セールストークの常套句「損益通算で節税」に注意
不動産所得がマイナスになることで、給与所得と損益通算ができます。正確にいえば、土地購入のための金利負担分は損益通算できませんが、本連載では理解いただくことに重きを置くため、以後、全額損益通算できるものとして書いています。
このため、損益通算により課税所得を圧縮し、所得税・住民税が節税できるというのがセールストークの常套句になっています。たしかに、物件購入初年度に関しては、購入諸費用がかさむため、不動産所得が大きくマイナスになり、給与所得と損益通算が可能です。業者からこの説明を受けた人は、「なるほど新築区分を買うことで、25万円も節税できるのか」と勘違いされるかもしれません。
しかし、前回の事例で取り上げたAさんの、毎月のキャッシュフローが1万2500円のマイナスとなるため、不動産所得もマイナスとなります。詳細の計算は割愛しますが、マイナス額は▲40万円程度になります。それを踏まえて、2年目以降を含めた節税効果をみてみましょう。
(不動産購入前)
課税所得=給与課税所得450万円
→所得税・住民税:100万円
(新築区分マンション購入1年目)
課税所得=給与所得450万円−不動産所得▲100万円=350万円
→所得税・住民税:75万円(節税効果25万円)
(新築区分マンション購入2年目)
課税所得=給与所得450万円−不動産所得▲40万円=410万円
→所得税・住民税:88万円(節税効果12万円)
本来の節税というのは、実際のキャッシュフローや物件の価値と、税法上の評価基準が異なる点に着目し、その結果生じる“ゆがみ”を有効に活用することで得られる差益のようなものです。たとえば、地主がマンションを建てることで、相続税評価額を圧縮して節税を図るなどです。
Aさんの例をみると、初年度は25万円の節税効果はあるように思えますが、そのために100万円以上のキャッシュが出ていっているわけです。Aさんは最終的に利益を手にしたわけではありません。同様に、2年目も12万円の節税を図るために、15万円を負担しているので、トータルでは完全にマイナスです。
さらに、3年目以降はこのマイナスの度合いが大きくなっていきます。そして、この段階になってようやく「あれ? おかしいな?」と気づく人が多いのです。そこで、販売会社に相談すると、笑顔で次のような言葉が返ってきます。「そうしましたら、もう1戸購入し、再度節税を図りましょう」これを何回か繰り返していると、そのうち融資限度枠を使い果たし、返済がままならなくなります。
たとえば年収1000万円の人であれば、アパートローンを利用すれば年収の10倍となる1億円程度の借入をすることは十分可能です。仮に1戸あたり2500万円の物件を購入し、その後、業者の口車に乗って買い増していくと、4戸目で融資限度枠を使い果たします。
新築区分を4戸所有すれば月々の手出しは増え、さらに空室が発生すれば、その分の家賃負担ものしかかります。融資を使って新たな物件を購入することもできなければ、物件自体も数年で市場価格が20〜30%程度は下がるために売るに売れません。
仮に、合計1億円の借入金に対して、4戸合計の売値が6000万円だった場合、残りの4000万円(返済分は考慮せず)を別途現金で用意し、金融機関に一括返済しなければ抵当権を抹消できないのです。
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築浅区分の物件が競売で定期的に供給される理由
昨今の景気上昇の局面においては、物件の値上がりによるキャピタルゲインが得られる、と考える人もいるでしょう。しかし、新築区分で値上がりを期待することはできません。新築区分の価格には、マンションディベロッパーの利益と販売のための経費(人件費、広告宣伝費など)が20〜30%程度含まれています。また、新築区分は所有権が移った瞬間に新古物件扱いとなり、購入検討者が一般投資家に変わり、収支が合う価格での成約となるため、購入した瞬間に売値が20〜30%程度下がることになるからです。
Aさんの物件については、同エリアの類似物件(築5年以内)の平均成約価格は2000万円台でした。2500万円で購入されているので、下落率は25%です。Aさんはフルローンで購入し、手持ちの現預金は200万円しかありません。ですから残債を返済することもできず、毎月マイナスが出ているにもかかわらず売るに売れない状況に陥っていたのです。結局、当面は保有した上で、数年以内に資金を貯めて売却したいとのことでした。
持ち続けることもできなければ、売ることすらできない。この状態になれば、末路は差し押さえ・競売のプロセスをたどることになります。さらに競売で物件が処分されても債務は残るので、最悪の場合、自己破産となります。あまり公開されていませんが、競売情報を覗いてみると、築浅区分マンション物件が定期的に市場に供給されています。それほど被害者が多くいるということです。
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