従来と異なる新しいビジネスモデルの構築が必要
今後も、金融業は社会と経済を支える重要な産業であり続けるでしょう。ただし、金融業を担う顔ぶれは変わりつつあります。
かつて「護送船団方式」と呼ばれ、旧大蔵省の保護と監督のもとで既存の銀行は秩序だった業界構造のもとで棲み分けし、安定した収益を上げてきました。
しかし、1990年代後半からの金融ビッグバンで業際の垣根は崩れ、十数行あった都市銀行はいまやメガバンク3行とりそな銀行に集約されています。地方銀行をはじめとした地域金融機関の合併や持ち株会社化も進みつつあります。
さらにそこに、IT系や流通系など他の業界から新しい金融サービスを提供する新規参入者が登場しています。フィンテックもそうした新規参入組にほかなりません。
既存の金融機関に加え、新しい金融サービスの担い手が増えるなかで、日本の金融業は社会的なインフラとして、これまでにない新しいサービスや従来とは異なるビジネスモデルをどう構築するかが問われているといっていいでしょう。
今後待たれる、フィンテックの努力やイノベーション
そして、そこには重要なポイントが2つあります。
ひとつは、コストの抜本的な見直しです。従来の銀行は、さまざまな規制に守られながら安定した金利と手数料収入により、高い収益を確保してきました。
しかし、今後は融資による金利も手数料収入も減少していくでしょう。そうなると、これまでのような高い人件費やシステム費などを負担することは難しくなります。
今後の状況に見合ったコスト構造のためには、各種のコスト削減が不可欠です。例えば、一部の大手銀行はATMの機能をいっそう充実させつつ、店舗数を削減する方針を打ち出しています。大手銀行がブロックチェーンの利用に積極的なのも、コスト削減のためにほかなりません。
もうひとつのポイントは、顧客に対するアドバイスやコンサルティングなどの付加価値の高い業務をいかに提供していくかです。中小企業の金融改善を含めた経営支援などは、まさにその典型例でしょう。
金融庁も、従来のような横並びで単純な預金や貸出残高の量的拡大競争に集中するような銀行のビジネスモデルは限界に近づいており、銀行以外の金融業でも従来のビジネスが競争力を失う可能性が生じていると見ています。
これから求められるのは、顧客本位の良質なサービスをリーズナブルなコストで提供し、企業の生産性向上や個人の資産形成を助け、その結果として金融機関自身も安定した顧客基盤と収益を確保することです。ちなみに、こうした金融業のあり方を金融庁は「顧客との共通価値の創造」と呼んでいます。
これからの時代における金融業の役割、解決すべき課題に対し、フィンテックが果たせる役割は非常に大きいものがあります。
アメリカで生まれた新しいフィンテック(狭義のフィンテック)は、既存の金融機関のビジネスモデルや収益源を奪うことを特徴の一つにしていますが、それは旧態依然とした金融機関にとって破壊的なのであって、金融業が新しい姿に生まれ変わろうとするのであれば、むしろフィンテックのコンセプトを受け入れて、自ら新しい革新的なサービスを生み出していこうとするのは当然のことです。
ただし、従来の金融機関が一朝一夕で新しい金融業に生まれ変われるとは思えず、そのプロセスにおいては新しいフィンテックとの競合や摩擦も生じるでしょう。
また、現在見られる多くのフィンテックは、どちらかというと既存の金融機関にとってのコスト削減や業務効率化の面で関心が集まっているように思われます。
今後の金融業に求められる価値の提案や共通価値の創造という面では、新しいフィンテックの努力やイノベーションが待たれるところです。