GDPを伸ばすためには「個人の消費」が必要
ここまで中小企業のことばかり述べてきましたが、実は日本経済と私たちの生活の未来を考えた場合、中小企業の活性化と成長は非常に重要な意味を持ちます。
安倍政権が掲げる「アベノミクス」の成功や黒田日銀が目指す「2%の物価上昇」だけでなく、少子高齢化が急速に進み、2053年ごろには人口が1億人を割る日本の未来にとって、多くの中小企業が元気になることが不可欠なのです。以下、その理由を説明していきましょう。
2015年時点での国内総生産(GDP)のうち、いわゆる消費(民間最終消費支出)が56.3%、約6割を占めます。
[図表1]GDP格支出項目の割合(2015年度)
GDPを伸ばすには、消費をもっと盛り上げればよいのです。そして、消費のベースになるのはもちろん、個人(家計)の収入です。個人(家計)の収入が増えなければ、消費が増えるわけがありません。
以前は「トリクルダウン効果」といって、一部のお金持ちがどんどんお金を使えば、それが社会全体のお金の巡りをよくするという説もありましたが、欧米や日本の状況を見るとどうも違うようです。
やはり、多くの国民が1日数百円、1000円程度でもいいので消費を増やすことこそ、多くの商品やサービスが売れ、企業の収益が上向き、国の税収などもアップすることにつながるのです。
70%が「中小企業」に帰属する日本全国の雇用者
2014年の国民所得の内訳を見ると、そのうち69.3%は雇用者報酬です。簡単にいえばサラリーマンの給与です。
[図表2]国民所得の内訳(2014年度)
そして、日本全国の雇用者のうち70%は中小企業で働いています。特にここ数年、大企業で働く雇用者が減り、その分、中規模企業で働く人の数が大幅に増えています。
[図表3]企業規模別の従業員数の変化
つまり、中小企業の業績が上向き、中小企業に勤める人の給与がアップし、家計の懐が潤えば、日本全体での消費が増え、GDPが伸びるはずです。日本経済の成長のためには、中小企業の従業員の所得向上が不可欠といっても過言ではありません。
しかし、その中小企業は資金繰りや銀行からの借り入れに苦しんでいるほかにも、いろいろ難しい状況に置かれています。
例えば、中小企業の労働生産性は大企業の半分以下にとどまります。稼ぐ力が弱いのです。2000年代以降、この差は拡大する傾向にあります。
また、企業全体の研究開発費に占める中小企業の割合は約3%しかなく、イノベーションが進んでいません。このままの状態が続けば、『下町ロケット』に出てくるような技術力のある中小企業がいつまで日本経済を支えていけるか疑問です。
政府においても中小企業政策のメニューは豊富ですが、一般会計における中小企業向けの予算規模は全体の0.2%にすぎません。
以上のことから、日本の金融業が今後、世の中の役に立つため重点的に取り組むべき課題は、中小企業向けの金融の改善であるといえるのではないでしょうか。