「あなたの退職後も、私が全部やるの?」妻が家を出た理由
修一さんは慌てて妻に電話をかけました。
「どういうことだ。何か怒っているのか?」
由美子さんは落ち着いた声で答えました。
「前から話していたでしょう。あなたが退職したら、家のことを分担したいって」
修一さんには、その言葉に心当たりがありました。由美子さんは数ヵ月前から、退職後の家事について何度か相談していたのです。
「お昼ご飯は自分で用意してほしい」「平日の掃除と買い物を少し担当してほしい」。そんな話をされたとき、修一さんは「退職してから考えればいい」と答えていました。
一方、由美子さんは、夫の退職後も自分が3食の準備や掃除、洗濯を担うことになるのではないかと心配していました。
「あなたは仕事が終わったけど、私はパートも家事も続くの。毎日家にいるなら、少しは自分のことをしてほしい」
結婚して35年。修一さんが平日に家事をすることは、ほとんどありませんでした。由美子さんも以前はフルタイムで働いていましたが、子育て期に勤務時間を短くして以来、家事の大部分を担ってきたといいます。
総務省『令和3年社会生活基本調査』によると、6歳未満の子どもがいる夫婦の1日当たりの家事関連時間は、夫が1時間54分、妻が7時間28分でした。子育て世帯を対象とした数値ですが、家庭内での家事負担の差を示すデータです。
由美子さんは、退職した夫が家にいる時間を利用して、これまでの役割分担を変えたいと考えていました。
「姉の家には数日だけお世話になるつもり。私がいない間に、自分で生活してみてほしいの」
修一さんは、妻が以前から相談していたことを思い出し、何も答えられませんでした。
その日の昼食は、冷蔵庫にあった卵と食パンで済ませました。夕方には洗濯機を回しましたが、洗剤の量を確認するところから始めることに。翌朝には、ごみの収集日さえ把握していなかったと気づきます。
3日後、由美子さんが帰宅すると、修一さんは自分から話を切り出しました。
「これまで任せきりだった。これからは俺も家のことをやる」
2人は家事の内容を書き出し、平日の昼食は各自で用意すること、修一さんが掃除機がけと買い物を担当することなどを決めました。
由美子さんも、パート勤務を続けながら、週に一度は友人と出かける時間を持つことにしたそうです。
「妻は家事が嫌になったというより、私が何も考えていなかったことに腹が立ったんでしょうね」
修一さんは、そう振り返ります。
定年退職によって夫婦の生活時間は大きく変わります。仕事を終えた人が休息や趣味を楽しむ一方で、配偶者にはこれまでと同じ家事や仕事が残っている場合もあるでしょう。退職後の暮らしを具体的に話し合い、家事や自由時間の使い方を見直しておくことが、夫婦双方にとって心地よい生活につながります。
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