「お金がないから使わない」わけではなかった
娘からすれば、両親は「老後のお金が足りないから節約している」としか見えませんでした。しかし、実際には「お金の使い方がわからない」という、定年世代特有の心理が隠されていました。
30年以上も節約して貯蓄したり、ローンを返したりすることを目標に生きてきた夫婦にとって、急にお金を使えと言われても使い方がわかりません。さらに、定年して定期収入がなくなったことで「資産が減っていく恐怖」にも苛まれていました。
そのうえ田中さんが毎日家にいるため、裕子さんは毎食の準備に追われ、旅行やレジャーを計画する心の余裕すら奪われていたのです。
こうした「お金を使えない高齢者」の問題は、田中さん夫婦に限ったことではありません。内閣府「経済財政白書(令和6年度)」のなかでも、日本の高齢者が抱えるこの問題が浮き彫りになっています。
本来であれば、定年後はそれまで蓄えてきた資産を少しずつ取り崩して豊かな老後を送るのが一般的と考えられていますが、現実は違います。白書の分析によると、65歳を過ぎても年齢とともに資産が減っていく傾向はほとんど見られません。
高齢者の多くが、月々の公的年金や退職後の収入といった「その月の収入の範囲内」でやりくりしようとするため、せっかく貯めたまとまった資産には手をつけないまま生活している実態が見て取れます。
