好きなことを見極め、適性に合った進路を選択
発達障害の子どもは限りない可能性を秘めていますが、苦手なこともたくさんあります。
ただ、苦手なことに目を向けてしまうと、前述の動物学校の寓話(関連記事『発達障害の子どもの才能を潰す!? 「平均点教育」の実情とは』参照)のように、せっかくの才能を潰してしまいかねません。苦手なことを克服しようとするよりも、得意なことをさらに伸ばすべきです。なぜなら、得意なことが伸びていくにしたがって、苦手なことが気にならなくなるからです。
たとえば、ASD(自閉症スペクトラム障害)の人が社会に出て働く場面で苦手とするのは次のようなことです。
●顧客ごとに個別対応をすること
●計画が随時変更されながら進んでいく作業
●対話が中心となるような仕事
●上司からのあいまいな指示によって行う仕事
その一方で、規則性、計画性、深い専門性が求められる仕事や、緻密で集中力を要する仕事、大量のデータを扱う仕事には能力を発揮することができます。設計士や研究者、SE、経理や法務などといった職種であれば、存分に活躍することができます。
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ADHD(注意欠陥・多動性障害)の人が苦手とするのは、忍耐力が必要とされる作業で、具体的には次のようなものです。
●細かいスケジュール管理
●緻密なデータの処理
●計画を立てて長期間にわたってじっくり進める仕事
このような、緻密さや根気強さを必要とするような仕事には適性がありません。
しかし、企画力や行動力、個性的なひらめきが求められるような企画開発職や経営者、デザイナー、アーティスト、自主的に動く営業職などでは実力を発揮することができます。
好きなことを見極め、適性に合った進路を選択していくことで、発達障害の特性を「障害」ではなく「個性」として活かし、働くことができるのです。
実は、私自身も発達障害の傾向があります。たとえば、銀行員としてお金を1円の間違いもなく扱う仕事を任せられたら、大変なストレスを感じるでしょう。しかし、幼児教室をやろうと思いついてから3か月で起業し、日本だけでなく海外でも教室を展開できたのは、思い立ったら行動せずにはいられないADHDの特性や、自分が興味のあることをとことん追求できるASDの傾向があるからこそです。
その一方で、ADHDの影響で失くし物をしやすいという傾向があります。そのために、私は常に大きなバッグを持ち歩き、必要になるであろうものをすべてその中に入れて持ち歩くようにしています。苦手なことは無理に改善しようとするのではなく、自分なりの対策をすればよいのです。
得意なことに焦点を絞れば、能力を発揮することができ、さらに伸ばすことができます。それは親が一緒に探してあげるとよいでしょう。よく観察して、見極めてあげるのです。
その際、大人の常識に合わせようとしたり、型にはめようとしたりしてはいけません。子どもの好きなように、自由にさせてあげることが大切です。
発達障害の特性を「強み」にかえる
私の運営している幼児教室にも、お母さんからの切実な悩みが寄せられます。なかでも多いのは「この子の将来は大丈夫なのでしょうか」というものです。
小学校では普通学級に入って、ちゃんとやっていけるのだろうか。
高校、大学へと進学できるだろうか。
いずれは大学を卒業して就職し、社会人としてやっていけるのだろうか。
そんな悩みを口にするお母さんが多くいます。
発達障害の特性は、かなり個人差があります。お母さんたちは、それぞれご自分のお子さんの特性について将来への不安を抱きます。
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しかし、その特性は、裏返せばその子の強みになるのです。
何かに過剰に集中してしまう子なら、それは並外れた集中力を持って、将来偉業を成し遂げる可能性を秘めた子だということです。
自閉症傾向の子どもは、人から見られるのがいやで、目が合わせられないとか、人が怖いとか、触れられるのがいやだという子もいます。そういう引っ込み思案な子は、慎重で思慮深く、道を踏み外しにくい堅実さがあるのです。
暴れん坊な子なら、それはバイタリティーに溢れる元気さを持ち、将来リーダーシップを発揮して新しいことを開拓していけるようなエネルギーを秘めた子です。そんな子どもの中には、友達をなぐっておもちゃをとりあげてしまうという子もいます。すると、お母さんはこの子には社会性がないのではないかと心配します。しかし、そういうタイプの子どもは、いずれけんかの仲裁をするような子に成長することも珍しくありません。
多少やんちゃだと思われる子どもについては、「あなたは元気があっていいね」という方向性の言葉がけをしていれば、その元気は良い方向に向かいます。逆に、「あなたは元気がありすぎて困る」という言葉がけをすれば、その元気は悪い方向に向かってしまい、非行などにつながるのです。
ASDのために感覚が過敏な子どもの中には、水が怖いわけではないけれど、顔を水につける感覚に耐えられなくて泳げないという子もいます。しかし、これは年齢が上がるにしたがって解決する場合も多く、小学校3年くらいになれば平気になることもあります。年齢が上がるとともに、いつの間にかできるようになることも少なくないのです。
学校生活や家庭生活の中で困るようなことがあっても、生命の危機に直結するようなことでなければ、おおらかに受け止めて長い目で成長を見守っていくというつき合い方が、子どものためにもなり、保護者自身の負担を軽くすることにもなります。
大坪 信之
株式会社コペル 代表取締役