前回に引き続き、セガ・エンタープライゼス事件について見ていきます。今回は、「企業が労働裁判に勝つには?」が今回のテーマです。※本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。

「解雇の正当性」が認められるプロセスが重要

〈勝つために会社は何をすべきか? 社労士のポイント解説〉

 

就業規則に解雇事由の根拠があるからといって、安易に能力不足社員を解雇するのは極めてリスクが高いといえます。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります(解雇権濫用の法理、労働契約法16条)。

 

能力不足を理由とする解雇についても、その正当性が認められるためのプロセスが重要です。しかし、能力不足社員を解雇する最大の難点は、この「能力不足」を客観的な資料・証拠に基づきどこまで証明できるかです。これは会社にとっては、非常に高いハードルともいえます。逆にこれをクリアすれば、当該解雇が有効とされる可能性が高くなるのです。

 

なお、この問題を解決するうえで混同してはいけないのが、一般的にいう「能力不足社員の解雇」問題なのか、それとも特定の地位や職種や専門・高度の管理能力などを期待されて採用されたキャリアの解雇の問題なのかです。高度な能力を要求されるキャリアの能力不足については、通常の社員の能力不足による解雇よりも広く認められる傾向があります。

 

しかし、能力が不足であることを客観的な資料・証拠に基づき立証する必要があることには変わりありません。ここでは、能力不足社員の解雇権を行使するための具体的なポイントについて解説いたします。

会社が求める能力と基準を明確化し、認識を共有

1.能力不足を明確化し認識を共有せよ!!

 

能力不足による解雇を有効にするためには、その理由を客観的な資料・証拠に基づいて証明することが絶対条件となります。能力不足については「能力を有しない」という点を明確し、本人にも認識させることです。

 

まずは能力不足社員に対して、会社が求める能力とその能力が会社の基準に満たないことを明確化して共有する必要があります。

 

例えば、会社が求める能力については、「業務知識」、「職務遂行の技術」、「職務遂行の正確性」、「職務遂行のスピード」、「営業成績」、「パソコンの操作能力」、「チームワーク」などのタイプ別に分けて、どのレベルが必要なのか明確な基準を文書化します。

 

あわせて、能力不足社員の現状のレベルについても文書化し、これを比較して本人に対して面談で説明するのです。これで能力不足であることの認識を共有できます。当該文書と面談については、すべて記録に残しておいてください。

 

また、基準やレベルについては、できるだけ具体化および数値化することが望ましいです。いつまでにどのレベルまで到達すること、いわゆるゴールを設定することも重要です。

「注意書・指導書」を文書で交付して証拠を残す

2.能力改善の指導・注意を徹底せよ!!

 

次に「改善する見込みがない」ことを証拠化する必要があります。このため、会社は明確化した能力不足について、改善のチャンスを与えた事実を残しておくことが重要です。この具体的な手段は、「注意書」、「指導書」の交付です。また、能力不足社員に教育や研修を行った場合は、受講したことが確認できる書類などがあれば証拠になります。

 

ポイントは、随時、能力不足社員の状況を把握して、その都度、注意や改善点があれば、注意書や指導書などを文書で交付することです。

 

能力不足を立証することは、とても難しいといえます。日常的に注意書や指導書を交付していなければ、立証は困難なのです。

 

また、注意書や指導書以外にも、メール、面談時の記録、本人の始末書、顛末書、反省文などの資料も有効な証拠といえます。能力不足社員の解雇が有効か無効かの決め手は、どこまで客観的な資料・証拠を揃えることができるかです。

 

3.解雇する前にまずは退職勧奨せよ!!

 

改善の見込みが全くない場合には、最終的に解雇という選択を取らざるを得ないこともあるでしょう。しかし、まずは解雇する前に退職勧奨することを推奨します。会社はあらためて、解雇する社員に対して、会社の期待する基準に達していないこと、注意、指導、教育を行ってきたが改善する見込みがないこと、このまま継続して勤務しても昇給、昇格、賞与などの査定に大きく影響することなどを説明します。

 

話合いがうまく進めば当該社員は退職勧奨を承諾し、円満に解決するかもしれません。また、退職勧奨の際に解決金として給与2カ月分程度の支給を打診するとより効果的でしょう。

 

退職勧奨する場合は、お互いの認識一致とトラブル防止のために必ず「退職勧奨同意書」を取り交してください。

労務管理は負け裁判に学べ!

労務管理は負け裁判に学べ!

堀下 和紀,穴井 隆二,渡邉 直貴,兵頭 尚

労働新聞社

なぜ負けたのか? どうすれば勝てたのか? 「負けに不思議の負けなし」をコンセプトに、企業が負けた22の裁判例を弁護士が事実関係等を詳細に分析、社労士が敗因をフォローするための労務管理のポイントを分かりやすく解説…

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