取引が行われた時点で記録する『発生主義』の考え方
「試算表を見れば、会社のお金の状態がわかる」
多くの経営者がこのように感じているでしょう。しかし試算表はあくまで目安であり、実際の利益を正確に表すものではありません。
前回、売上が発生した直後にお金が入るのではなく、数カ月のタイムラグがあることをお伝えしました。しかし会計のルールでは、取引が行われた時点で記録する『発生主義』の考え方に基づいています。
売上金が入るのは数カ月後で、約2カ月間は1800万円の赤字状態であっても、商品が「売れた」時点で帳簿に記載されるため、200万円の黒字になるのです。
このように、財務諸表の数字と実際の損益には、必ずズレが生じます。
売上の他にも、会計上の数字と実際の損益が異なるケースがあります。とくに次のような科目は、注意が必要です。
資金繰りに大きな影響はないはずの減価償却だが・・・
【棚卸高】
棚卸しは毎月欠かさず行うことが理想ですが、手間も時間もかかるためにほとんどの会社は期末時期しか行っていません。とくに中小企業の多くは、前期末の棚卸金額をそのまま今期の試算表の棚卸金額に計上しています。要するに期中では、現在の在庫の姿を正確には把握できていないのです。
在庫の商品を売りに出したとき、いくらで買ってもらえるのか。
それは実際に売ってみなければ分かりません。こちらが売りたい金額で買ってもらえなければ、値下げをするしかありません。その結果、帳簿の金額よりも少なくなれば、実際の利益は下がります。逆に、仕入れがかさみ、期末の在庫は期初よりも多くなってしまい、一見利益が多く出ているように見えてしまいますが、その分仕入代金分の現金は減少していることから資金繰りはきつくなってしまいます。
【減価償却費】
減価償却費を期末の決算時にまとめて計上している場合、試算表には期中の償却費を計上していないケースが多々見受けられます。また、年間の予想減価償却費を12カ月で期間案分して、毎月計上しているケースもありますが、理想は期初に分かっている年間の減価償却費の予定額を12カ月で按分して毎月のコストとして認識することです。
しかし期中に資産の取得や売却を行った場合、最終的な年間償却額は当初の見積額と異なります。たとえば期中に売却した場合は、期首から売却日までの間の減価償却費を計上しなければならないのです。
減価償却はキャッシュアウトしない費用であるため、資金繰りに大きな影響はありません。しかし多数の償却資産を所有している場合は、損益が大きく変動する可能性があります。
【仮払金、立替金、貸付金】
仮払金は、一定金額を事前に支給し、後に実費として発生した費用の領収書および釣り銭を回収して精算します。支給時に「その他流動資産」に位置づけられますが、精算した時点で本来の勘定科目に振り替えます。
立替金は、一時的な金銭の立替えです。速やかに返済されるべき費用であるため、1年以内に回収が可能である「流動資産」として扱いますが、返済が滞っている場合は貸付金として処理をします。
貸付金は、貸し付けたときは資産として計上しますが、返済を受けたときは貸付金を減少させます。
このように仮払金、立替金、貸付金は一度資産として計上されるものですが、状況に応じて処理が必要になります。一方、清算を未処理にしておいたままにすれば仮払金等の資産は増えることになりますが、キャッシュアウトした現金は減少していきます。また、本来は費用として損金として認識しなければならないのに、未処理では損金にならないために本来の損益の姿が歪んできます。