3. 「お前に頭を下げているのではない。お前が座っている椅子に頭を下げているのだ」
これも検事1年目のときに上司あるいは先輩検事から言われたことです。要するに、自分が偉いと勘違いするな、偉ぶるな、ということです。検察事務官や事件関係者との関係でも当てはまりますが、ここでは警察との関係で御説明します。
刑事部で取り扱う事件は基本的に警察送致・送付事件であり、警察送致・送付事件において、検事は刑事訴訟法に基づく具体的指揮権の行使として、警察の担当者に補充捜査を依頼することが通常です。20代半ばの若者が自分よりも年長で豊富な捜査経験のある警察官に捜査をお願い(「指揮」)するのですから、「検事だなんだ」と威張っているだけでは、警察の担当者は思うように動いてくれません。警察の担当者がその補充捜査の必要性や捜査事項・方法等の相当性について心底納得してくれるよう十分に説明して、その理解を得ながら進めていく必要があります。また、警察と一緒に協力して真実を解明していくのだというスタンスで臨む必要があります。
その関連ですが、当時、上司や先輩検事からは、「被疑者や参考人取調べ等のために時間があったら所轄警察署になるべく出向いて、調べが終わったら一緒に酒を飲んで来い」、「警察に無駄な捜査をさせるな。特に潰す事件(不起訴にする事件)で潰すための捜査を警察に絶対に頼むな」などという指導もされました。
余談ですが、所轄署に取調べに行って警察の担当者と一緒に酒を飲むことは、当時の私のような若い検事にとって大変得るものが大きかったと思います。20代半ばの駆け出しの検事であっても、また、たとえ「小さい」事件であっても(本当は、被害者や被疑者の立場に立てば事件に大きいも小さいもないですが…)、所轄署に通って被疑者等の取調べを一生懸命やっていると、「あの検事は若いのに熱心じゃないか。俺たちの事件を大切にしてくれるじゃないか」となって、2回目か3回目の所轄署調べになってくると、取調べが終わった後の夜、缶ビールや日本酒一升瓶と乾き物で慰労会を開催してくれるようになります。そうした慰労会で警察の担当者との信頼関係が深まり、捜査指揮も円滑になります。また、ベテランの警察官から、過去の事件での捜査上の苦労話や、誰々検事は偉かったよ(捜査指揮や見通しが極めて的確だった等の趣旨)といった話、昔の子供の誘拐殺人事件で被疑者を割った(自白させた)著名な警察官の取調べ手法や、被疑者の故郷を訪れたら被疑者に土産を買って帰るといった捜査1課で語り継がれていた話など、いろいろなことを教えてもらいました。昨今、心理的安全性や物を言いやすい組織風土を作るかについて関心が強まっていますが、「飲みニケーション」は、アルハラなどにならない限りは、大変有益だと思います。
4. 「検事が偉そうに出て行くな。こういうときは所轄の警察署に花を持たせるもんだ」
警察との関係といえば、この先輩検事から受けたアドバイスは御紹介しておきたいと思います。以前、TBSの岩花光記者から受けたインタビューの中でお話ししたので、具体的にはその記事※6を御参照頂ければ、と思いますが、検事1年目のとき、警視庁管内で幼女を狙った強制わいせつ事件があって、被疑者が否認していたのを所轄警察署に連日通い詰めて取調べを行って、複数の余罪も含めて自白してもらった際に、先輩検事から言われたことです。一言で言えば、「警察があってこその検察である」ということです。
※6 岩花光「なぜ警視庁幹部はワイロを受け取っていたのか、見返りは・・・小池隆一事件の「ブツ読み」から浮上した前代未聞の警官汚職―平成事件史 戦後最大の総会屋事件(15)」(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1335108?display=1)
5. 筋読み:捜査は仮説とその検証である
これもよく言われることです。捜査は、断片的な情報と証拠から仮説を立て、さらに取調べや客観証拠の収集・検討を重ねることによって、その仮説を修正し、あるいは差し替えながら真相にたどり着いていく営みです。事件が複雑になればなるほど、例えば贈収賄事件などでは典型的ですが、どこに重点を置いて調べるべきか、誰から話を聞くべきか等を見極めるためには、一定の仮説を立て、いわば「筋」を作りながら捜査を進めていく必要があります。つまり、捜査とは仮説とその検証なのです。特に特捜部の捜査ではこの「筋読み」が重要であると言われていましたが、このことは殺人事件などの刑事事件一般にも当てはまることです。
