何の心配もない老後を送っているように見える夫婦の「隠し事」
白い外壁に大きな窓。庭もきれいに手入れされた一戸建ては、近所でも「素敵なお宅」と評判です。住んでいるのは、元会社員・高橋英治さん(仮名)と妻の美佐子さん(仮名)、ともに68歳です。
英治さんは定年後も再雇用で働き、現在は夫婦合わせて月27万円の年金を受給。貯蓄は約3,200万円あり、住宅ローンもすでに完済しています。
「世間からは、恵まれているように見えるのかもしれません」
そう話す高橋さんですが、実は誰にも話せずにいる問題がありました。それは、2階の突き当たりにある一室。その部屋で暮らしているのは、夫婦の長男・健吾さん(42歳)。
健吾さんは、かつて両親にとって「自慢の息子」でした。
地元では進学校に通い、大学を卒業すると大手メーカーに就職。結婚こそまだでしたが、将来は安泰だと夫婦ともに思っていました。ところが、30歳を過ぎたころ、少しずつ様子が変わっていきます。
部署異動を機に会社を休みがちになった健吾さん。やむなく退職すると、しばらくは再就職を目指していました。
「最初は、そのうち働き始めるだろうと思っていました。あんなにしっかりした子でしたから」
しかし結局、再就職はしないまま。日中はほとんど自室にこもり、家族と顔を合わせることもほとんどありません。高橋さん夫婦は、健吾さんの変化をなかなか受け入れられませんでした。
「子育てに失敗したと思われるのが怖かったんです。昔の健吾を知っている人ほど、今の姿を知られたくありませんでした」
そんな思いから、夫婦は長男の実情を隠すようになりました。
しかし年金生活に入ったことで、夫婦は現実を直視せざるを得なくなりました。夫婦2人なら、月27万円の年金と3,200万円の貯蓄で、ある程度ゆとりを持った生活を送れます。
しかし、42歳になった息子が今後も働かず夫婦のお金で生活を続けるとしたら――。そのお金で十分かどうかはわかりませんでした。
長年考えないようにしてきた問題。けれど老後に入り、時間が経つほど、問題を先送りすることへの不安は大きくなっていったのです。
