緒に私立学校を設立して、成功を収めました。

 

(スティーブン・R・コヴィー著『完訳7つの習慣人格主義の回復』キングベアー出版)

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苦手な分野を人並みに引き上げようと注力することが、いかに才能を潰す可能性をはらんでいるかを、よく示した寓話だといえるでしょう。さらに、イーロン・マスクが学校をつくったように、自分が必要だと思える教育を志して学校をつくる動きのことまで描かれています。

 

人と違う能力を持っている子どもを型にはめて均質化しようとする教育は、大量生産・大量消費で経済が回っていた時代なら、最適な方法だったのかもしれません。しかし、その教育は、子どもたちの突出した才能を潰してしまう危険を併せ持ったものでした。

 

これからの世の中では、すべての科目でまんべんなく平均点をクリアできることをよしとするのではなく、得意なことがずば抜けてできることをよしとする教育の形をつくっていかなければなりません。

 

 

大坪 信之

株式会社コペル 代表取締役

 

本連載は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

大坪 信之

幻冬舎メディアコンサルティング

近年増加している「発達障害」の子どもたち。 2007年から2017年の10年の間に、7.87倍にまで増加しています。 メディアによって身近な言葉になりつつも、まだ深く理解を得られたとは言い難く、彼らを取り巻く環境も改善した…

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