前回に引き続き、労務判例から「残業時間の証拠を示すもの」について見ていきます。今回は、メール送信時刻などがテーマです。※本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。

「ブログの記載」からは勤務開始時刻は認められない

【判例分析表】

 

●事件名

大庄ほか事件(京都地判平22.5.25 労判1011・35)

 

証拠Ⅰ

ワークスケジュールに基づく勤怠実績表の出勤時刻

 

証拠Ⅰの評価

調理長や店長が事前に基本的に半月分の予定を組み、ワークスケジュールに入力する仕組みになっていたところ、それに基づく勤怠実績表では、概ね出勤時刻が午前10時となっているが、これは、本来なら、ワークスケジュールで、勤務開始時刻を午前10時と設定した場合、午前9時30分より前に出勤しても打刻できないシステムとなっていたところ、ワークスケジュールの入力を忘れていた場合、出勤時刻の打刻が勤務開始時刻として確定してしまうことから、M店長が後に、午前10時と修正したことによって生じたものである。したがって、勤怠実績表の出勤時刻を業務開始時刻と認めることはできない

 

証拠Ⅱ

ブログの記載

 

証拠Ⅱの評価

ブログに書いた記載内容は、頑張っている姿を伝えたいとの思いもあり、真実であるとは限らないことなどからすると、ブログの記載から勤務開始時刻を認めることはできない

 

証拠Ⅲ

最寄り駅の駐輪場の入庫記録および通勤時間等

 

証拠Ⅲの評価

最寄り駅の駐輪場の入庫記録および通勤時間等からすると、午前9時頃には本件店舗に出勤していたものと推認できるとされている

文書更新時刻、メール送信時刻は労働時間の証明に

●事件名

マツダ事件(神戸地姫路支判平23.2.28 労判1026・64)

 

証拠Ⅰ

サーバー上に保管されている「出勤簿」

 

証拠Ⅰの評価

被告における労働時間の管理は、各従業員が、サーバー上に保管されている「出勤簿」にアクセスし、自ら始業・終業時刻を打ち込む方法によりされていたところ、同出勤簿が必ずしも実際の労働時間を反映したものではない

 

証拠Ⅱ

パソコンのログ記録証拠Ⅱの評価労働時間についても、当該従業員が事実上専用していたパソコンのログ記録を前提として把握する

 

証拠Ⅲ

文書更新時刻、メール送信時刻

 

証拠Ⅲの評価

更新時刻、メール送信時刻事件名プロッズ事件(東京地判平24.12.27 労判1069・21)証拠パソコン上のデータ保存記録(タイムスタンプ)メール送信記録証拠の評価原告のパソコン上のデータ保存記録(タイムスタンプ)およびメール送信記録に照らし、タイムカード記録時刻ではなく、最終のデータ保存時刻またはメール送信時刻に退勤したものと認めることが相当である

労務管理は負け裁判に学べ!

労務管理は負け裁判に学べ!

堀下 和紀,穴井 隆二,渡邉 直貴,兵頭 尚

労働新聞社

なぜ負けたのか? どうすれば勝てたのか? 「負けに不思議の負けなし」をコンセプトに、企業が負けた22の裁判例を弁護士が事実関係等を詳細に分析、社労士が敗因をフォローするための労務管理のポイントを分かりやすく解説…

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