環境に左右されない収益モデルづくりを後押し
こうした、中小企業向けの金融をなんとかしなければならないということについては、政府も問題意識を持って取り組んでいます。
そのひとつの表れが、金融機関を監督する金融庁の方針転換です。
旧大蔵省から銀行検査部門が分離独立して金融庁ができた1998年当時、バブル崩壊による巨額の不良債権問題が日本の金融システムを揺るがしていました。そのため金融庁では銀行に対して厳しい資産査定を行い、細かく定めたルールを守っているかチェックに重点をおいていました。
しかしその後、銀行の不良債権はどんどん減り、いまや財務の健全性に赤信号がともったままの金融機関はほとんどありません。
むしろ、高齢化や人口減少による消費・労働市場の縮小、日銀のマイナス金利政策による利ざやの縮小といった状況の中で、金融機関がこれからも稼ぐ力を維持できるかどうかが課題となってきています。
そのため、以前のように不良債権の扱いや管理体制の不備を細かくチェックするのではなく、それぞれの金融機関に創意工夫を促し、人口減少や超低金利といった環境でも持続的に収益を上げられるモデルづくりを後押しする方向に転換したのです。
検査マニュアルを「本質的な解決策を探る内容」に変更
具体的には、金融庁の担当官が検査を実施する際のマニュアルを、画一的・外形的に問題を指摘するものから、本質的な解決策を探る内容と見直しが図られました。
従来のマニュアルには「取締役会は内部監査の結果について適時適切に報告させる態勢を整備しているか」「資産(融資)の自己査定が査定基準にのっとって正確に行われているか」など膨大なチェック項目が並んでいましたが、それを簡素化しつつ、「実行できていないとしたらなぜできないのか」「背景にはどんな問題があるのか」を掘り下げるようになったのです。
さらに金融庁では、金融機関による金融仲介機能の質の向上に向けても、新たな取り組みを始めました。2016年10月に公表された「平成28事務年度金融行政方針」において、金融庁は銀行に対して「日本型金融排除」の実態把握を行うと明記したのです。
日本型金融排除とは、金融庁の新たな造語です。その意味は、「十分な担保・保証のある先や高い信用力のある先以外に対する金融機関の取り組みが十分でないために、企業価値の向上が実現できず、金融機関自身もビジネスチャンスを逃している状況」と説明されています。
金融庁が企業ヒアリングを実施したところ、「金融機関は相変わらず担保・保証がないと貸してくれない」という声が多く聞かれたといいます。金融機関の側からは「融資可能な貸出先が少なく、厳しい金利競争を強いられている」という主張がされており、実態を把握しようというのです。