「好きな野菜を好きなだけ作れる」念願だった庭付きの家
「庭で野菜を育てたいんだ。スーパーで買うんじゃなくて、自分で作ったものを食べたい」
そう話していたのは、会社員を退職した和夫さん(71歳・仮名)です。
妻の恵美子さん(69歳・仮名)との年金収入は月約18万円。金融資産は約1,700万円ありました。
夫婦が長く暮らしてきたのは首都圏のマンションです。子どもはすでに独立し、長女の由佳さん(42歳・仮名)は夫と子どもと暮らしています。
和夫さんが退職して数年が経ったころ、夫婦は地方への移住を考えるようになりました。きっかけは、旅行先で立ち寄った直売所でした。
「こういうところに住んだら、毎朝採れた野菜を食べられるね」
最初はそんな雑談だったといいます。
やがて物件を探し始め、選んだのは地方都市の中心部から車で20分ほど離れた地域にある中古一戸建て。スーパーまでは車で10分ほどかかりますが、庭は広く、一角には以前の所有者が畑として使っていたスペースもありました。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、65歳以上が住まいや地域の環境で重視することとして、「豊かな自然に囲まれていること、または静かであること」を挙げた人は30.9%でした。一方、「駅や商店街が近く、移動や買い物が便利にできること」は54.1%、「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」は61.4%に上ります。
夫婦も買い物や通院の距離は確認したうえで、「まだ2人とも運転できるから」と移住を決めました。
春に引っ越すと、和夫さんはすぐに畑仕事を始めます。
トマト、ナス、キュウリ、ピーマン。ホームセンターへ行くたびに苗が増え、畑として使う場所も少しずつ広がりました。
恵美子さんが「そんなに作って食べきれるの?」と笑うと、「余ったら近所にあげればいいよ」と和夫さん。
初夏にはキュウリやナスが次々と採れ、写真が家族のグループチャットに送られてきました。由佳さんも、「思っていたより楽しそうで安心した」といいます。
ところが、夏に入ると写真がほとんど送られてこなくなりました。
由佳さんが電話をすると、「暑いから畑は朝だけ」「野菜はちゃんとできてるよ」と和夫さんは答えます。その言葉を、由佳さんは特に気に留めませんでした。
