「あと10年は住めるよ」夫が住み替えに乗り気でなかった理由
「別に、あの家で困っていたわけじゃないんです」
そう話すのは、71歳の雅彦さん(仮名)です。70歳の妻・由紀子さん(仮名)と2人で暮らしています。
夫婦が30年以上暮らしてきたのは、首都圏郊外にある4LDKの戸建てでした。
子ども2人を育てるため、雅彦さんが30代のころに購入。住宅ローンは60代になる前に完済しています。
夫婦の公的年金は合わせて月約35万円。退職金などを含め、預貯金や金融資産は約5,200万円ありました。
子どもたちはすでに独立し、現在は夫婦2人です。
最寄り駅までは徒歩25分ほど。スーパーへは車で10分、かかりつけの病院にも車で15分程度でした。夫婦とも運転免許を持ち、週に何度か車で買い物へ出かけます。
由紀子さんが住み替えの話を初めて出したのは、70歳を迎えたころでした。
「駅の近くのマンションに移るのもいいんじゃない?」
雅彦さんは乗り気ではありませんでした。
「まだ運転できるし、あと10年くらいはここでいいだろう」
庭はそれほど広くありません。階段の上り下りにも苦労しておらず、日常生活で不便を感じる場面もほとんどありませんでした。
ところが、その数ヵ月後、雅彦さんの考えを変える出来事がありました。近所に住む70代後半の知人が、運転免許を返納したのです。
以前は夫婦で車に乗って買い物や外食へ出かけていましたが、免許返納後は駅までバスを利用するようになりました。本数は1時間に2本ほど。
知人は雅彦さんに、「車がなくなったら、思っていたより面倒だったよ」と話したそうです。
雅彦さんが気になったのは、移動の問題だけではありませんでした。知人も住み替えを考え始めたものの、長年住んだ家には大量の荷物があります。「片付けようと思っても疲れてしまって、なかなか進まない」と聞きました。
帰宅した雅彦さんは、2階にあるかつての子ども部屋を見回しました。使わなくなった家具、古い本、子どもたちが置いていった荷物。物置にも、何年も使っていないアウトドア用品や工具があります。
「これを80歳になってから全部片付けるのかと思ったら、それは大変だなと初めて思ったんです」
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、60歳以上が住まいや地域の環境について重視することでは、「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」が61.4%で最多でした。「駅や商店街が近く、移動や買い物が便利にできること」も54.1%、「高齢者向けに設計されていること」は41.4%に上ります。
また、現在の地域で不便・気になることとして、「日常の買い物に不便」は23.9%、「医院や病院への通院に不便」は23.8%、「交通機関が高齢者には使いにくい、または整備されていない」は21.5%でした。
夫婦は、「住めなくなったら引っ越す」ではなく、その前に一度、新しい住まいを探してみることにしました。
