相続放棄すれば、子供たちに渡せると思っていました…102歳祖母の資産〈約2億円〉を前に70代夫婦が知った「思わぬ落とし穴」【相続実務士が解説】

相続放棄すれば、子供たちに渡せると思っていました…102歳祖母の資産〈約2億円〉を前に70代夫婦が知った「思わぬ落とし穴」【相続実務士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「私たちはもういい。子どもたちに残したい」──。102歳の祖母が持つ約2億円の財産を前に、70代の夫婦は自分たちが相続するのではなく、次の世代へ引き継ぎたいと考えていました。そこで思いついたのが「相続放棄」でしたが、実はそこには思わぬ落とし穴がありました。ある家族の事例から、相続実務士の曽根恵子さんが解説します

子ども世代を飛ばし、孫やひ孫へ財産を遺贈

提案したのは、公正証書遺言によって、祖母の財産をNさんたち孫やひ孫などへ直接遺贈する方法です。いわゆる「世代を飛ばした資産承継」です。

 

通常、子どもが健在であるにもかかわらず孫が遺贈によって財産を取得した場合、原則として、その孫の相続税額には2割が加算されます。

 

一見すると、税負担が増えるため不利に思えます。

 

しかし今回の家族の場合、子ども世代はすでに70代で、多額の資産を保有しています。

 

祖母から子どもへ、さらに子どもから孫へと2回の相続を経るよりも、祖母から孫世代へ直接財産を渡すほうが、将来の二次相続まで含めた家族全体の税負担を抑えられる可能性がありました。

 

そこで、目先の相続税だけではなく、次の相続まで含めてシミュレーションし、財産を受け取る人や取得割合を検討しました。

生前に必要な費用を支払い、財産を整理

相続対策に必要となるコンサルティング費用などについても、祖母が元気なうちに契約し、生前に支払いを済ませることにしました。

 

今回のコンサルティングフィーは約400万円です。

 

相続発生後に相続人が負担する費用のなかには、相続税を計算する際の債務控除の対象にならないものもあります。

 

そこで、祖母自身の相続対策として生前に提供されたサービスについては、生前に契約・支払いを済ませ、契約書や領収書などの資料も残しました。

病室での「出張遺言」を手配

祖母は入院していたため、公証役場へ出向くことはできません。

 

そこで、公証人と証人2人が病院へ出向き、病室で公正証書遺言を作成する段取りを整えました。

 

大切なのは、祖母本人が内容を理解し、自分の意思として伝えられることです。Nさんたちにも協力してもらい、事前に祖母へ遺言の内容を確認しました。

 

「家やお金を、いつも世話をしてくれている孫たちに残すということでいい?」

 

祖母は自分の意思をしっかり伝えることができました。

102歳で公正証書遺言が完成

公正証書遺言を作成する当日。

 

病室には祖母、公証人、証人2人が入り、相続人となる家族はいったん室外へ出ました。公証人が祖母本人へ遺言の内容について確認すると、祖母はしっかりと答えました。

 

「孫たちに譲ります」

 

署名・押印も本人が行い、公正証書遺言は無事完成しました。102歳での公正証書遺言作成は、当社でも最高齢の事例となりました。

103歳で逝去。遺言に沿って財産を承継

その後、祖母は103歳で亡くなりました。

 

生前に公正証書遺言を作成していたため、誰がどの財産を受け取るのかについて、改めて家族で遺産分割を話し合う必要はありませんでした。

 

祖母が暮らしていた自宅の土地や駐車場なども、遺言の内容に沿って孫世代へ名義変更することができました。

 

父親や母親にいったん財産を集めることなく、祖母が望んだ世代へ資産を承継することができたのです。

 

【相続実務士の視点】目先の「2割加算」だけで判断しない

「孫に財産を渡すと相続税が2割増しになる」

 

そう聞けば、孫への遺贈は損だと考えてしまうかもしれません。

 

確かに、子どもが健在のまま孫が遺贈を受ける場合、原則として相続税の2割加算の対象となります。

 

しかし、相続対策で見るべきなのは、今回の相続だけではありません。

 

今回のように子ども世代がすでに70代で、十分な資産を持っている場合、数年後、十数年後には次の相続が発生する可能性があります。

 

そこで、「今回いくら相続税を払うのか」だけではなく、「次の相続まで含めて、家族全体でいくら負担することになるのか」という視点が必要です。

 

場合によっては、目先の2割加算を負担してでも世代を1つ飛ばしたほうが、トータルの負担を抑えられるケースがあります。

相続対策は「いつ実行するか」も重要

相続対策では、何をするかだけでなく、いつ実行するかも重要です。

 

今回、102歳という年齢でも公正証書遺言を作成できたのは、祖母自身に意思を伝える力が残っているうちに家族が行動したからです。

 

「まだ元気だから大丈夫」

「もう高齢だから何もできない」

 

どちらも決めつけるべきではありません。

 

本人の意思を確認できるうちに、財産の状況と家族の希望を整理し、必要な手続きを進めることが大切です。

「誰に残したいか」から逆算する

相続対策というと、どうしても「相続税をいくら減らせるか」に目が向きがちです。しかし今回の出発点は、節税ではありませんでした。

 

「自分たちはもう十分に財産を持っている。祖母の世話をしてきた次の世代へ直接残してあげたい」という家族の思いです。

 

その希望を実現するために、相続放棄ではなく遺言を選び、さらに二次相続まで含めて税負担を検討しました。

 

相続は、法律上の順番に任せておけば、必ずしも家族が望む形になるとは限りません。だからこそ、本人が元気なうちに「誰に、何を、どのように残したいのか」を明確にし、その意思から逆算して方法を選ぶことが重要なのです。

 

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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