(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢になった親を気にかけ、子どもが自宅の合鍵を渡している家庭もあるでしょう。体調不良など、いざというときには役立ちますが、合鍵を持っているからといって、いつでも自由に出入りしていいわけではありません。渡した側と受け取った側で、鍵を使っていい場面の認識がずれていることもあります。

「鍵、持ってるんだもの」母の一言で変わったこと

直樹さんには、妻の言葉が意外でした。

 

「そんなに嫌だった?」

 

「お義母さんが嫌なんじゃないよ。でも、いつ来るか分からないでしょう。家にいるのに、ずっと誰かが来るかもしれないと思ってしまうの」

 

恵理子さんにとって自宅は、人を迎える準備をせずに過ごせる場所でもありました。

 

部屋が多少散らかっていても構いません。昼食を簡単に済ませる日もあれば、休日の午前中を部屋着のまま過ごすこともあります。

 

ところが、いつ玄関が開くか分からなくなってからは、そうした時間にも落ち着かなくなっていたのです。

 

直樹さんはそこで初めて、母と話すことにしました。次に芳江さんが来たとき、

 

「母さん、来る前に電話してくれない?」

 

と伝えました。

 

芳江さんは不思議そうな顔をしました。

 

「どうして? 鍵、持ってるんだもの」

 

その一言に、直樹さんは言葉に詰まりました。芳江さんにとって、息子の家はいつでも訪ねていい場所になっていました。

 

「鍵は何かあったときのために渡したんだよ。俺たちにも予定があるから」

 

そう説明すると、芳江さんは、

 

「前はそんなこと言わなかったじゃない。あなたが仕事を辞めて家にいるようになったから、行ってもいいと思ってたのよ」

 

と答えました。

 

そこで直樹さんは、母が頻繁に訪ねるようになった理由にも気づきました。自分が退職したことで、「息子は家にいる」「時間がある」と受け止められていたのです。

 

その後、芳江さんから合鍵を取り上げることはしませんでした。高齢の母が一人で暮らしている以上、緊急時に鍵を持っている意味はあると考えたからです。

 

ただし、「訪ねるときは前日までに連絡する」「返事がなければ勝手に入らない」と決めました。

 

最初のうち、芳江さんは「家族なのにずいぶん堅苦しいのね」と不満そうでした。それでも何度か繰り返すうちに、電話をしてから訪ねてくるようになったといいます。

 

直樹さん自身も、週に一度は母へ電話をし、ときには自分から実家へ顔を出すようになりました。

 

親が高齢になると、子どもが合鍵を預けたり、互いの家を行き来したりする機会が増えることがあります。一方、子どもが退職して自宅にいる時間が増えたからといって、いつでも家族を迎えられるわけではありません。

 

合鍵を渡した目的や、訪問するときの連絡については、家族の間でも受け止め方が異なることがあります。それまで問題にならなかった習慣でも、生活環境が変われば、改めて話し合う必要が出てくることがあります。

 

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