前回に引き続き、セガ・エンタープライゼス事件について見ていきます。今回は、「能力不足社員の解雇の判例分析」が今回のテーマです。※本連載は、堀下社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の堀下和紀氏、穴井りゅうじ社会保険労務士事務所所長で社会保険労務士の穴井隆二氏、ブレイス法律事務所所長で弁護士の渡邊直貴氏、神戸三田法律事務所所長で弁護士の兵頭尚氏の共著、『労務管理は負け裁判に学べ!』(労働新聞社)より一部を抜粋し、会社側が負けた労働判例をもとに労務管理のポイントを見ていきます。
月間販売目標の未達成、英語力不足による解雇は無効に
●判例の分析表
〈事件名〉
オープンタイドジャパン事件(東京地判平14.8.9労判836・94)
解雇
無効
業種
インターネット関連事業
役職
事業開発部長として中途採用
報酬
年俸1300万円
指導機関
2カ月(試用期間の本採用拒否)
指導内容
●業務進捗表を提出させ、再度改善を指示した
●業務に関して書面で報告するように命じたことはない
能力の低さ
●韓国企業出張後に韓国企業への対応が遅れ、不信感を招いた
●1カ月に6社しか訪問していない
●月間販売目標4社のめどが立っていない
●英語力が期待する水準にない
〈事件名〉
テーダブルジェー事件(東京地判平13.2.27労判809・74)
解雇
無効
業種
ベンチャーキャピタル
役職
営業幹部として中途採用
報酬
年俸1000万円
指導機関
2カ月(試用期間の本採用拒否)
指導内容
●会長にあいさつしなかった件に関して「詫び状」を提出指示
能力の低さ
●能力不足との会社の主張は全く認められず、会長の来訪の際にあいさつをしなかったことのみが原因と認定された
「日本語の日常会話ができない」等が理由の解雇は有効
〈事件名〉
ヒロセ電機事件(東京地判平14.10.227労判838・15)
解雇
有効
業種
電気機器製造販売
役職
主事として中途採用
報酬
月給35万円
指導機関
5カ月
指導内容
●英文報告書は上司の点検を経て海外事業部に提出せよとの業務命令に違反
●副参事から正当な指導助言を受けたが、筋違いの発言
能力の低さ
●語学力、品質管理能力を期待された即戦力だったが、予定された能力がない
●日本語から英語への翻訳の文書において、誤訳が非常に多い。カバーケースをhippo-case等
●日本語の日常会話がまともにできない
〈事件名〉
プラウドフットジャパン事件(東京地判平12.4.26労判789・21)
解雇
有効
業種
経営コンサルティング
役職
インスタレーション・スペシャリストとして中途採用
報酬
年俸770万円
指導機関
1年6カ月
指導内容
●口頭注意・指導
●「甲野さんへ」の文書
●PSRという職務を提供して雇用を継続しようとする提案をした
能力の低さ
●1年6カ月の5つのプロジェクトのうち4つのプロジェクトでインスタレーション・スペシャリスト(経営コンサルタント補)としての能力・適格性が平均点に達していない
〈事件名〉
森下仁丹事件(大阪地判平14.3.226労判832・76)
解雇
無効
業種
医療品等製造販売
役職
営業・支店の会計業務
報酬
月給43万
指導機関
4年
指導内容
●金庫の暗証番号を紙に書いており、金庫泥棒に金庫を開けられた。顛末書の提出
●入力ミスにより決算書が誤り始末書の提出
能力の低さ
●リストラ対象以前には、おおむね標準の評価を受けていた
●本人の業績が不振のときは会社の業績が不振の時と同時期である
●会計処理ミス仕訳89件
●会計処理ミスを決算までに修正する命令を受けたが放置し、別のミスを生じさせた
堀下社会保険労務士事務所 所長
社会保険労務士
1971年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。
明治安田生命保険(相)、エッカ石油(株)経営情報室長を経て現職。事前法務で企業防衛を中小企業・大企業に提供し、9年間の社会保険労務士業務において顧問先約250社。指導した企業は1000社を超える。自らもエナジャイズコンサルティング(株)代表取締役、社会保険労務士事務所所長として職員15名を抱え、経営者視点の課題解決法を提供する。講演会多数。
<著書>
『なぜあなたの会社の社員はやる気がないのか?―社員のやる気をUPさせる労務管理の基礎のキソ』 日本法令
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策』 日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』 日本法令
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載労働トラブルの敗訴判例から学ぶ「労務管理」のポイント
穴井りゅうじ社会保険労務士事務所 所長
社会保険労務士
1972年生まれ。熊本学園大学経済学部卒業。
(株)地域経済センターにて経済記者として多くの経営者に出会い、経営的観点の労働問題の解決策を発見する。弁護士、弁理士、公認会計士、司法書士、税理士など、多くの専門家と幅広い人脈を持ち、経営者の多種多様な問題にも対応している。現在は、労務問題解決コンサルタントとして120社越のクライアント支援に取り組む。また、実践的と評価の高いセミナーなど、自社および経済団体などで年間30回以上行う。
<著書>
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策』日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』 日本法令
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載労働トラブルの敗訴判例から学ぶ「労務管理」のポイント
神戸三田法律事務所 所長
弁護士
1971年生まれ。私立明星高校、慶応義塾大学総合政策学部卒業。大阪にて弁護士登録後、兵庫県丹波市のひまわり基金法律事務所に所長として2年間赴任し、弁護士過疎問題の解消に取り組む。現在は、下請かけこみ寺(財団法人全国中小企業取引振興協会主催)の相談員、兵庫県三田市商工会専門相談員などを行い、中小企業の法的支援に精力的に取り組んでいる。
<著書>
『織田社労士・羽柴社労士・徳川弁護士が教える労働トラブル対応55の秘策』日本法令
『三国志英雄が解決!問題社員ぶった切り四十八手』日本法令
著者プロフィール詳細
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連載労働トラブルの敗訴判例から学ぶ「労務管理」のポイント