(※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホームへの入居は、老後の安心を得るための選択肢の一つです。ただし入居時に十分だと思えた資金も、夫婦二人分の月額費用や医療費、介護度の変化が重なれば、想定より早く減っていくことがあります。長期化を前提にした見通しが欠かせません。

「貯蓄7,000万円なら大丈夫」そう思って入居したが

隆夫さん(仮名・76歳)と妻の恵子さん(仮名・74歳)は、5年前に夫婦で老人ホームへ入居しました。夫婦の年金は月28万円ほど。現役時代にこつこつ貯めた貯蓄は約7,000万円ありました。

 

自宅は築年数が古く、階段の上り下りも負担になっていました。恵子さんが一度転倒したこともあり、二人は「元気なうちに安心できる場所へ移ろう」と話し合います。

 

「これだけ貯蓄があれば、何とかなるだろう」

 

隆夫さんはそう考えていました。入居したのは、食事や見守りがあり、必要に応じて介護サービスも受けられる有料老人ホームです。入居一時金を支払っても、手元にはまとまった資金が残りました。子どもたちにも「迷惑はかけない」と伝えていました。

 

入居当初の暮らしは穏やかでした。食事は用意され、掃除や洗濯の負担も軽くなります。恵子さんも「家のことを考えなくていいのは楽ね」と笑っていました。隆夫さんは、これで老後の不安はかなり減ったと思っていました。

 

しかし、数年たつと支出は少しずつ膨らみました。月額利用料に加え、介護サービスの自己負担、医療費、薬代、日用品代、理美容代、外部の通院付き添い費用。入居前の説明では聞いていたはずの項目も、毎月の請求書で見ると重く感じられます。

 

「今月、また多いな」

 

隆夫さんが請求書を見ながら言うと、恵子さんは不安そうに尋ねました。

 

「そんなにかかっているの?」

 

特に大きかったのは、恵子さんの介護度が上がったことでした。入居時は自立に近い状態でしたが、転倒後に歩行が不安定になり、介助が必要な場面が増えました。部屋の変更や福祉用具の利用、通院の回数も増えていきました。

 

厚生労働省の介護保険解説では、介護保険施設を利用する場合、サービス費の1割から3割の自己負担のほか、居住費、食費、日常生活費の負担も必要とされています。施設で暮らす費用は、介護サービスの自己負担だけで完結するわけではありません。

 

入居から5年が過ぎたある日、隆夫さんは通帳を見て言葉を失いました。7,000万円あった貯蓄は、想定より早く減っていました。

 

「老後資金は十分あるはずだったのに……」

 

そうつぶやいた隆夫さんは、初めて「この先10年、15年続いたらどうなるのか」と現実的に考え始めたのです。

 

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