「いつからこうなってる?」久しぶりの実家で息子が見た光景
「冬を迎える前になんとかしないと」
そう考えたのは、48歳の長男・直樹さん(仮名)でした。
両親は、父・正志さん(76歳・仮名)と母・洋子さん(74歳・仮名)。夫婦合わせて月約18万円の年金で暮らしています。
自宅は約35年前に購入した郊外の戸建て。住宅ローンは完済済みです。
直樹さんは車で1時間半ほど離れた場所に住み、月に1回程度は両親の様子を見に行っていました。ただ、仕事が忙しく、夏の間は2ヵ月ほど実家へ行けなかったそうです。
9月下旬、久しぶりに玄関を開けると、以前とは違う光景が広がっていました。
居間のテーブルにはスーパーの弁当容器が積まれ、床には空になった酒瓶が数本。洗濯物は室内に干したままで、郵便物も棚の上に重なっています。
「これ、いつからこうなってる?」
直樹さんが聞くと、洋子さんは「ちょっと片付けてないだけよ」と答えました。
話を聞くうちに、生活の変化が見えてきます。正志さんは前年に膝を痛めてから歩く距離が減り、近所のスーパーにもあまり行かなくなりました。車の運転もやめています。
代わりに買い物を担っていた洋子さんも、重い荷物を持って15分ほど歩くのがつらくなっていました。そのため、買い物は週に数回。調理する日が減り、スーパーの弁当や総菜をまとめて買うようになります。
正志さんは夕食時に酒を飲む習慣があり、飲み終えた瓶も「今度まとめて捨てる」と置いたままになっていました。
「お母さん、掃除は?」
「やってるわよ。でも、全部はできないの」
直樹さんは、その返事で初めて事情が分かったといいます。
両親が急に生活を投げ出したのではありません。2人とも少しずつ「できないこと」が増え、それを補いながら暮らしているうちに、家全体を管理しきれなくなっていたのです。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、現在の住居について「住まいが古くなり、いたんでいる」と答えた人は29.5%。「断熱性や省エネ性能が不十分」は16.9%、「段差や階段等があり使いにくい」は12.7%でした。地域についても「日常の買い物に不便」が23.9%、「医院や病院への通院に不便」が23.8%、「交通機関が高齢者には使いにくい、または整備されていない」が21.5%に上ります。
直樹さんがさらに気になったのが、これから来る冬でした。実家は築35年。居間以外の廊下や脱衣所は冬になるとかなり冷えます。
「去年も寒かったでしょう。今年は大丈夫なの?」
そう聞くと、洋子さんは「暖房をつければ平気よ」と答えました。しかし直樹さんには、もう「今まで大丈夫だったから」で済ませられる状態には見えませんでした。
