飛行機内で荷物の収納を頑なに拒んだ外国人客
<CA時代の私のエピソード>
Aknowledge(3)の「相手の気持ちを認識する(共感する/反応する)」について、過去のエピソードをもとにお話ししてみます。それはまだ私が新人CAの時のことです。
ある日、外国人のお客様が明らかに規定サイズよりも大きいと思われる荷物を機内に持ち込んできました。鞄ではなく段ボール箱。お客様はそれを自分の足元に置いたのです。
そのとき私はお客様に、お荷物を上の荷物入れに移動するように丁重にお願いしました。通常はその一言で、お客様が上の収納棚に荷物を入れてくれるはずでした。私はそうすることに何ら疑いも持ちませんでした。
ところが、私の予想に反し、このお客様はそうすることを頑なに拒んだのです。完全に予想外の成り行きに、新人であり経験などないに等しい私はこの場をどう収拾すべきかまったくわからなくなりました。フライトの出発時間も迫り、お客様に繰り返し「非常の際に荷物が邪魔になるおそれがあるので、上の棚におしまいください」と、言葉を変えては同じ内容を伝えるばかりでした。
状況を察した先輩CAは、近づいてくると私に事情を聞くでもなく、笑顔でお客様に向き合いました。「まあ、大きなお荷物ですね。いったい何が入っているのでしょうねえ」などと言葉をかけながら、お客様と話をしています。そのうちにお客様は、すんなりと荷物を上の棚に移して着席されました。
実は大きな荷物の上げ下げは、CAの腰痛の問題などから基本的にお客様にやっていただくことが通例です。その問題もしっかりクリアした先輩CAから「大丈夫。こんなことはよくあることなのよ」と声をかけられ、不覚にも涙があふれてしまいました。
私はこの問題の対応に明らかに失敗したわけですが、そのときの失敗の原因がどこにあったのか、いったい自分の何が悪かったのか実はわかりませんでした。若くて軽く見られたのかもしれない、私はそんなことに原因を求めていたような気がします。
ルールを先に言うと「上から目線」と取られるケースも
それがはっきりわかったのは、自分が研修に携わるようになってからでした。そのとき、私はお客様の気持ちを考えてはいなかったように思います。「このサイズのお荷物は、上の棚に置くことになっております」表現は違っても、きっとそのようなニュアンスでルールという筋を通そうとしていたのでしょう。
若い私にとって、ルールは守らなければならないもの。相手の気持ちも考えずに、まずルールありきで接していたのだと思います。ルールを先に言うのは、上から目線と取られても仕方のないことです。
第1章内「気持ちよりもルールを優先する日本人」の項目でルール第一と考えがちな日本人の一面を取り上げました(本書籍をご覧ください)。これはカスタマーサービスには決してあってはならないものだと、ようやく気づいたのです。
お客様の気持ちを認識する、共感する、そしてそれを理解したうえで対応していく、これがAcknowledgeです。それに気づけたこと、それがその後の自分にとって非常に大きな財産になりました。