ビジネス・コミュニケーションだけでは物足りない!?
「前置きなしの『ご宿泊ですか?』は絶対NG」(第2回で解説)で触れたハート・コミュニケーションとビジネス・コミュニケーションについてもう少しお話ししたいと思います。
相手の「存在・ニーズ・気持ち」をacknowledge認識・共感することは、お客様と接客スタッフのあいだだけではなく、家族、恋人、上司と部下のような人間関係においても最も基本となる行為です。
たとえば、一般の企業で起こりうる例でハート・コミュニケーション、ビジネス・コミュニケーションを見てみましょう。大きなプロジェクトをまかされ、いっぱいいっぱいの社員がいるとします。これは女性でも男性でも対応方法は同じ、変わることはありません。
「仕事が手いっぱいで、もうどうにもなりません」
必死の思いで上司にこう訴えてきたスタッフがいます。さて、上司はどのようにこのスタッフと対応するべきなのでしょうか。
上司:じゃあ、AさんかBさんに振ってみようか?
これはスタッフの訴えに対して、すぐに問題解決を図った、上司のテキパキとした対応だと見えないこともありません。しかし、問題解決はありがたいのですが、部下の気持ちはどうにも収まりがよくありません。
部下:(そうじゃなくて……ありがたくないわけではないけど、なんかちょっと違うのよね)
この事例での問題解決とはビジネス・コミュニケーションに相当します。しかし、それを提案する前に、上司は部下の今の状況と気持ちを思いやることもできたのではないでしょうか。それまでの努力を認める必要も、時によってはあるかもしれません。これがまさにハート・コミュニケーションの話になります。
上司:そうか。君のところにはそんなに仕事が集中しちゃったんだね。それは大変だったね。←ハート・コミュニケーション
ここで部下は上司が自分の状況や気持ちを理解してくれたことを知ります。そのことによって自分の悩みや問題がやや軽減されたことを感じます。
上司:じゃあ、やっぱりAさんかBさんに頼んでみようか。
部下の気持ちを思いやった言葉のように見えますが、実は……ハート・コミュニケーションが欠落しています。
部下:いや、そうじゃなくて……私、本当はやりたいんです。何とか続けられる方法はないでしょうか。
上司:じゃあ、AさんかBさんに君の仕事を振ったら、どうだろう。君の仕事はスムーズに運びそうかな。←上司はここで初めて問題解決(ビジネス・コミュニケーション)を口にします。
部下:・いえ、何とか頑張ってみます。
・はい、そうしていただければありがたいです。
このようなプロセスを経て、上司が「相手を認識する」必要性、部下が「相手から認識される」必要性は満たされていくのです。
重要なのは「ハート→ビジネス→ハート」のやりとり
たとえば恋人同士でもこのプロセスは同じです。次のような場面を想像してみましょう
女性:ハイヒール、久しぶりだから、足が痛いなあ。
男性:じゃあ、あそこの靴屋さんで新しい靴を買ったら?←この男性はいきなり問題解決ビジネス・コミュニケーションに舵を切っています。
女性:(そんなことはとっくに考えているわよ。私があなたに言ってほしいのはそんなことじゃないの)←明らかに女性はハート・コミュニケーションの欠落を感じています。
男性:確かに足が痛そうだね。大丈夫?←あたたかな感情を伴ったハート・コミュニケーションの言葉です。
女性:ぺったんこの靴を履いてくればよかった。
男性:あそこに靴屋さんがあるよ。一緒に見てみようか。←ここで初めて問題解決(ビジネス・コミュニケーション)の言葉を述べています。
女性:ええ、そうしてみる。一緒に見てね。
お客様との対応、関わりではハート→ビジネス→ハートの往復があればあるだけ、コミュニケーションは深まります。結果的に、お客様のレビューやフィードバックもよくなります。