「明日から毎日いるんだよね」最終出勤日、妻が切り出したこと
「今日で本当に最後か。長かったな」
65歳の誕生日を迎えた月の末、正志さん(仮名・65歳)は約40年間勤めた会社で最後の勤務を終えました。
60歳でいったん定年を迎えた後も、同じ会社で再雇用されて5年間勤務。この日をもって完全に退職することにしていました。
高年齢者雇用安定法では、定年を65歳未満としている企業に対し、65歳までの定年引き上げや継続雇用制度の導入など、雇用を確保する措置が義務付けられています。65歳以降についても、70歳までの就業機会を確保することが企業の努力義務となっています。
正志さんの場合、会社からはさらに働く選択肢も提示されていましたが、「一区切りつけたい」と退職を決めました。
帰宅すると、妻の和美さん(仮名・63歳)が夕食を用意していました。
「お疲れさま。40年、本当に大変だったね」
正志さんはビールを開けながら、「明日からはゆっくりできるよ。朝も好きなだけ寝られるし」と笑いました。
和美さんは、「そうだね。でも今日からは、家のことも少し変えようね」と言いました。正志さんは、何の話かすぐには分かりませんでした。
「家のことって?」
「あなた、これから毎日家にいるでしょう。今までと同じように、朝昼晩のご飯も掃除も私が全部やるのは違うと思うの」
和美さんは週3日、近所の事務所でパート勤務をしています。それ以外の日も友人と出かけたり、趣味の教室へ通ったりしていました。
それでも現役時代の正志さんは朝早く出勤し、帰宅も遅かったため、炊事や洗濯、掃除などの家事はほとんど和美さんが担当してきました。
「でも、家事は今までずっとやってくれてたじゃない」
正志さんがそう言うと、和美さんは、
「今まではあなたが一日中仕事だったからでしょう。これから生活が変わるなら、家の中も同じままじゃなくていいと思う」
と答えました。
総務省『令和3年社会生活基本調査』では、夫婦の家事関連時間には依然として男女差がみられます。たとえば6歳未満の子どもがいる夫婦では、夫の家事関連時間は妻より短く、家事の負担が女性側に偏る傾向が示されています。世代や家族構成によって状況は異なりますが、家庭内の役割分担には男女差が残っています。
正志さん自身、「退職したら何をしようか」は考えていました。ゴルフ、旅行、読書。時間ができたらやりたいことはいくつもあります。
しかし、その時間が増えることで妻の生活がどう変わるかまでは、ほとんど考えていませんでした。
