ただ料理を説明するだけでなく、情熱まで伝わる英語を
スペインで伝説と言われるエル・ブジや都内外資系ホテルのレストラン勤務等を経て、シェフ・フードデザイナーとして独立。とにかくお客様に楽しんでもらうことを心がけている。
私は以前、マンダリンオリエンタルホテルのTapasで料理をしていました。料理をするといっても厨房に入ってひたすら料理を作るのと違い、お客様の目が届く8席のカウンター。「モレキュラーバー」といい、化学反応を利用して料理に驚きを演出し、お客様を楽しませるレストランです。「毎日現場」という、非常にエネルギッシュな職場でした。
お客様は、日本人をはじめとして外国人のお客様まで、それこそさまざまです。
私たちが料理をしているのが見えるわけですから、皆様も興味津々。料理の説明はもちろんですが、それ以外にも「本日のお料理」「それに使われる食材」「食べる順序」などを説明しなければなりません。毎回料理が違うのは言うまでもありませんが、料理のイメージによってセンテンスを変えるように心がけました。
このような場に立つと自然と単語を習得できるようになります。しかし、私たちに必要なのは、コミュニケーションを取りながら、きれいな仕事をすることです。
大げさな言い方になりますが、料理にもエンタテインメント性が必要であることも実感しました。外国人のお客様は貪欲です。Wha’tsthat?「それは何ですか?」のように答えがひとつの問いではなくWhy…?「なぜ?」やHow…?「どのように」と聞かれることが実は断然多いのです。
私は、そのままの説明にとどまらずプラスαで答えること、サービス精神が必要であることを研修と経験から学びました。また抑揚のない英語ではこちらの熱量は十分には伝わりません。
カウンターでお客様をお迎えするのも単なる定型文だけではつまらない。「先手、先手」で攻めていくイメージと言えばいいかもしれません。こうすることで多くのリピーターが望めることもわかってきました。
お料理を出す場合も「熱いのでお気をつけて」などちょっとしたフレーズを使うことでコミュニケーションも広がります。もちろん、料理に工夫はいわずもがなです。このあたりは舞台演出として心得ています。
足りないところは、もてなす気持ちや表情で補完
そのようなプロセスの中で、私はよりサービスを進化させたいと思い、仲間たちと研修を受けました。研修は実践的でした。皆、非常にモチベーションが高かったですね。
英語へのモチベーションが高く、きめ細かなサービスの必要性を肌で感じたり、海外に目を向けたりしている人が多かったので、研修後はシェフ同士、スタッフ間との会話を英語だけで進めたりと皆で積極的に取り組みました。とにかく条件反射で話せるようになることを心がけました。
私は実は、サービスは結果オーライだと思っています。私たちは英語のプロではありません。すべてを理解してもらうレベルではないにせよ、足りないところは、もてなす気持ちや表情で補完していければいいと考えています。
私は「もてなしの心」は相手がこう考えているのだろうと、気持ちを読んでこちらから発信していく。「私はお客様の気持ちに気づいています、理解しています」と発信することができるかどうかが「サービス」の鍵だと思っています。
以前には、スペイン料理に興味を持ってバルセロナで修業したこともあります。
今年、私は自分の店を持つことになりました。今まで培ってきた経験を生かして、小さくて土台のしっかりした強いお店を目指します。これは私の次なるチャレンジ。今は身の引き締まる思いです。