会計上では黒字経営だが・・・
会社の資金繰りが苦しくなる理由のひとつに「取引先の倒産による売掛金の不良債権化」があります。
これは会社の成長期によくあるパターンです。
売上が伸びて会社の利益が増えてくると、商品数を増やしたり、新規事業を始めたりします。すると自然に、取引先の数も増えていきます。業種によっては1社との取引額も増えるでしょう。
取引先が急に増えたとき、おろそかになりがちなのが「与信管理」です。
会社間の取引は、通常「信用取引」で行われます。商品を先に渡して、代金は後で回収されます。このとき、商品の販売者は取引先に対して代金を回収するまで「信用を与える」状態になります。これを「与信」と言います。銀行の融資も「与信」行為と言えます。
そして信用を与えている間の売上債権を管理することを「与信管理」と言います。取引先の経営状態から「債権が回収不能にならないかどうか」を判断し、危険性に応じて取引の条件や与信金額を管理していくのです。
「与信金額の増加」=「売掛金の増加」は、不良債権の発生リスクを高めます。より慎重に与信管理を行わなければいけません。もしも取引先から「分割で払わせてほしい」「来月分と合わせて支払いたい」などという申し出があった場合は、経営不振に陥っている可能性があるため、与信限度額を減らす、取引条件を見直すなどの対策が必要になります。
事業が軌道に乗る前の「代金の受け取りが1日でも遅れたら資金繰りがショートする」という状態であれば、そうした申し出はできるかぎり断っていたはずです。ところが利益が増えると気が大きくなり「1回くらい遅れても大丈夫」「3回以内の分割なら問題ない」と、軽い気持ちで承諾してしまいます。
もちろん、支払いが遅れても、分割されても、売掛金はすべて計上されているので、会計上では黒字経営が続いています。
未回収の売掛金が増えれば、当然、資金が不足します。
そのとき初めて、売掛金が回収不能になり、多額の不良債権を抱えてしまったことに気付くのです。
貸倒損失を計上しない経営者の末路
また、このようなケースもあります。
A社と2000万円、C社と3000万円の取引が成立して、帳簿には5000万円の売掛金が計上されました。
ところが支払日前にC社が倒産し、売掛金の回収はほぼ不可能になってしまいました。このとき、3000万円を「貸倒損失」として処理しなければいけません。
しかし3000万円の貸倒損失を計上すると、決算書が赤字になってしまいます。
そこで、あえて貸倒の処理をしない経営者がいます。決算書が赤字になると、金融機関からの融資が受けにくくなるからです。
決算書を黒字にして、取引銀行に赤字転落したことを報告しない。しかし、資金繰りはタイトになってきている。
すると、どうなると思いますか。
経営者自身が「黒字を維持している」と錯覚してしまうのです。
赤字の会社が危機感をなくせば、あっという間に倒産してしまいます。